鹿島→欧州名門、26歳日本人が受けた衝撃「圧倒的」 実感した“日欧の違い”「やられなければOK」

セルヴェットの常本佳吾【写真:Getty Images】
セルヴェットの常本佳吾【写真:Getty Images】

セルヴェットの常本佳吾が語る手応え「ムドリクは嫌だった印象はあるけど…」

 スイス1部の名門セルヴェットに所属するDF常本佳吾は欧州で2シーズン目を戦い、「守備の部分ではやれているなという自信があります」と確かな手応えを口にする。今季国内リーグではコンスタントに出場を重ね、UEFAカンファレンスリーグ(ECL)のプレーオフでチェルシーと対戦し、ホーム戦はフル出場で勝利に貢献。「何が通用するのかを試したくてヨーロッパに来た」という26歳が、欧州挑戦のなかで感じた思いを語った。(取材・文=中野吉之伴/全4回の1回目)

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 常本佳吾が鹿島アントラーズからスイス1部セルヴェットへ渡ったのが2023年7月。1シーズン目から30試合に出場するとリーグ2位、スイスカップ優勝に貢献し、ベストイレブンに選出される活躍を見せた。2年目の今季もレギュラーとしてフル稼働した(今季リーグ戦36試合に出場)。

 セルヴェットは今季ECLのプレーオフでプレミアリーグのチェルシーと対戦。ホーム戦は2-1勝利と大奮闘したが、2戦合計2-3で敗れて本戦出場は叶わなかった。そのチェルシーがECL決勝進出を果たしたのだから、セルヴェットがプレーオフを突破できていれば上位進出の可能性もあったに違いない。

 セルヴェットの本拠地ジュネーブは国連や赤十字発祥の地として知られ、平和の首都とも呼ばれる。また風光明媚なレマン湖畔にある国際観光都市としても有名だ。欧州サッカーに順応し、成長を遂げる常本の現状を知るべくジュネーブを訪れた。中央駅近くのカフェに現れた常本は、とてもリラックスした様子でインタビューに応じた。

「(ECLプレーオフは)くじ運が悪かったと言えば悪かったですね。昨季はヨーロッパリーグに出ましたけど、ヨーロッパのコンペティションに出られるっていうのは、他国でやっている日本人と連絡を取るきっかけにもなるし、面白さがあった。だから今季も本戦に出られたら、また違った風景があったのかなと考えたりもします。ワルシャワ(レギア・ワルシャワ)の森下君(森下龍矢)は大学(明治大)の先輩なんですが、彼もチェルシーとやってましたね。面白いなと思います」

 常本がスイスへ来てから2シーズン目。これまでに対峙した中で衝撃を受けた選手はいたのだろうか。チェルシーだけでなく、昨季はUEFAチャンピオンズリーグ(CL)予選でゲンク(ベルギー)とレンジャーズ(スコットランド)、ELグループリーグでASローマ(イタリア)とも対戦。常本は「うーん」と少し考えてから答えた。

「ムドリク選手(チェルシー)とかは嫌だった印象はありますけど、嫌だったという感覚と、やられたという感覚はまた違う。日本でプロになった時から1対1の局面では自信を持っているので、やられた感覚は少ない。守備の部分ではやれているなという自信があります」

欧州トップレベルの選手たちとのバトルも経験した【写真:IMAGO / Sports Press Photo】
欧州トップレベルの選手たちとのバトルも経験した【写真:IMAGO / Sports Press Photo】

欧州移籍前から意識「日本の時も『マストの感覚』は持っていました」

 直接対峙する相手よりも、そこへボールを提供するパサーのほうがポイントだと常本は言う。こちらのイメージどおりの場所とタイミングでパスが出てこないと、守備の選手は動き直しを余儀なくされる。意図的にそうしたずれを生み出そうとするパサーは怖いと語る。

「例えば、パーマー選手(チェルシー)とやった時も、いつでも受けられる位置にボールを置いているから、いつ・どのタイミングでパスが出てくるか分からない。そうやって味方選手を上手く使える選手は嫌ですね。それこそ中村憲剛選手とかは嫌でした。パスコースが下だけでなく、上もありましたからね。オフサイドラインの駆け引きで、相手がボールを蹴る瞬間にオフサイドに入っている選手は捨てられるじゃないですか。そこで蹴らないで、ちょっとタイミングやコースをずらして、オフサイドラインを変えてから狙ってきたりする。そういう間をずらせるパサーは嫌です」

 そうした“嫌らしいプレー”をする選手はスイスリーグにもいるのだろうか。この質問に常本は迷いなく答える。

「それはバーゼルのジェルダン・シャキリ選手ですね。圧倒的です。見えている場所と配球スピードがいい。背中を向けていてもフリックを使ったりするし、左足の精度も極めて高い。経験からくるものもあって、キャリア終盤とは思えないほどいいプレーをしますね。あとバーゼル愛をすごく感じます」

