浦和がクラブW杯敗退で直面した“現実” 必要だった大胆な戦力構築…注目すべき夏の補強策

クラブW杯に挑んだ浦和、2連敗で1試合を残して敗退決定
AFCアジア・チャンピオンズリーグ(ACL)2022王者として、アメリカで開催中のクラブ・ワールドカップ(W杯)に挑んでいる浦和レッズ。現地時間6月17日のグループリーグ初戦・リーベル・プレート戦は1-3で敗れ、続く21日のインテル戦も1-2で逆転負けを喫した。この結果、25日の最終戦・モンテレイ戦を残して、グループリーグ敗退が決まってしまった。
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マチェイ・スコルジャ監督が、リーベル・プレート戦とインテル戦の2試合で送り出したのは、同じ11人だった。西川周作、石原広教、ダニーロ・ボザ、マリウス・ホイブラーテン、長沼洋一、安居海渡、サミュエル・グスタフソン、金子拓郎、マテウス・サヴィオ、渡邊凌磨、松尾佑介という顔ぶれで、今年4~5月にJリーグ5連勝を飾った時と同じ陣容だ。もちろん指揮官は、クラブW杯仕様として渡邊を左サイドに配置したり、プレスのかけ方を微調整するなど戦術変更は加えていた。それでも限られた試合数で結果を出すために、“最強イレブン”への信頼は絶大だったと言っていいだろう。
その象徴がインテル戦だ。試合前には「インテル用の戦術で戦う」と話していたため、思い切った選手変更の可能性もあると思われたが、ふたを開けてみればスタメンは初戦と変わらなかった。相手ウイングバックやセンターバック(CB)、インサイドハーフの流動的な動きに対応するため、金子と渡邊を最終ラインまで下げて6バックを敷くなどの秘策は見られたものの、クラブW杯のようなタフな大会を乗り切るには、固定されたベストメンバーだけでは限界がある。インテル戦の終盤で喫した2失点により、スコルジャ監督は改めてその現実を痛感したのではないか。
昨年9月にスコルジャ監督が浦和で2度目の指揮を執り始めて以来、チーム全体の選手層は劇的に厚くなったとは言い難い。彼の再来日とほぼ同時期に復帰した原口元気はコンディションが思うように上がらず、チアゴ・サンタナ、中島翔哉、関根貴大らも決定的な違いを生み出せずに苦しんだ。今季の開幕当初は重用されていた松本泰志も徐々に出番が減り、チーム全体に「戦力が足りない」という印象が残ったのは否めない。
浦和にもそのまま当てはまる「2チーム分の戦力がないと難しい」
クラブ側も状況を把握し、6月1日から10日までの特別ウインドウで動いたが、獲得したのは小森飛絢ただ1人。長倉幹樹がアルビレックス新潟時代の恩師・松橋力蔵監督が率いるFC東京へ移籍した影響もあり、全体としては現状維持か、やや戦力ダウンという状態でクラブW杯に臨むことになった。この補強バランスも、結果的にマイナスに働いた側面は否定できない。
大会前に報道陣の取材に応じた堀之内聖スポーツダイレクター(SD)は「この浦和レッズ、マチェイ・スコルジャのサッカーにすぐ順応できるのかという意味では、日本独特のものもありますし、海外の選手は難しいんじゃないかと感じていました」と語り、外国人選手の獲得を見送った理由の一端を明かした。ただ、もし即戦力となるストライカーや攻撃的MFを補強できていれば、局面を打開できる場面はもっと増えていたかもしれない。
特にインテル戦の後半33分、ラウタロ・マルティネスにアクロバティックな同点ゴールを決められて以降の時間帯は、「個の力で前線にボールを運んでフィニッシュまで持ち込んでくれるタレントがいれば……」と感じた人も少なくなかったはずだ。グスタフソンや渡邊も「もう少しラインを上げて、もっともっと自分たちの時間を作らなきゃいけなかった」と口を揃えており、そうした展開を可能にするタイプのアタッカーが、あと2人は欲しかったというのが正直なところだろう。そこは、浦和の強化部にとって誤算だったと言えるかもしれない。
今季序盤にACLエリートの上位ステージを戦ったヴィッセル神戸、横浜F・マリノス、川崎フロンターレの関係者も、「JリーグとACLを並行して戦うには2チーム分の戦力がないと難しい」と語っていたが、その言葉は浦和にもそのまま当てはまる。今季の浦和は、ACLやルヴァンカップといった大会との掛け持ちをしていなかったものの、クラブW杯を6月に控え、リーグ戦単体で過密スケジュールに陥っていた。だからこそ、当初から2チーム編成を意識した戦力構築に踏み切るような、大胆アクションが必要だったのではないか。

