降格危機の古巣へ…米国から「連絡は取っています」 活躍で「エネルギー与えられたら」

バンクーバー・ホワイトキャップスの高丘陽平【写真:本人提供】
バンクーバー・ホワイトキャップスの高丘陽平【写真:本人提供】

バンクーバーGK高丘陽平、横浜FM時代は転機「成長させてもらった」

 2022年にJ1制覇を果たした横浜F・マリノスでゴールマウスを守っていた高丘陽平。現在はMLS(メジャーリーグ・サッカー)のバンクーバー・ホワイトキャップスでプレーする29歳は、「なんとか踏みとどまってくれると信じて、応援し続けたい」と古巣の動向を見守っている。横浜FMへの尽きない思い、「最高のキャプテン」と敬意を示す喜田拓也への信頼、そして海を越えて届けるエールとは――。(取材・文=元川悦子/全8回の7回目)

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 2014年に横浜FCでプロのキャリアをスタートさせた高丘にとって、2021年から2シーズン在籍した横浜FMは、成長の大きな転機となるクラブだった。

 2021年の前半戦は、アンジェ・ポステコグルー監督が横浜FMを率い、「アタッキングフットボール」と称される攻撃的スタイルを浸透させていた。その名将の下で短期間ながらプレーし、独自のサッカー観に触れられたことは、高丘にとって大きな財産となった。

 同年7月には、ケヴィン・マスカット監督(現・上海海港監督)が就任。2021年は川崎フロンターレに優勝を譲ったものの、チームは2位と健闘。そして翌2022年、終盤に失速しかけながらも、クラブは見事に5度目のJ1リーグ制覇を果たした。

「マリノス時代はキャプテンの喜田(拓也)くんを筆頭に、水沼宏太くん(現ニューカッスル・ジェッツ)、松原健くん、仲川テルくん(輝人/現FC東京)……。全員の名前を挙げないといけないくらい、みんなにいい刺激を受けたし、成長させてもらったかなと思っています。あとは、やっぱりGKコーチのシゲ(松永成立)さんと榎本哲也さんには特にお世話になりましたね。シゲさんとテツさんがいなかったら、今の自分はないですし、2シーズン通してある程度の活躍をさせてもらったのも、いい指導、いいアドバイスのおかげかなとしみじみ感じています」

 高丘の言葉どおり、2022年のパフォーマンスは際立っていた。リーグ全34試合に出場し、守護神に求められるあらゆる要素で高いレベルを維持。日本代表に招集されても不思議ではないほどのパフォーマンスだった。

 横浜FM時代に能力を示したことが、現在MLSでの活躍へとつながっている。タイトル獲得は高丘の評価を押し上げ、キャリアの転機となった。それが彼の人生を変える要素となったのは、間違いのない事実だろう。

共闘の仲間をリスペクト「彼が中心となってマリノスを引っ張っている」

 愛着ある名門クラブが、今季はJ2降格の危機に直面しており、高丘にとっても無関心ではいられない状況。筆者が以前取材した岩田智輝(バーミンガム)も「(古巣)マリノスには喜田くんや健くんがいるから大丈夫」と力強く語っていたが、高丘も同じ想いを胸に抱いているのだろう。

「(横浜FMの)試合を90分フル視聴することはなかなかできないのですが、ハイライトは欠かさずチェックしています。今季に入ってから選手も入れ替わっていますし、監督も2回代わって、クラブ全体がすごく苦しい時期に直面していると思います。それでも、もがきながら、苦しみながらも前進しようとしている姿には勇気づけられますし、刺激をもらっています。僕もこっちで活躍することで、彼らになんらかのエネルギーを与えられたらいい。そう思いながら今、ピッチに立っています」

 残留争いを繰り広げているなか、古巣の浮上を心から願っている。

「厳しい時期なので、連絡は頻繁に取れないんですけど、喜田くんや健くんにはちょこちょこコンタクトは取っています。彼らとは一緒に戦って共有してきたものも多いし、どんな気持ちでやっているのかも想像できる。本当になんとか苦境を脱出してほしいという気持ちでいっぱいです」

 苦境の横浜FMをけん引するのは、やはりキャプテンの喜田だ。高丘はこれまで、南雄太や権田修一(ハンガリー1部デブレツェニ)といったカリスマ性を備えた守護神たちと共闘してきたが、喜田が持つリーダーシップと統率力には、また違った特別さを感じている。

「喜田くんは僕より1つ上なんですけど、今まで一緒にプレーしてきた選手の中でも最高のキャプテンですね。一緒にやっていない人でも彼の人間性や真摯にサッカーに向き合うスタンスはよく分かると思いますけど、責任感の強さはプレーにも表れていますし、常に彼が中心となってマリノスを引っ張っていると僕は考えています。だからこそ、今は本当に頑張ってほしい。大変な状況なのは分かっていますが、なんとか踏みとどまってくれると信じて、応援し続けたいです」

 かつて喜田と戦った選手たちは「彼がいれば必ず立ち直れる」と口を揃える。それだけ、喜田という存在の影響力は絶大なのだろう。多くの期待が彼の背中にのしかかるなかで、高丘をはじめとした戦友たちの思いも力に変えてほしいと願うばかりだ。

 今季J1リーグ第24節終了時点で、横浜FMは最下位から抜け出し18位。残留圏の17位・湘南ベルマーレとは勝ち点3差。残り14試合で残留の可能性は十分にある。高丘が語るように、もがき、苦しみながらも前に進み続ける姿勢が、最後には結果を呼び寄せる。名門クラブの意地に期待したい。

(元川悦子 / Etsuko Motokawa)



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元川悦子

もとかわ・えつこ/1967年、長野県松本市生まれ。千葉大学法経学部卒業後、業界紙、夕刊紙記者を経て、94年からフリーに転身。サッカーの取材を始める。日本代表は97年から本格的に追い始め、練習は非公開でも通って選手のコメントを取り、アウェー戦もほぼ現地取材。ワールドカップは94年アメリカ大会から8回連続で現地へ赴いた。近年はほかのスポーツや経済界などで活躍する人物のドキュメンタリー取材も手掛ける。著書に「僕らがサッカーボーイズだった頃1~4」(カンゼン)など。

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