「批判する方もいると思いますが…」北海道から奄美まで…森保監督が講演会をする“理由”

講演会も積極的に行う森保一監督【写真:荒川祐史】
講演会も積極的に行う森保一監督【写真:荒川祐史】

代表監督2期目でより力を入れている“営業”の仕事

「日本サッカーの未来を考える」を新コンセプトに掲げる「FOOTBALL ZONE」では、日本代表を率いる森保一監督のインタビューを随時配信していく。2026年の北中米ワールドカップ(W杯)で史上初の優勝を目指す指揮官は、なぜ積極的に講演会を行うのか。その“真意”を語った。(取材・文=FOOTBALL ZONE編集部・井上信太郎)

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 南国特有の強い日差しを浴びながら、自然と笑みがこぼれていた。4月下旬、森保監督は東京から1250キロ離れた鹿児島・奄美大島にいた。日々の疲れを癒しに束の間の休息に……なんてことはない。以前から知人に頼まれていたこともあり、奄美のサッカー少年たちの練習を視察、そして講演会を行うために足を運んだのだ。

「W杯までのスケジュールを考えた時に、唯一ここなら行けると思って。少年少女への夢を持ってねというメッセージであったり、サッカーファミリーに感謝の気持ちを伝えに来ました」

 2022年カタールW杯後、日本代表監督史上初めて、連続で2期目を務めることになった。細胞レベルまで「日本サッカーの発展と成長」を考えている指揮官は続投するにあたり、当時の田嶋幸三会長に唯一“条件”を出した。

「マネジメント型でいいですかと。カタールW杯まではより現場に立って、自分で練習もやる、ミーティングもやる、メディア対応もやる、としていました。ただ代表の活動期間が限られた中で、すべてやろうとすると逆に薄くなってしまうと。よりコーチやスタッフの力を借りながら、チームマネジメントをしていく。カタールの時も最後の方はマネジメント型に移行はしていたんですけど、それがチームとして一番パワーになっていくんじゃないかな、勝つ確率が上がるんじゃないかなと判断しました。田嶋前会長にその確認はしましたね」

 その中でより力を入れるようになったのが“営業”の仕事だ。日本代表としての活動や視察で国内外を飛び回る生活を送っているが、カタールW杯後からの2年半で、講演会やイベントに出席した回数は40回に上る。さらにTVや新聞などメディアにも積極的に出演している。広島の監督時代から営業の大切さは意識していたという。

「広島で優勝したあとのセレモニーで『来年のシーズンチケット買ってください。監督兼営業部長としてお伝えさせていただきます』と言ったことがありました。でも本当に先輩の営業部長がいて『お前、営業部長か』って怒られたので、今は営業担当ということにしてるんですけど(笑)。でもコーチ陣の理解があって、初めて外に行かせてもらえるので本当に感謝しています。コーチ陣には『営業と普及担当、行ってきます』と言ってます」

 前述の奄美大島に、長崎・五島列島、他にも北海道・栗山町や能登地震の被災地まで。さらには大学や専門学校のイベントに、栃木・那須で行われた“初蹴り”までに顔を出す。日本代表監督であれば、イベントの大小で選びそうなものだが、基準は「行けるタイミングで行く」。それだけだ。

「もちろんメディアに出ればよりたくさんの人に見てもらえると思います。その上で、サッカー以外のイベントにも出させていただいて、顔を知ってもらう、サッカーに気づいてもらう。本当は選手がフォーカスされるべきで、監督がやるべきじゃないとは自分では思っています。それでも直接顔が見えて声を届けられるのであれば、スケジュール上、可能であれば動こうと。感謝の気持ちを伝えたり、一緒に世界一を目指して戦いましょうと呼びかけさせていただいてます。1期目の時はどこかには行くのに、どこかには行けない、ということがないようにいろいろバランスを見ていたんですが、それを考えていると、いつまで経っても行けないよと思って。2期目は行ける所から行こうと」

奄美大島の子供達と記念撮影をする森保監督【写真:井上信太郎】
奄美大島の子供達と記念撮影をする森保監督【写真:井上信太郎】

W杯優勝に必要な“国の力”

 本業を疎かにしているわけではなく、むしろ加速している。2024年のアジアカップではベスト8敗退に終わったが、北中米W杯アジア最終予選では圧倒的な強さで、史上最速突破を果たした。世界一になるために“逆算”した上での行動だ。

「もちろん、本業は監督です。監督を辞めたあとのセカンドキャリア……いやサードキャリアで、講演会を仕事にしていくつもりはないですからね、今のところは。こういうことを率先してやることを批判する方もいると思いますし、本末転倒には絶対にならないように意識しています。コーチ陣が協力してくれてほかの時間を作れていますが、基本的には選手を見て選ぶことに時間を掛けています。それでも何故やるかと言えば、我々の強化になると思っているからです」

 ロシア大会ではコーチとして、カタール大会では監督としてW杯を経験した。その中で感じたことはチームだけの力、選手だけの力で勝てる舞台ではないということ。カタール大会で優勝したアルゼンチンは、首都・ブエノスアイレスで行われた祝賀パレードに400~500万人が集結した。優勝国になるには国民のサポートが必ず必要になる。

「我々が競技をやっている上で勝ちたいという思いはありますが、何のために本当に勝ちたいかというと、日本のために勝ちたい。国内外で頑張っていらっしゃる日本人の方々に結果で喜んでいただきたい。一緒に夢を乗せていただいて、不可能だと思われているW杯優勝を日本人が実現して、国全体で喜んで、日本人であることを誇りに持てるようにできればなと思っています。そのためにも、日本全体のエネルギーを持って、日本の関心事の中で戦うことで、より勝つ可能性が上がると思っています。世界の中で日本人ならできるんだということにつなげていきたい」

 全ては世界一になるため――。

「できることならば、本当は国民の1億2000万人、全員に挨拶に行きたいんです」

 このフットワークの軽さは間違いなく世界一。最強の“監督兼営業担当”に導かれ、日本がW杯優勝を目指す。

(FOOTBALL ZONE編集部・井上信太郎 / Shintaro Inoue)



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