采配継続で腰を据えた体制作りへと向かうのか、そして夏の補強は?
スコルジャ監督も、5~6月の連戦を通じて選手起用に対する考えを変化させていった節がある。それまでのようにベストの11人を固定するのではなく、試合ごとに複数のメンバーを入れ替えながら、チーム全体の力で乗り切ろうという意識が見られた。だが、その策が狙い通りの勝ち点につながらなかったこともあり、クラブW杯では「信頼できるメンバーで勝負する」という決断に至ったのかもしれない。そして結果的に、同大会では2試合で敗退という厳しい現実に直面することになった。この展開は、実に残念なものだった。
スコルジャ監督が今後、どのようなチームマネジメントを見せるのか。そして、堀之内SDを中心とした強化部が、どのような補強策を講じていくのか。その動向は非常に興味深いところだ。
一方で、周知の通り、スコルジャ監督には現在、ポーランド代表監督就任の可能性が浮上していると報じられた。クラブW杯という今季最大のターゲットが事実上終わった今、母国に戻り、代表監督という新たな挑戦に進む気持ちが芽生えても不思議ではない。仮にそうなった場合、浦和はまたしても指揮官交代を余儀なくされることになる。2020年以降を見ても、大槻毅(現・ファジアーノ岡山コーチ)、リカルド・ロドリゲス(現・柏レイソル監督)、スコルジャ(1度目)、ペア・マティアス・ヘグモ、スコルジャ(2度目)と短期間で監督が入れ替わっており、継続的なチーム強化の道筋は確立できていないのが実情だ。
昨秋にスコルジャ監督を再招聘した際、クラブ側は長期的なビジョンに基づく現場のマネジメントを期待していたはずだ。果たして、采配継続で腰を据えた体制作りへと向かうのか否か――。今後の動きから、しっかりと目を離さずに見守っていく必要があるだろう。
7~8月の夏の移籍ウインドウで、どのような戦力の入れ替えを図るのかは、今後の浦和にとって重要なテーマだ。現在のチーム編成を見ると、CBの層は依然として薄く、右サイドバックも石原1人に頼る状態が続いている。ボランチも、柴戸海の戦力化が期待より遅れており、サミュエル・グスタフソンと安居への依存が高いのが実情だ。特に安居は今大会で好パフォーマンスを見せた選手の1人であり、今後、海外クラブからの関心が寄せられる可能性もある。その点でも、中盤の補強は優先度の高い課題と言えるだろう。
西川「クラブW杯にまた戻ってきたい」…再び目指すために必要なこと
また、2列目には選手が揃っているものの、現状ではその豊富な人材を十分に生かしきれていない印象もある。さらに前線に目を向けると、FWの手薄感も見て取れる。6月に加入した小森が早期にチームにフィットし、得点という形で貢献してくれるのが理想だが、未知数な要素も多い。加えて、これはあくまで可能性の段階に過ぎないが、松尾が2度目の欧州挑戦に踏み切るケースも考えられ、そうなれば一層の前線強化が求められる。いずれにしても、堀之内SDが解決すべき課題は山積しているのが現状だ。
クラブW杯という一大イベントも、次戦・モンテレイ戦をもって一区切りを迎え、浦和はここから新たなフェーズへと突入することになる。西川が「クラブW杯にまたチームとして戻ってきたい」と語ったように、この舞台を再び目指すためには、潤沢な資金で世界的スター選手を次々と獲得するサウジアラビア勢を打ち破る力が不可欠だ。
これまで以上に高いハードルを越えていくことが求められる浦和にとって、必要なのは、クラブ全体としての成長と、継続してこの大舞台に立ち続けるだけの地力を養うことに他ならない。今大会で得た教訓を、どう次につなげていくかが問われている。
(元川悦子 / Etsuko Motokawa)

元川悦子
もとかわ・えつこ/1967年、長野県松本市生まれ。千葉大学法経学部卒業後、業界紙、夕刊紙記者を経て、94年からフリーに転身。サッカーの取材を始める。日本代表は97年から本格的に追い始め、練習は非公開でも通って選手のコメントを取り、アウェー戦もほぼ現地取材。ワールドカップは94年アメリカ大会から8回連続で現地へ赴いた。近年はほかのスポーツや経済界などで活躍する人物のドキュメンタリー取材も手掛ける。著書に「僕らがサッカーボーイズだった頃1~4」(カンゼン)など。