日本サッカーを世界へ発信「金がかかってもいい」 “博物館”構想も…伝え続けた30年以上は「愛の仕事」

「JSoccer.com」代表で「JSoccer Magazine」編集長を務める英国人のアラン・ギブソン氏【写真:本人提供】
「JSoccer.com」代表で「JSoccer Magazine」編集長を務める英国人のアラン・ギブソン氏【写真:本人提供】

英語の専門サイトと媒体で日本サッカーを世界に伝え続けるアラン・ギブソン氏

 日本のサッカーを愛し、その魅力を伝えたいと考えるのは日本人だけに限らない。英国出身のアラン・ギブソン氏はJリーグを草創期から見つめ、魅せられてきた1人。長く英字の専門サイトと媒体で世界への発信を長く続けてきた。同氏の活動を始めたきっかけやそれを支える原動力に迫った。(取材・文=FOOTBALL ZONE編集部・山内亮治/全3回の1回目)

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 Jリーグはもちろん、男女代表からアマチュアカテゴリーまで日本サッカーのありとあらゆる情報を世界へ発信する――。英バーミンガ出身で神戸在住のアラン・ギブソン氏は30年近くにわたり海外向け日本サッカー専門サイト「JSoccer.com」を運営し、英字の日本サッカー専門媒体「JSoccer Magazine」も2011年から発行し続けてきた。

「日本サッカーに関する歴史をはじめ、競技場へのアクセスなど、さまざまな情報をサイト内で網羅したい。理想は日本サッカーのウィキペディアのような存在になることです。また、『日本サッカーの殿堂』と題した偉業を成し遂げた選手を紹介するインタビューページも充実させたいですし、新しい刺激的な情報発信にも努めたい」

 現在63歳のギブソン氏の口からは、日本サッカーの魅力を世界に知ってもらうためのアイデアが泉のように次から次へと湧き出てくる。現在32号まで発行されている「JSoccer Magazine」も、19号以降はそれまで1冊926円だった定価を撤廃し読者が好きな値段を付けられる支払い方法に変更したほか、デジタル化に合わせてPDFでも読めるようにし、クラウドファンディングプラットフォーム「パトレオン」でのサブスクも行っている。もっと手軽に、1人でも多くの人にこの国のサッカーを知ってもらえるように。

「奇妙に聞こえるかもしれませんが、今の活動で儲けてやろうとは思っていません。ビジネスパーソンとしては酷い考えです。もちろん、稼げるに越したことはありませんし、収支トントンになればとも思います」

 そう語りながら自虐的に笑うギブソン氏。「活動にお金がかかってもいいんです。もうそんなに長生きしないでしょう。長くてあと10年くらいじゃないですか」ともうそぶく。そうは言うものの、90歳くらいまで精力的に今の活動を続けている姿が想像できてしまい、身銭を切る覚悟にも迷いを感じない。サッカーの母国から来た1人の英国紳士はなぜこうも日本のサッカーに魅せられ、情熱を抱いているのか。

取材を通じて日本サッカー界の功労者とも多く親交を築いてきた【写真:本人提供】
取材を通じて日本サッカー界の功労者とも多く親交を築いてきた【写真:本人提供】

バブル期にDJとして来日し英語月刊誌の仕事でライターへ

 もともとDJとしてシンガポール、香港、韓国などのアジア諸国やオーストラリアを飛び回る生活を送っていたギブソン氏が来日したのは、バブル景気に沸いていた1988年11月。ジュリアナグループが運営する神戸市内のナイトクラブに、国内外のDJのトレーニング業務で派遣されたことがきっかけだった。

 当初4か月ほどの予定だったが、仕事ぶりが高く評価され滞在は2年に延長され、やがてそのクラブのマネージャーに。その間、結婚したことなどもあり日本在住を決めた。その後に退職すると、フリーのDJとして活動を続ける傍ら英語月刊誌「Kansai Time Out」でのライター業も始動。ここで現在の活動につながる転機に恵まれた。

「1991年、ガンバ大阪の前身である松下電器のイベントに報道関係者として参加する機会がありました。そこで永島昭浩や本並健治といった当時のトップ選手だけでなくチームを率いていた釜本邦茂氏らと会うなかで、クラブのプロモーションに協力できないかと考えたんです」

 93年にJリーグが開幕すると、誌面で日本サッカーの記事やニュースレターを書くように。そうして次第に「この国のサッカーが持つ魅力に気づかされることになりました」。何に感銘を受けたのか。

