強豪大主将が徹する”黒子”の役割 「周りと比べて抜きん出てない」…チーム低迷で伝えた「助け合い」

流通経済大の渋谷諒太【写真:FOOTBALL ZONE編集部 】
流通経済大の渋谷諒太【写真:FOOTBALL ZONE編集部 】

流通経済大でキャプテンを務めるMF渋谷諒太

 夏の「大学サッカーの全国大会」である総理大臣杯関東代表を決める戦い、アミノバイタルカップ。関東大学サッカーリーグ1部、2部、3部、都県リーグの垣根を超えた一発勝負のトーナメントは毎年、多くのドラマやプロ内定選手、Jクラブは争奪戦を繰り広げるタレント、そして彗星のように現れた新星が輝きを見せる。今年も6月5日から29日にかけて行われており、この大会で目立った選手、ドラマを持った選手を紹介していきたい。第4回目は流通経済大柏でキャプテンを務め、今年は流通経済大のキャプテンを務めるMF渋谷諒太が見せたキャプテンシーについて。

「キャプテンとして高校の時とは違うキツさがありますね。まず部員の多さが違いますし(高校は130人程、大学は280人程)、トップが結果で示さないと周りに対する説得力がなくなりますし、常に考えながら言動しています」

 渋谷はプレースタイルも性格も常に冷静沈着で、意思表示をすべきところはきちんと表現し、自分を抑えるべきところではきちんと黒子に徹することができる。常に全体を見渡しながら、ピッチ上では空いている危険なスペースはないか、守備に綻びができていないか、ピッチ内外でもメンタルが落ちている選手はいないか、逆に気が立っている選手はいないかと目を配っている。

 だが、それをしてもうまく行くことばかりではない。高校時代はプレミアリーグEASTの終盤戦で4連敗を喫し、選手権では初戦で近大附属和歌山にPK戦の末に敗退。最後の最後でキャプテンとしての苦悩があった。

「悪い流れの中で自分に何ができるか。本当にいろいろ考えました。でも、自分も1人の人間なので、チーム全体のことを考えることが難しいこともある。チームと自分との葛藤はありました。でも、最後の選手権で自分がPK戦の1人目として蹴って止められてしまったのですが、その後に仲間が熱い言葉をくれて、『一人じゃないんだ』と思いました」

実際に彼に対する周りの信頼度は高かった。高校時代の恩師である榎本雅大・流通経済大柏高監督も、「渋谷が選手だけではなく、僕らスタッフも引っ張ってくれた。いろいろなものを必要以上に背負い込んでプレーしていたし、苦しい時期もたくさんあったと思う。それでも前を向いて、チームのために取り組んでくれたことは、心から感謝しています。本当に素晴らしい人間ですよ」と口にするほど、彼の言動はチームリーダーにふさわしいものだった。

2年時にはU-20全日本大学選抜に選出

 大学に進むと、付属高のチームメイトだけではなく、強豪高校や強豪Jクラブユースからやってきたタレントたちの中でも、彼の人柄と献身性は一目置かれるものとなった

「僕は周りの選手と比べて、技術的に何かに抜きん出ているわけではありません。とにかくセカンドボールを拾って周りの上手い選手に預けたり、大きいスペースを埋めたり、周りの選手が武器を発揮できるようにサポートしたりと、攻撃面では二次攻撃、三次攻撃につなげられるように、守備面ではマイボールにする回数を増やすために。黒子の役割のスペシャリストとして生きていこうと思っています」

 まさに縁の下の力持ちのプレーで、1年次から出番を掴むと、周りの個性をより輝かせる選手として重宝された。そして2年時にはU-20全日本大学選抜に選出され、今年もデンソーカップチャレンジ大会で関東B選抜としてプレーした。

 そして、再びキャプテンマークが左腕に巻かれることになった。大所帯で全寮制、かつ高校時代より個性的な選手が揃う中でのキャプテンは苦難の連続だった。ピッチ内外で目を配ることはより増えた。だが、彼自身が精神的にさらに大人になったことで、高校時代は見えなかったことが見えるようになった。

「いろんな個性を持った選手がいる中で、それぞれの個性を認めて、尊重してあげながらも、全員が平等に絶対にやらなければいけないことがある。サッカーで言えば、球際で負けないことだったり、チームのために走ることだったり、そこを疎かにしてしまうと相手と戦うことができない。伸び伸びとやらせながらも、規律や約束事などの大事なところは絶対にサボらせない。僕はそこを大事にしているので、いろいろなところに目を配って、人をいろいろな角度から見る。その上で、自分がまずプレーで体現する。このメリハリは意識できるようになりました」

チームは開幕から6戦勝ちなし

 今季、チームは関東大学サッカーリーグ1部で苦しい局面からのスタートとなった。開幕から3試合連続で引き分けると、第4節で明治大に敗れてからまさかの3連敗。6戦勝ちなしの状況に陥った。

「苦しかったのですが、内容を見ると互角以上に戦えていた。3連敗も全て0-1で、多く崩れはしていなかったので、もっとチームを盛り上げていこうと。個々で戦ってしまうような状態になりかけていたので、キャプテンである自分が1人で背負い込むではなく、誰かがチームのために行動してくれたことをちゃんと見た上で声をかけたり、周りに伝えたりして、『助け合いの心』をチームに植えつけようと。1人1人にチームのために戦うことをもう一度認識させようと思った」

 悪い流れに引き摺り込まれないように、渋谷が行動に移したことで、チームは第7節以降、2勝2分1敗と徐々に持ち直してきた。そして、アミノバイタルカップでは中央学院大との初戦を2-1の逆転勝利で乗り切ると、ラウンド32の慶応義塾大戦では延長戦の末に2-1の勝利を掴み、総理大臣杯出場権を手にした。準々決勝では国士舘大に3-1で快勝し、ベスト4まで駒を進めた。

「あまりガミガミ言うタイプではないので、まずは自分のプレーに集中しながら、周りがついてきてもらえるような立ち振る舞いをする。『自分の熱量=チーム』の熱量だと思っています。ただ、今大会は自分がと言うより、本当に周りに助けてもらっているからこそ、勝ち上がってこれているので、本当に周りに感謝をしています」

どこまでも実直な頼れるキャプテンは、チームの勝利だけではなく、個人としてもプロを狙える立場にある。

「1人の人間として、高校、大学とキャプテンをやれているのは間違いなくプラス。だからこそ、この経験をJリーグでも生かせるように、上を目指して頑張るだけです」

 決して目立たないが、見る人が見れば眩い光を放っている「黒子のスペシャリスト」。これからも渋谷は、優しくも厳しい目でチームをまとめあげながら、自分の人生も切り開いていく。

(FOOTBALL ZONE編集部)

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