 シャキリらオフェンスの選手は、ゴールやアシストという目に見える結果やチャンスの起点という分かりやすい基準で評価されやすい。では、サイドバックとしてプレーする常本は、違いを生み出すプレーや試合に影響を与えるプレーをどのように考えているのだろうか。

「目に見えるゴールやアシストという数字もあると思いますが、まずそれ以外のところが大事。試合のデータはどこのチームも見ていると思います。守備における地上戦でのデュエル勝率は大事な要素。そこはアピールというか、もう『マスト』ですね。プラスアルファが攻撃の部分や空中戦での対応なのかもしれない。僕は背丈がそこまでなくて、スイスリーグには大きい選手が結構多いので、そこでの対応の仕方で弱さを消す取り組みをしているし、今は自分の強みにもなってきていると感じています」

 デュエルでの高い勝率が「マスト」という感覚は日本時代から持っていたものだが、欧州に来てより強く意識するようになったという。
 
「世界水準の中で、どこで、どれだけできるのか。何が通用するのかを試したくてヨーロッパに来たというのはあります。日本の時も『マストの感覚』は持っていましたけど、自分の中でその意識はより強くなった印象がありますね」

インタビューに応じた常本佳吾【写真:中野吉之伴】
インタビューに応じた常本佳吾【写真:中野吉之伴】

日欧サッカーの違いを実感「日本よりもこっちのほうが…」

 ヨーロッパではウイングに1人で状況打開できる選手がよく起用され、スイスでも同ポジションには将来性豊かな選手を配置するチームが多い。だからこそ、そうした新鋭に簡単に翻弄されないサイドバックがいることで、チームにもたらす安心感は大きい。

「そうなんです。チーム全体として見ても、自分のところにそうした選手の対応を任せてもらえたら、ほかの選手の負担を少なくすることにもつながる。攻撃の選手はより攻撃に専念できるようにもなる。小さな積み重ねじゃないけど、自分のできることを増やせている。自分の役割が増えれば増えるほど、チームとして円滑になる部分があるという感じですね」

 対人に強い選手は欧州にも多い。フィジカル能力だけで見れば、速く強い選手は豊富だ。しかしビルドアップから攻撃の起点として関与し、ゲームの流れを読んだカバーリングやスペースの穴埋めもするなど、攻守両面で適切な判断ができる選手は貴重だ。

「ゲームを読む力は大事ですよね。自分たちの順位を含めて、得点経過や試合の状況を読んだうえで、何がなんでも攻め上がるわけではなく、バランスを考慮したプレーができるかどうか。そうした状況判断の部分はより意識するようになったし、そこで違いを見せられているという感覚はある。日本よりもこっちのほうが、自分の対峙した相手にさえやられなければOKという感覚は強いなと思います。でも上のレベルのチームやリーグを見ていると、そこでプラスアルファを出せる選手がいますし、そうした選手がいるのといないのとでは、だいぶ違うのかなと感じています」

 セルヴェットの試合を取材していると、常本から流れが生まれるシーンをよく見かける。サイドラインに沿ったパスや、スペースにボールを置くように出すパスは難易度が高いものだが、常本は冷静な判断と的確なスキルで相手のプレスを受けながらも味方につなぎ、ゴール方向へのベクトルを巧みに作り出す。タイミングのいいフィードでチャンスを演出する能力も兼ね備えている。

「ボール関与では、自分がフリーでボールもらいたいけど、思うようにパスが来ないシーンがまだある。そこで使ってもらえるように、自分を見てパスを出してもらえるような選手になることは、もっと意識していかないといけない。練習の時から、自分がボールを持った際にどれだけ違いを見せられるかに懸かっていると思います」

 守備面の『マスト』を確立し、攻撃面での引き出しを着実に増やすチャレンジを続けてきた常本。ステップアップを遂げる日は、そう遠くないのかもしれない。

(中野吉之伴 / Kichinosuke Nakano)



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中野吉之伴

なかの・きちのすけ/1977年生まれ。ドイツ・フライブルク在住のサッカー育成指導者。グラスルーツの育成エキスパートになるべく渡独し、ドイツサッカー協会公認A級ライセンス(UEFA-Aレベル)取得。SCフライブルクU-15で研修を積み、地域に密着したドイツのさまざまなクラブで20年以上の育成・指導者キャリアを持つ。育成・指導者関連の記事を多数執筆するほか、ブンデスリーガをはじめ周辺諸国で精力的に取材。著書に『ドイツの子どもは審判なしでサッカーをする』(ナツメ社)、『世界王者ドイツ年代別トレーニングの教科書』(カンゼン)。

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