「当時、私の目には日本の選手たちがビジネスではなくチームやファンのために懸命にプレーしているように映りました。そうした姿を純粋に感じたんです」

 とはいえ、90年代になってようやく生まれたばかりのプロリーグである。英国出身ということでサッカーに対する目は肥えていたはずだが、Jリーグを物足りないとは感じなかったのか。この疑問にギブソン氏は「そんなことはありません」ときっぱり否定。理由をこう続けた。

「1993年のJリーグ開幕以降、ジーコやドゥンガ、(フリスト・)ストイチコフ、ホン・ミョンボといったW杯出場経験がある豪華な面々が日本でプレーするためにやって来ました。加えて、カズ(三浦知良)のような日本に帰って来たスター選手もいた。ヴェルディ川崎がJリーグ草創期をリードし、観ていて面白い外国人選手が多くいて、10チームしかなかったものの、プロリーグとして良いスタートを切ったというのが当時の印象です」

アラン・ギブソン氏が来日以降に集めてきた貴重なユニフォームコレクションの一部【写真:本人提供】
アラン・ギブソン氏が来日以降に集めてきた貴重なユニフォームコレクションの一部【写真:本人提供】

世界への日本サッカー発信は“愛の仕事”

 現在のJリーグについては「今や選手側が日本でプレーしてみたいと言える状況になっている」とし、プレーヤーにとって魅力的な舞台だと主張する。先のFIFAワールドカップ・カタール大会で日本代表が優勝経験国のドイツとスペインを撃破するセンセーショナルな活躍を見せたことで「日本サッカーはより尊敬を集めています」。豊富な資金力でサウジアラビア・プロリーグがアジアを席巻しているが、Jリーグは現状に悲観する必要はないと話す。

「サウジ・プロリーグは代表チームの強化につながっていませんが、Jリーグは全体的にとても良いバランスを維持しています。外国人選手とともに発展し、近年は彼らの質も上がっていて、クラブが世界中にネットワークを広げて強化のための選択肢をより多く持つようになりました。何よりリーグとしての情熱があります」

 ギブソン氏曰く、そんなJリーグの一番の魅力は「予測のつかない面白さ」とのこと。「2011年に柏レイソルがJ2から昇格していきなり優勝しましたし、ガンバ大阪も14年のJ1昇格直後に国内3冠を達成しました。今年だって京都サンガF.C.が好調の反面、名門の横浜F・マリノスが最下位と苦しんでいます」。だからこそ、世界にこう伝えたい。「Jリーグは観戦するべきプロサッカーリーグなのです」。

 そんなギブソン氏には、サイトや媒体の運営に加えて新たな構想があるのだとか。

「Jリーグ発足後から500着くらいユニフォームを集めていて、サインや写真など貴重な品々がたくさん手元にありますから、いつか“JSoccer Museum”を作りたいですね。まあ、妻と娘は全く関心を持っていないんですけど」

 壮大な計画に思わず圧倒されそうになるが、荒唐無稽には聞こえない。最後に尋ねてみた、活動を続けられる原動力は一体何なのかと。

「日本サッカーが大好きですし、感銘を受けています。それを世界に発信して多くの人に知ってもらいたい一心です。私が今している活動は私の情熱そのもので、私にとって言うなれば“愛の仕事”。お金はたくさんかかってきましたが、それでもハッピーですよ」

 尽きることのない愛と情熱が、これからも日本サッカーを支え続ける。

[プロフィール]
アラン・ギブソン/1961年生まれ、英バーミンガム出身。日本サッカー専門サイト「JSoccer.com」代表、日本サッカー専門媒体「JSoccer Magazine」編集長。1988年11月にDJとして来日し、ジュリアナグループが運営していた神戸市内のナイトクラブで国内外DJのトレーニング業務を担当。その後に定住を決め、フリーDJとして活動する傍ら英語月刊誌「Kansai Time Out」の仕事を通じてライターの道へ。90年代後半に海外向け日本サッカー専門サイト「JSoccer.com」の運営を開始、2011年には英字の日本サッカー専門媒体「JSoccer Magazine」を創刊した。これら活動以外にも、スタジアムアナウンサーに加え、ヴィッセル神戸やガンバ大阪の英語版サイトの編集なども行ってきた。また、日本最古のスポーツクラブ「神戸リガッタ・アンド・アスレチック倶楽部」に所属し、複数チームでプレーヤーとしても週3~4回ほどサッカーを楽しんでいる。

「JSoccer Magazine」【写真:本人提供】
「JSoccer Magazine」【写真:本人提供】

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(FOOTBALL ZONE編集部・山内亮治 / Ryoji Yamauchi)



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