審判批判から「どうやってゲームを守るか」 飛び出す選手…Jで目立つ“ベンチの抗議”

審判批判が度々物議を醸すジョゼ・モウリーニョ監督(右)【写真:Getty Images】
審判批判が度々物議を醸すジョゼ・モウリーニョ監督(右)【写真:Getty Images】

モウリーニョ監督の懲りない抗議から見る「どうやってゲームを守るか」

 ヨーロッパのサッカーシーズンも次々に終わりを迎えている。2024-25シーズンもいろいろな国でさまざまな監督の采配を見ることができたし、個性豊かな監督たちのコメントに腹を抱えさせてもらった。

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 そのなかでも相変わらず面白いのはジョゼ・モウリーニョ監督だった。モウリーニョ監督は現在トルコのフェネルバフチェを指揮しており、追い上げをみせたものの最後はガラタサライに届かず2位が確定した。

 指揮もさることながら、2024-25シーズンもモウリーニョ監督はいろいろ物議を醸した。最近では4月のトルコカップ準々決勝、ガラタサライとの試合で1-2と敗れると、試合後にオカン・ブルク監督の背後から近づくと右手で鼻をつねって倒した。

 これにトルコサッカー連盟は罰金とともに3試合のベンチ入り禁止という処分を下している。しかもモウリーニョ監督のベンチ入り禁止はこのときだけではない。

 2024年11月にはトルコの審判レベルを批判して罰金と1試合のベンチ入り停止、2025年2月にはガラタサライとの試合をスロベニア人主審が担当することになったのを受けて、トルコ人主審が担当したならば「大惨事になった」と発言し、このときも罰金と2試合のベンチ入り禁止となっている。

 1シーズンで5試合の出場停止になった選手が出たら日本では非難が集中するだろうが、モウリーニョ監督は2位が確定した試合の記者会見で「ヨーロッパのサッカー界で最も重要な国のメディアをコントロールすることができた」「トルコの病気がどのようなものであるかを世界中に知ってもらうことが、ひとつのレベルで成功した」などと悪びれずに語っている。

 もっとも、トルコサッカーでは2023年12月、ピッチに乱入してきたクラブの会長が主審を殴ったり、2025年2月にはガラタサライにPKが与えられると最下位のアダナ・デミスポルの会長が試合放棄を指示して選手が引き上げ、その後勝ち点マイナス3という罰則が適用されたり(しかもアダナ・デミスポルはその他のこともありこのシーズンは全部で勝ち点マイナス12された)と、いろいろカオスなことが起きる。

 それはさておき、モウリーニョ監督はこれまでもたびたび審判批判を繰り返してベンチ入り禁止や、退場を命じられている。2024年10月もヨーロッパリーグの試合でフランスのクレマン・トゥルパン主審に食ってかかり退場となった。このトゥルパン主審は2016年にフランスサッカー連盟から最高の主審に選ばれた人物なのだ。

 モウリーニョ監督、とにかく懲りない。一貫して審判に文句を言い続ける。トルコの場合は、審判に政治的な圧力がかかっているのではないかという疑惑が常に向けられているという事情があるにせよ、シーズン中にたびたびベンチ入り禁止になるというのは世界的に見ても珍しいことではある。

 一方で、こういう監督からの抗議を競技サイドから見ると「どうやってゲームを守るか」ということにつながっていく。

 対戦チームが審判に任せなければ、どうやってもゲームを進められない。そもそも審判とは両チームから依頼されて、どちらのボールになるかというのを聞かれる立場だ。もしも「任せられない」というのなら、試合そのものが成立しなくなる。

 そのため審判の権威は非常に手厚く守られる。公然と審判批判を行うことや、判定に対してあからさまな異議を捉えることは禁止されている。

 JリーグではJ3リーグで3月、SC相模原のシュタルフ悠紀リヒャルト監督が選手へのイエローカード提示の際にベンチを叩いたことが「審判員の判定に対する悪質な抗議」だとして1試合のベンチ入り禁止に。4月はサンフレッチェ広島のミヒャエル・スキッベ監督が試合後のインタビューで「審判員に対する攻撃的、侮辱的若しくは暴力的言葉又はジェスチャーの使用」をしたということで2試合のベンチ入り停止処分となった。

 ただし、幸いなことにJリーグでは何度もベンチ入り停止処分を科される監督はあまりいない。これはJリーグの特長としていい部分ではないだろうか。

 だが最近は監督よりもむしろベンチのスタッフや選手たちが飛び出していって抗議する姿のほうが目立つようになった。実はこの行為も警告や退場の対象になることがある。実際、ACLに出場するチームでこのことを意識して自制しているクラブもあった。

 2022年カタールワールドカップではスイスvsセルビアでPKを取ってもらえなかったセルビアのベンチが一斉に飛び出して抗議し、そのなかの一人にイエローカードが提示されている。ちなみに、かつてJリーグで13回という最多退場記録を持つストイコビッチ監督は、荒ぶる選手を一生懸命なだめていた。

 このピッチ以外からの抗議に対しても、Jリーグはもっと対処していいのではないだろうか。選手たちはプレーしたがっているのに主審がベンチの対応に追われて試合が再開できないのは本末転倒。抗議の間、時計は止まっていると思うものの「途切れなくプレーが見られる」というサッカーのよさをもっと大切にしてほしいと思う。

(森雅史 / Masafumi Mori)



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森 雅史

もり・まさふみ/佐賀県出身。週刊専門誌を皮切りにサッカーを専門分野として数多くの雑誌・書籍に携わる。ロングスパンの丁寧な取材とインタビューを得意とし、取材対象も選手やチームスタッフにとどまらず幅広くカバー。2009年に本格的に独立し、11年には朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)の平壌で開催された日本代表戦を取材した。「日本蹴球合同会社」の代表を務め、「みんなのごはん」「J論プレミアム」などで連載中。

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