出場時間激減も…なぜ信頼不変? 遠藤航の転機、ベンチ外→プレミア王者「あの試合は肝だった」

リバプールの優勝に貢献した遠藤航【写真:Getty Images】
リバプールの優勝に貢献した遠藤航【写真:Getty Images】

リバプール優勝に貢献の遠藤航、ドイツ時代に直面した苦難と飛躍の原点

 イングランド・プレミアリーグでリバプールが見事な戦いぶりで今季のリーグ優勝を飾った。日本代表MF遠藤航は、公式戦合計(5月13日時点)で30試合831分の出場時間を記録。2023-24シーズンに公式戦合計で44試合、2848分プレーしており、それと比較すれば確かに出場機会は減っている。

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 選手ならば誰でもスタメンとしてピッチに立ちたいし、試合終了までプレーをしたい。スタメンから外れるなら、せめて20~30分は途中出場して貢献したい。しかし勝っているチームであればあるほど、変化は加えにくい。特に守備陣はいじることで安定感を失う危険があるから、なおのことそうだ。どれだけ練習でいいプレーを見せていても、監督はそこで苦渋の選択をしなければならない。

 遠藤のいかなる時も崩れることなく全力で戦う真摯な姿勢は、チームメイト、スタッフだけではなく、ファンの心も射抜いた。そしてピッチに立てば求められるプレーを必ず見せてくれる。

 ドイツのシュツットガルト時代もそうだった。遠藤には自分の成長に矢印を向けられるメンタリティーがある。そして、出場できる・できないことに左右されるのではなく、自分が成長するためには何に取り組み、どこにチャレンジすべきか明確に逆算できる能力が備わっている。

 ドイツ最初の舞台はブンデスリーガ2部だった。2019年夏にベルギー1部のシント=トロイデンから加入した遠藤は、当時監督だったティム・ヴァルターの下でなかなか出場機会を得られず、ベンチ外や控え生活が長く続いていた。それでも虎視眈々とチャンスを待ち、第14節カールスルーエとのダービー戦でスタメン起用されると、一気に評価を変えてしまう。後日、遠藤は当時のことを次のように振り返っていた。

「もちろん(出場のチャンスを)待っていたっていうのもあるし、ずっと出られない時期もしっかり練習からやっていくしかない。あの試合は1つの肝だった。出られない時期にチャンスを掴む準備をずっとやっていたからこそ掴めたと思います。やっぱり継続したことが良かったのかなと思います」

遠藤航にとって転機となったシュツットガルト時代のカールスルーエ戦【写真:Getty Images】
遠藤航にとって転機となったシュツットガルト時代のカールスルーエ戦【写真:Getty Images】

元ドイツ代表も遠藤を絶賛「自分の間合い・守り方を明確に持っている選手だ」

 ポジションを確保してから高いパフォーマンスで安定しているだけではなく、常に成長曲線を描いていた。守備に関してはすぐにドイツファンもそのクオリティーを認めた。元ドイツ代表DFのルーカス・シンキヴィッツに遠藤の守備について聞いたことがある。
 
「万人に共通する特定の法則があるわけではないんだ。特に守備的なポジションでプレーする選手は、自分自身でメソッドを身につけなければならない。遠藤はどんな相手にも適切に対応することができる。自分の間合い・守り方を明確に持っている選手だ」

 どのポジションでもすぐに順応して求められるプレーができるフレキシブルさは遠藤が持つ特徴の1つ。シュツットガルト時代もボランチだけではなく、センターバックで起用されることがあった。当の本人は「別に問題ないです。ずっといろんなポジションやってるんで」と涼しい顔で答えるが、誰にでもできることではない。

「ありがたいことにいろんな監督からいろんなポジションで使ってもらっている経験がある。いろんなポジションで僕のことを使ってくれることによって、僕のプレーの幅も広がる」(遠藤)

