高2で公式戦デビューも…プロ昇格断り→大学行き U-17W杯も経験したスーパー1年生の覚悟

筑波大MF矢田龍之介「収穫と課題を得た一戦」
大学サッカー界きっての名門・筑波大学が5月25日に行われた天皇杯1回戦で、J2リーグで2位のRB大宮アルディージャと対戦。敵地・NACK5スタジアム大宮に乗り込んで1-0で勝利し、J1のFC町田ゼルビアに勝利した昨年に続き、2年連続のジャイアントキリングを達成した。
【PR】北中米W杯まであと1年…最強・森保ジャパンの活躍をDAZNで見逃すな!
今回、このジャイアントキリングの裏側をピッチに立った選手の物語とともに紐解いていく。第4回目は1年生ながら不動のレギュラーを張るスーパールーキー・MF矢田龍之介に焦点を当てる。
大宮戦、3年生MF徳永涼とボランチコンビを組んだ1年生の矢田は、常に相棒の徳永のポジショニングを捉えながら、並行にならないように常に角度を取りながら細かくポジショニングを取っていた。
「涼さんにボールが集まることに対して、相手がプレスをかけて囲んだ時に、涼さんの選択肢の1つになってあげることで相手も迷いが生じるので、立ち位置の修正は常に意識をしています」
味方の位置だけではなく、相手のプレス矢印や守備の意図をちゃんと把握したうえで、打開策を見い出す。第2回の徳永の回で触れた通り、常に戦況と相手のやり方を把握したうえでプレー選択をしていたのは矢田も同じだった。この2人が攻守の要として絶妙なバランスとポゼッションの起点を作り出していたからこそ、この試合の前半は筑波大がペースを握る時間も多かった。
ただ、後半は大宮が1点ビハインドを背負ったことで猛攻を仕掛けてきたことにより、球際や切り替えのスピードが上がり、「コースが消されてしまうことが増えて、僕が1つ目のパスコースになることが難しかった」と、前半ほど思うようなプレーができなくなった。結果、後半21分に最初の交代でピッチを後にした。勝利こそ収めたが、彼の口からは反省の弁が聞かれた。
「後半のようなタイトな状況でも積極的にボールを受けて、1枚剥がせるような選手になるくらい余裕を持てないといけないと。収穫と課題を得た一戦となりました」
だが、66分間で見せた冷静沈着な戦術眼と状況判断能力は、スーパールーキーの名にふさわしいものだった。そもそも彼がプロに行かずに筑波大に進学することに驚いた記憶がある。
中学時代は埼玉の1FC川越水上公園でプレーし、年代別日本代表に選出されていた。強豪Jクラブユース、強豪校の多くからオファーが殺到する中で清水エスパルスユースを選択。高校1年生で早くも2種登録され、高校2年生の2023年にはルヴァンカップ2試合に出場してプロデビューを飾り、U-17W杯にも出場を果たした。
高校3年時は負傷で離脱することも多かったが、春の段階でトップ昇格のオファーが届いていた。6月の天皇杯でも1回戦の三菱重工長崎SCとの一戦に途中出場をしたが、彼が下した決断はトップ昇格をせずに筑波大に進学をすることだった。
「高校2年生までは早めにプロの世界に行こうと思っていたのですが、プロに上がったユースの先輩たちを見たり、大学サッカーの現状や卒業してからプロに行った選手たちの話を聞いたりしていくうちに『どっちが自分にとっていいんだろう』と悩むようになったんです」
ちょうど天皇杯に出場をした6月に筑波大の練習に参加。そこで小井土正亮監督と面談し、練習見学をすると、「レベルがすごく高いと感じたし、何よりここならサッカーをもっと多角的に学べるし、自分の身体の面や人間性においても学びが多くて成長できるんじゃないかと思うようになった」ことで、さらにプロか大学かで悩んだ。
高卒でプロになり日本代表にまで登り詰めたGK権田修一や、筑波大を経て清水にやってきたDF山原怜音やFW西澤健太(サガン鳥栖)にも相談に乗ってもらった。アドバイスはそれぞれだったが、どれも真剣に自分のために伝えてくれたもので、何よりクラブも「龍之介自身で決めて欲しい」と回答を待ってくれた。
「本当にエスパルスには感謝しかありません。サッカー選手としてだけでなく、人としても重要なアドバイスをもらえたことで、じっくりと自分と向き合うことができました。その中で、大学で試合経験を重ねて、いろんなチャレンジをして、4年間で自分にフォーカスを当てて、人間性も技術もフィジカルもトータルで身につけてから、即戦力としてプロにチャレンジできるようにしようと思ったんです。この選択が遠回りのようで、一番の近道のような気がしたので、決断しました」
覚悟が決まったことで、彼は不退転の決意で新たな環境に飛び込んだ。関東大学サッカーリーグ1部の開幕戦でいきなり1ゴール1アシストをマークすると、ここまで不動のボランチとして筑波大を支えている。
「天皇杯は2回目の経験だったので、少し肩の力が抜けた状態で臨むことができました。ただ、前回は受けて立つ側でしたし、点差が開いた状態での途中出場でしたが、今回はチャレンジャー側として臨む立場だったので新鮮でした。僕の中では大宮戦がボランチの関係性が一番良かった手応えがあります。2人の関係でビルドアップから崩せるシーンもあったので、この感覚を大事にしてリーグ戦、次のV・ファーレン長崎戦につなげていきたいと思っています」
1年生だからという甘えは一切ない。悩みに悩んで下した決断を正解にしていくために、彼は自覚と覚悟を持って「桐の葉」のユニフォームに袖を通している。
(FOOTBALL ZONE編集部)