迷走する横浜FM…対戦相手の本音「怖いと感じなかった」「形がない」 プライド捨てた戦法の問題点

神戸戦で無情な状況も浮き彫りになった【写真:Noriko NAGANO】
神戸戦で無情な状況も浮き彫りになった【写真:Noriko NAGANO】

ロングボール戦法のキーマン宮市亮が負傷、神戸にほとんど脅威を与えられず

 5度のJ1優勝を誇る横浜F・マリノスが未曾有の不振にあえいでいる。シーズンの折り返しを前にしてわずか1勝の最下位。5月21日のヴィッセル神戸戦では代名詞のアタッキングフットボールをかなぐり捨て、ビルドアップを省略するロングボール戦法で臨むも1-2で敗れ、連敗はクラブ史上最長の7に伸びた。しかも神戸の選手たちの声を聞けば、新たな戦い方が脅威になっていない、無情な状況も浮き彫りになった。(取材・文=藤江直人)

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 キックオフ直後の展開から、それまでの横浜F・マリノスと大きく異なっていた。FWアンデルソン・ロペスが下げたボールを、故障者が続出している関係で主戦場の右サイドバックではなく、右センターバックで先発した松原健が前方へ大きく蹴り出す。ターゲットは左タッチライン際を駆け上がっていたFW宮市亮だった。

 直後にもボールをキャッチしたゴールキーパーの飯倉大樹が、左サイドの宮市を狙って迷わずに長いパントキックを放つ。ワンバウンドしたボールは目測を誤った神戸のキャプテン、DF山川哲史の頭上を越えて宮市のもとに収まる。そのままペナルティーエリア内へ進入していく展開に日産スタジアムが沸いた。

 宮市の左足から放たれたシュートは枠を外れ、ゴールネットの外側に弾き返された。ゴールキックで試合が再開されるまでの間に、山川は宮市の対面に来る右サイドバックの酒井高徳に声をかけた。

「酒井選手とは『もう少しうまく対応しなきゃいけない』と話しました。僕たちのなかではマリノスはつないでくるイメージがあったけど、相手のキーパーがキャッチした直後もそこ(宮市)を明確に狙ってきていた。徹底して裏へ蹴ってくる、という情報は事前になかったけど、選手によってストロングポイントが違うなかで、(宮市の)ストロングポイントを生かす戦い方をしてきていると、試合が始まった直後の段階でわかりました。最初はうまく対応できなかったけど、そこで失点につながらなかったのはよかったと思っています」

神戸戦では違う戦い方で挑んだ

 AFCチャンピオンズリーグエリート(ACLE)と日程が重複した関係で、未消化となっていた神戸とのJ1リーグ第13節が開催される21日を前にして、宮市らは「いままでとは違う形になる」と語っていた。

 もちろん詳細は明かさない。それでもマリノスの立ち上がりを見て、山川とも対応策を確認しあった酒井は「メディアのみなさんのおかげで、何かを企んでいるだろうな、と思っていました」と苦笑しながら続けた。

「最初からそれほど怖い動きとは感じなかったというか、(宮市は)速い選手なので生かされる形が最大の特徴になるのかなと思っていた。ただ、正直に言えば(宮市が)生かされるまでの形がないし、蹴ってくるタイミングも自分のなかでは読みやすかった。よーい、ドンとなったらもちろん速いので、完全に行き切られる状況にはならないように気をつけていた。割と予想通りに対応できるシチュエーションが多かった、という感じでしたね」

 自陣からパスをつないでボールポゼッション率を高め、相手を動かしながら敵陣へ攻め込む。2019、2022シーズンのJ1リーグを制した横浜FMの独自のスタイル、アタッキングフットボールを自ら封印した。キャプテンのMF喜田拓也は、一時的にせよチームの看板を降ろした理由を神戸戦後にこう明かした。

「いまの僕たちには(勝利という)結果しか必要ないという状況で、その結果を出すためにどうすればいいのかをクラブとして考えて、みんなで話し合って、ある意味で腹をくくって挑みました。いまの僕たちは暗闇のなかにいるし、光が差してきたという表現が正しいかどうかはわからないけど、みんなのベクトルが揃っていたし、いままでの試合とは違う中身だったとういか、非常に前向きでポジティブなエネルギーは感じました」

