サポーター不在も「あえて聞かずに」 大荒れダービーに完封勝利、異例事態起こるも…「非常に力をくれました」

横浜FMがダービーに勝利
キックオフを1時間後に控えたニッパツ三ツ沢球技場は、異常な状況になっていた。2025年7月5日に予定されていたのは横浜FCと横浜F・マリノスの横浜ダービーである。18位の横浜FCと最下位の横浜FMと降格圏で苦しむ両チームにとって、浮上のきっかけにもしたい一戦だった。
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しかし、両チームのGKがウォーミングアップに出てくるキックオフ45分前になっても、横浜FMのサポーターが入るはずのアウェースタンドには警備員や関係者以外、誰もいなかったのだ。
キックオフの2時間半前からスタンドに横断幕を提出することが可能になるのだが、その直前に三ツ沢公園内で禁止されている花火・発煙筒を使用して、横浜FMサポーターが横浜FCサポーターを挑発したという。これによりスタジアムでは急遽、アウェー席に入る横浜FMサポーターの手荷物検査を行うこととなり、入場の開始が遅れた。結局、キックオフの約45分前からアウェー席の入場は開始となったが、入場の列がなくなったのは、前半終了間際のことだった。
年に2試合のダービーという大一番。第三者として見ても、片方のゴール裏にサポーターも横断幕もない状態は異様に映った。ウォーミングアップに出て来た選手たちも異常な光景に、さぞ驚いたことだろうと思ったが、FW宮市亮は「特に感じたことはなくて……。やっぱり自分たちは試合に集中していましたし、何よりも勝たないといけないことは分かっていたので」と、目の前のダービーに集中していたと語った。
キャプテンのMF喜田拓也も「(ピッチに)入った時に(サポーターが)いなかったので、何かを(しているのかな)と思っていましたが、あえてスタッフにも聞かなかったです。試合に集中していたので。マリノスサポーターのことなんで、何か駆け引きだったり、意味合いがあったりするのかなともちょっと考えたんですけど、そこはあえて聞かずに入りました」と、動揺をすることはなかったと語った。
大島秀夫監督も「詳細を把握していなかったので、その時はなんとも分からない状況ではありました」と言い、「でも試合中、素晴らしい声援で後押ししてくれたので、非常に力をくれました」と感謝した。
試合前の打ち合わせなども一切できていなかった横浜FMのゴール裏だったが、ハーフタイムにコールリーダーと思われる人物が、「トラブルによって試合を見られなかった人たち、申し訳ない。今後、こういうことが起きないように……これまでもそういう話しはしてきていたのですが、改めて話していきたい。今は、勝ってこの試合を振り返られるように、マリノスを後押しする雰囲気を作りたい。なんといってもここで勝っていないので、また新しい一歩を踏み出せるように、ご協力お願いします」と、団結を呼びかけていた。
これに大きな拍手が起こり、F・マリノスコールが沸きあがった。後半のアウェーゴール裏の応援はより一体感を増したものになっていった。前半は劣勢となっていた横浜FMだが、声援に後押しされるように後半は攻める時間を増やし、この試合がラストマッチとなっていたFWアンデルソン・ロペスがPKで開幕戦以来となるゴールを決める。そして、終盤の横浜FCの猛攻を退けて1-0の勝利を収めた。
宮市も先の言葉に続けて「本当にこれだけ苦しい状況でも、毎試合、声を枯れるほど出してくれていますし、最後、押し込まれたシーンでも彼らがゴール裏にいることによって、すごく安心感がありましたし、(ゴールを)入れられる気持ちもしなったです。そういう力も借りながら、本当に全員が前を向いてやっていかないと良い結果は得られないと思うので、またやっていきたいと思います」と、サポーターへの感謝を口にして前を向いた。
仮にこの試合チームが敗れていたら、サポーターの間により大きな亀裂が入っていただろう。極少数であろうサポーターの愚行は決して許されるものではないし、美談でまとめるべきではないが、結果が出ない時期もブーイングをほとんどせずにチームを鼓舞していたサポーターに、この日はチームが勝利を挙げて、借りを返す形になった。
ダービーという特別な一戦で大島監督の初勝利を挙げた横浜FMだが、まだまだ安心はできない。チームはいまも最下位であり、この試合後には直近2シーズン連続でJ1得点王に輝いたFWアンデルソン・ロペスが、海外移籍を前提にチームを離れることが発表された。この先の戦いでは、一度もJ2を経験したことのないオリジナル10という誇りも、プレッシャーになる時期がくる可能性もある。そんな苦しい時に思い起こすべき日に、この日のダービーはなったのかもしれない。
(河合 拓 / Taku Kawai)





