 遠藤といえば、与えられたポジションで与えられたタスクをこなし、今できるベストプレーに取り組むだけではなく、常に先のことを見据えてチャレンジしていた姿がとても印象的だ。攻撃面の成長も目覚ましいものがあった。ある時期から「ボランチからどう攻撃へつなげるかに積極的にトライしている」と、遠藤がたびたび口にしていた。

「最後に『相手を崩す』という場面で物足りなさがある。ボランチの1人がゴール付近で上手く関われるかがチャンスになるかならないかですごく大事になってくる。感覚的にはすごくいいし、シュートまで持っていければみたいなところもあります」

 クリアボールをダイレクトで、あるいはコントロールしてからすぐに前線の味方へパスを通す。足を止めずそのまま攻撃へ参加し、テンポ良くボールを展開してチャンスを作り出す。好機を逃さずシュートまで持ち込む。そんな遠藤のオフェンシブなプレーも増えていった。2022-23シーズンにはボランチでありながら、ギニア代表FWセール・ギラシ(現ボルシア・ドルトムント)に次ぐチーム2位の5ゴール5アシストの数字をマークした。

遠藤獲得をクラブに進言…最大級の賛辞「ワタルは我々の心臓部だ」

 それこそシュツットガルト時代には、チーム事情によりインサイドハーフでのプレーを余儀なくされる時もあった。味方がプレスに行く様子を見て、狙いをつけてプレスをかけるボランチとは違い、プレスをかけて相手の攻撃を制限しつつ押しこんでいく役割を担うインサイドハーフではタスクそのものが異なるため、最初はどうしても戸惑いも出る。しかし、それまでの取り組みをベースに上手く整理・調整することで、徐々にインサイドハーフでも存在感を発揮したのは見事だ。

 代名詞だったデュエルの勝率が下がることで、遠藤の調子が良くないと報じられた時期もあった。だが、この時期の遠藤のデュエルが行われたヒートマップを見てみると、そのプレー範囲の広さに驚かされるはずだ。中盤だけが主戦場ではない。ハーフスペースも、バイタルエリアも、ペナルティーエリア内も、すべてが遠藤のテリトリーだったのだから。さまざまなポジションやタスクを担いながら、苦しい時期にいたシュツットガルトを見事1部残留へと導き、デュエルモンスターがあちこちにいるブンデスリーガで、2年連続デュエルキングに輝いたのだ。

 遠藤獲得をクラブに進言したシュツットガルトのスベン・ミスリンタートSD(スポーツディレクター)が口にした最大限の賛辞が、すべてを物語っている。

「ワタルは我々の試合運びにおける重要なファクター。チームに安定感をもたらしてくれる。ほかの選手がどのように守備をすべきかをオーガナイズし、1対1の競り合いでものすごくインテリジェンスに対応する。ボールを奪い取ると、素晴らしい技術で素早く攻撃へシフトチェンジしてくれる。我々の心臓部だ」

 プレミアリーグの舞台でリバプール優勝メンバーの一員となり、仲間やファンと喜び合った。シュツットガルトで残留争いしていた頃には想像もできないところまで来た。だがこれがゴールではない。成長の足を止めることも、止めるつもりもないだろう。さらなる高みへ。遠藤のチャレンジはこれからも続いていく。

(中野吉之伴 / Kichinosuke Nakano)



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中野吉之伴

なかの・きちのすけ/1977年生まれ。ドイツ・フライブルク在住のサッカー育成指導者。グラスルーツの育成エキスパートになるべく渡独し、ドイツサッカー協会公認A級ライセンス(UEFA-Aレベル)取得。SCフライブルクU-15で研修を積み、地域に密着したドイツのさまざまなクラブで20年以上の育成・指導者キャリアを持つ。育成・指導者関連の記事を多数執筆するほか、ブンデスリーガをはじめ周辺諸国で精力的に取材。著書に『ドイツの子どもは審判なしでサッカーをする』(ナツメ社)、『世界王者ドイツ年代別トレーニングの教科書』(カンゼン)。

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