“走る天才”の衝撃…日本は何を学び、育てるべきか 新時代「エースFW」の正体

今季CL決勝を制したPSG、要因の第一はウスマン・デンベレの守備
2024-25シーズンのUEFAチャンピオンズリーグ(CL)決勝、パリ・サンジェルマン(PSG)がインテルを5-0で下した。意外な大差だったわけだが、要因の第一はPSGのフランス代表FWウスマン・デンベレの守備だったと思う。
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インテルは自陣でのビルドアップで相手のハイプレスを誘い、トップのマルクス・テュラムへのロングボールで一気にカウンターを仕掛ける攻撃を得意としている。テュラムにロングパスが収まったら、ウイングバックが躊躇なく飛び出してフィニッシュへ結びつける。
これを防ぐにはテュラムへのマークは当然として、セカンドボールを渡さない、さらに正確なロングパスを蹴らせないことが重要だったが、デンベレはインテルのDFとGKへ鬼気迫る二度追い、三度追いでロングパスの精度を削り、インテルの自信をも削り取っていった。
走れる選手を上手くするより、上手い選手を走らせるほうが簡単に思える。ただ、かつてイビチャ・オシム監督は「走らない選手は本当に走らないものなのだ」と言っていた。スーパーテクニシャンであるデンベレを走らせたルイス・エンリケ監督はその難事を成し遂げたことになる。
超絶技巧の持ち主だからといって守備をしなくていいことにはならない。その選手がいくら上手くても、それで相手が攻撃を止めてくれるわけではない。誰が考えても分かりそうなものだが、攻撃で十分貢献しているのだから守備でそんなに頑張らなくてもいいじゃないかと思いがちなのだ。だが、攻守が分業化していた昔はともかく、現代サッカーで守備をしないFWはチームにとって確実に負担になってしまう。
日本人FWには、あまりこの手の問題はない。およそどのFWも献身的に守備をする。日本代表も前田大然を筆頭にデンベレ並みの守備をしている。日本の指導者の中には、CL決勝のデンベレを見て「間違っていなかった」と喜んでいる人もいるかもしれない。
「守備はしないがゴール量産」vs「守備はするがあまりゴールは決められない」
センターフォワード(CF)が献身的に守備をするのは良いことだ。しかし守備ができれば良いCFだということにはならない。守備はあまりしないがゴールを量産するCFと、守備はしっかりするがあまりゴールは決められないCFでは、より評価が高くなるのは間違いなく前者なのだ。
かつて日本では、クサビのパスを受けて捌けるCFが高く評価された時期があった。ポストプレーはCFとして重要なプレーだ。ただし、ポストプレーが上手ければ良いCFというわけではない。第一は得点力である。周囲に得点力の高い選手がいるならCFがアシスト役でもいいけれども、基本的にCFの役割は得点であるはずだ。
カタール・ワールドカップで優勝したアルゼンチン代表は守備をしないリオネル・メッシを残りのフィールドプレーヤー9人で支える構造だった。そこまでして支える価値がメッシにはあったわけだ。デンベレの守備が称えられるのは、献身的に守備をしたのがデンベレだからだ。エースの背中が味方を鼓舞していた。群れのリーダーだった。
デンベレに感銘を受けたなら、守備のできるFWを育てるのではなく、まずは「デンベレ」を発見し育てるべきである。「デンベレ」に守備をさせられるかどうかは指導者の腕次第だ。
(西部謙司 / Kenji Nishibe)

西部謙司
にしべ・けんじ/1962年生まれ、東京都出身。サッカー専門誌の編集記者を経て、2002年からフリーランスとして活動。1995年から98年までパリに在住し、欧州サッカーを中心に取材した。戦術分析に定評があり、『サッカー日本代表戦術アナライズ』(カンゼン)、『戦術リストランテ』(ソル・メディア)など著書多数。またJリーグでは長年ジェフユナイテッド千葉を追っており、ウェブマガジン『犬の生活SUPER』(https://www.targma.jp/nishibemag/)を配信している。