 キックオフ前の時点で1勝5分け9敗。シーズンの折り返しが迫ってきている状況で、勝ち点わずか8で最下位の20位に沈むマリノスは、総得点11は横浜FCと並ぶリーグ最少、総失点25は名古屋グランパスの26に次ぎ、ワースト2位にあえいでいた。

対戦相手の神戸DF酒井高徳「向こうの狙いがはっきりとわかった」

 前節までクラブワースト記録に並ぶ6連敗を喫し、さらに直近のセレッソ大阪、柏レイソル、京都サンガF.C.と3試合続けて無得点で敗れていた。戦い方の変更を、松原も当然とばかりに受け入れた。

「本当に悔しいけど、いままでやってきた形で相手のゴール前までほとんど行けていなかった。そこでやり方を大きく変えて、よりシンプルに縦へ速く攻めていく形を意識しましたし、それほど混乱もなかった」

 しかし、なりふり構わぬ戦い方で挑み、前半だけで相手の4本に対して13本と、3倍以上のシュートを放っても神戸にすぐに対応された。前半28分に宮市が負傷交代した影響もあって、ロングボール戦法も奏功しなくなる。前半終了間際に喜田が豪快なミドルシュートを決めて、同点とするのが精いっぱいだった。

 神戸も2022シーズンにJ2への降格危機を経験している。折り返した時点で最下位に沈み、シーズン途中に通算3度目の登板を果たした吉田孝行監督のもと、堅守速攻スタイルに舵を切った後半戦になって復調。コンディションを取り戻した大迫勇也を中心にした戦い方で、最終的に13位で残留を果たした。

 苦しみ抜いた同シーズンで全34試合に先発。代行を含めて4人もの監督が指揮を執り、混乱をきたした軌跡をピッチ内外で誰よりも経験してきた酒井の言葉を聞けば、マリノスが低迷する理由が伝わってくる。

「何かが難しいんだろうな、と思いながら(ロングボールに)対応していました」

 酒井はさらに、負傷した宮市に代わって井上健太が出場した残り62分間の戦いをこう振り返った。

「向こうの狙いがはっきりとわかった分だけ、自分が難しいポジションさえ取らなければ、ひっくり返されてやられるケースもないかなと。時間が進むにつれて相手も攻め残るようになったので、自分としては攻め上がるよりもリスクマネジメントと、相手が押し込むタイミングでしっかりとはね返すところを最後まで意識しました」

 酒井が残した言葉の数々は、25日の鹿島アントラーズをはじめ、今後にマリノスと対戦するチームの参考になるだろう。新しい戦い方のキーマンを託された宮市は、右太ももに肉離れを起こしたと試合後に自ら明かした。DFサンディ・ウォルシュも負傷退場するなど、怪我人が続出する状況にも歯止めがかからない。

指揮官はポジティブ「今夜はベストの試合ができた」

 後半6分に大迫に決められた勝ち越しゴールを取り返せないまま、マリノスはクラブワースト記録を17年ぶりに更新する泥沼の7連敗を喫した。3月16日のガンバ大阪戦で勝利したのを最後に、連続未勝利試合は2分け9敗の「11」に到達。J1残留圏となる17位の横浜FCには、10ポイントも離されている。

 今シーズンから指揮を執ったスティーブ・ホーランド監督のヘッドコーチとしてマリノス入りし、前任者の解任に伴う暫定監督をへて、新監督に就任して4戦を終えたパトリック・キスノーボ監督は言う。

「結果はついてこなかったが、今夜は今シーズンでベストの試合ができたと感じている」

 しかし、オーストラリア出身の指揮官が胸を張るほどの希望は、プライドをかなぐり捨てた戦い方をもってしても、王者・神戸にほとんど脅威を与えられなかった90分からは見えてこない。Jリーグが産声をあげた1993シーズンから、鹿島とともにJ1の舞台で戦い続けてきた名門が最大の危機に直面している。

(藤江直人 / Fujie Naoto)



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藤江直人

ふじえ・なおと/1964年、東京都渋谷区生まれ。早稲田大学第一文学部卒業後に産経新聞社に入社。サンケイスポーツでJリーグ発足前後のサッカー、バルセロナ及びアトランタ両夏季五輪特派員、米ニューヨーク駐在員、角川書店と共同編集で出版されたスポーツ雑誌「Sports Yeah!」編集部勤務などを経て07年からフリーに転身。サッカーを中心に幅広くスポーツの取材を行っている。サッカーのワールドカップは22年のカタール大会を含めて4大会を取材した。

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