U-18昇格逃しサッカー王国へ 追った兄の背中…藤色の10番がこじ開ける7年越しの扉

藤枝東の10番・泉孝太郎【写真:FOOTBALL ZONE編集部 】
藤枝東の10番・泉孝太郎【写真:FOOTBALL ZONE編集部 】

藤枝東の10番・泉孝太郎が全国行きへ「しっかりと足元を見つめて」

 インターハイ静岡県予選準決勝。伝統の藤色ユニフォームを身に纏った藤枝東は、新人戦準優勝の磐田東を相手に、開始早々の6分に先制を許すと、その後も相手の左サイドハーフ・遠藤有眞、トップ下の石川柚友らドリブラーを揃える磐田東にセカンドボールを拾われ、ドリブルで自陣深くまで運ばれるなど、相手の勢いに苦しんだ。

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「相手は技術があって、ボールを運べる選手がいて、そこで自由にやらせてしまうと相手の前線に良い影響を与えてしまう。前半はボランチの2人と連携をとって、セカンドボールの争いで上回られないようにしようとポジションを落として、攻撃に転じたときにサイドに出ていくイメージでプレーしました」

 劣勢を強いられる中で、藤枝東の10番を背負うチーム1のドリブラーであり、司令塔でもある泉孝太郎は常に冷静だった。

 左サイドで起点を作る役割を担ったが、中盤での攻防で不利な状態だと判断すると、中に絞って、3ボランチ気味にしてセカンドボールの回収や、ドリブラーに対するプレスバックに重きを置いた。これが奏功して前半の失点を1に抑えると、後半は途中投入のドリブラー・望月瑠斗が左サイドハーフに入り、泉はトップ下にポジションを移した。

「真ん中で攻撃に関わりやすくなったので、前からどんどんプレスに行って、マイボールにしたらドリブルで仕掛けていこうと思いました」

 前線からのプレスのコントローラーとして左右上下とダイナミックに動き、ボールを持つと運ぶドリブルでチームのベクトルを前に向けた。

 それでも全体的に前がかりになったことで、前半以上にカウンターを受けるリスクが増し、決定機を2つ作られた。ポストに救われるなど運もある中で、泉はその運を確実に掴み取るべく、反撃の糸口を虎視眈々と狙っていた。

 そして迎えた76分、藤枝東はペナルティーエリア内左で関節FKを得る。ボールのところには泉と望月の2人が立った。

 ゴール前に壁を作り、ほぼ全員がペナルティーエリア内にいる中で、望月が少しボールを突くと、泉は少しだけ間を置いてから右足インフロントでボールを強く擦るようにインカーブのシュートを放った。ボールは壁の間を破って、ゴール右サイドネットにワンバウンドして突き刺さった。

 まさに起死回生の同点ゴールが決まり、試合はPK戦に持ち込まれた。藤枝東は泉を含めた全員が成功したのに対し、磐田東は4人目が外して勝負あり。劇的な展開で藤枝東が決勝進出を果たした。

「僕の武器は冷静にプレーすること。関節FKのシーンもボールに急いで蹴ってしまうと力んで上に浮かしてしまったり、枠の横にそれたりしてしまうので、ああいう力の入ってしまう場面だからこそ、逆に冷静に余計な力をかけずに枠内に速くて強いボールを蹴り込むことを意識しました」

 彼は65分にも右サイドで4〜5人に囲まれながらもロングキープをして、最終的に相手へボールを当ててコーナーキックを獲得するなど、流れを自分たちに引き込もうと冷静に効果的なプレーをやり続けた。

 技術とインテリジェンス。文武両道を掲げる進学校でもある名門の10番にふさわしい存在感を放つ泉は、FC東京U-15むさし出身。U-18に昇格できなかった時、むさしでも一緒だった2学年上の兄・新之助(早稲田大)が藤枝東に進んでいたことで、自分も同じ道に進み、兄弟で選手権を目指す道を選んだ。

「兄とは幼稚園の時から一緒にサッカーをしていて、ドリブルがうまい兄とひたすら1対1をやっていたので、自然と僕もドリブルが武器になっていった。兄と一緒に上手くなりたいと思ってここに来ました」

 1年生の頃からチャンスメーカーとして君臨してきた彼も今年で最高学年を迎えている。この間、藤枝東は1度も全国大会に出場できていない。7年ぶりに全国の扉をこじ開けるためには、静岡学園を下した浜松開誠館との決勝を制さないとけない。

「浜松開誠館は技術のある選手が多くて、つなぐこともできるし、前に蹴ってそこからセカンドを拾って一気に攻めきることも出来る。例年とはまた違った強さがあるので、1人1人が球際で負けない、相手のプレスに屈せずにパスをつないでいく中で、僕の特徴であるドリブルやチャンスメークをしないといけない。難しい戦いになるからこそ、しっかりと足元を見つめて、1週間準備をしたいと思います」

 決勝に向けて闘志を燃やすも、頭は冷静に相手を分析し、やるべきことが整理されていた。研ぎ澄まされていく頭脳と闘争心。藤色の10番は不動心を持って、重い扉をこじ開ける準備を着々と進めている。

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