今季Jリーグ序盤戦で見えた「APTの増加」 改革で成果も9年前より減少…短くなった理由は?

改革の結果APT増加が見られた今季Jリーグ序盤戦(写真はイメージです)【写真:徳原隆元】
改革の結果APT増加が見られた今季Jリーグ序盤戦(写真はイメージです)【写真:徳原隆元】

Jリーグは「J STATS REPORT 2025 Q1」を公開

 Jリーグは5月8日、2025シーズン(第1節~第9節)のJリーグをデータで振り返る 「J STATS REPORT 2025 Q1」を公開した。そのデータを紐解くと、今年のJリーグで行おうとしている改革が見えてくる。

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 最も如実に表れているのは、各チームのアクチャルプレーイングタイム(APT)が延びていることだ。アクチャル・プレーイングタイムとは、ボールがタッチラインやゴールラインの外に出てからスローインやゴールキック、コーナーキックで試合が再開されたり、ファウルの判定からFKが蹴られたりするまでなどの時間を除いた、「実際にプレーが動いている時間」のこと。

 Jリーグは2012年から「プラス・クォリティー・プロジェクト」を行っていて、「簡単に倒れない、笛が鳴るまでプレーをやめない」「リスタートを早く」「選手交代を早く」「抗議・遅延はゼロを目指す」という目標を立ててAPTを延ばそうとしている。東京ヴェルディの城福浩監督が度々APTについて触れるが、その背景にはこれがある。

 2016年に計測されたときは20試合を終えた時点でJ1リーグの平均APTは56分28秒だった。2015年は54分30秒だったが、2016年の時点で2分近く延びていたのだ。

 ところが2024年、J1リーグのAPTは全チーム平均で51分44秒にまで落ちていた。落ちた要因については後ほど考えるとして、2025年の第9節まででは54分6秒まで上がってきている。

 この2024年から2025年にかけてAPTが長くなった原因はさまざまな積み重ねがある。たとえば、レフェリーはファウルがあったとしてもプレーが続いていた場合などはアドバンテージをとって試合を流すことを意識しているということもあるだろう。

セットプレーの回数は減り、リスタート時間も減

 だが、それ以外の要素も大きい。たとえば1試合の間のリスタート時間で、FKは2024年に比べて1.5分、CKにかかる時間も0.6分短縮されており、ゴールキックについても0.4分短くなっている。そのためセットプレーのリスタート時間は全体で2分短くなったのだ。また、セットプレーの件数そのものも減っている。2024年は1試合あたりの平均セットプレー数が28.1回だったのに対して、2025年は25.0回に減った。

 ただし、スローインにかかる時間は1試合あたり0.9分長くなっている。ロングスローの回数はあまり変わっていないということで、ロングスロー以外のスローインにかける時間が長くなってしまっているのだ。ここは大いに改善の余地がある。

 そして2024年に比べて改善されている要素が多いとはいえ、2016年の20試合を終えた時点のデータと比べるとまだ低い。2016年は1試合あたりゴールキックにかかる時間が6.6分、2025年は7.1分。CKは2016年が4.7分、2025年は6.2分。まだ以前の水準に戻っているとは言えない。

 細かく試合を見ると、2025年第9節までのJ1リーグの試合でもっともAPTが長かったのは3月29日のアルビレックス新潟対ガンバ大阪で、66分45秒だった。J1リーグ平均は54分8秒なので、この試合の観客は12分以上もプレーを楽しめたことになる。それでも、2016年のJ1リーグ開幕戦だったサンフレッチェ広島対川崎フロンターレのAPT 71分9秒にはまだ及ばない。ちなみに2016年の広島を率いていたのは森保一監督、川崎は風間八宏監督で、スコアは0-1だった。

APTが短くなる要因はフィットネス強度が影響か

 ではなぜ2016年に比べると今年のAPTは短くなっているのか。その問題を考えるとき、Jリーグのフィットネス強度が増していることを考えなければいけないだろう。2016年のJ1リーグで1試合中の平均急加速回数は249.8回、平均急減速回数は377.3回だった。これが2024年になると平均急加速回数は300.2回と120パーセント、平均急減速回数は429.4回と114パーセント増えている。それだけ体力が求められるようになっているのだ。

 そしてフィットネスを考えるときに参考になるデータとして「チーム別の平均HIRRとボールインプレータイム」がある。「HIRR(High Intensity Running Ratio)」とは、フィールドプレーヤーの走行距離のうち、時速20km以上の割合だ。

 この「HIRR」が最も高いのは京都で他のチームよりも0.5パーセント以上多く、8.5パーセントを超えている。これはプレミアリーグの平均を上回る。2番目は岡山でわずかに8.0パーセントを下回り、プレミアリーグの平均程度。そしてこの京都と岡山は、J1リーグの中でボールインプレータイムが最も少なく44分を下回っているのだ。

 つまり、インテンシティ高く試合をすると、まだその強度を長時間続けられるだけの体力があるチームはいないということではないだろうか。そしてその高い強度をどれだけ長く続けられるかというのが世界を追い抜くために必要であり、そのためにもAPTを延ばしていくことが重要ということだろう。

 なお、この公表されたデータにはレフェリーがアドバンテージを取る回数が10パーセントほど減っているものの得点に2倍直結しているという、判定精度の向上が数字として出ている。さらに各J1チームのそれぞれのセットプレーのリスタート時間が2024年に比べるとどれくらい早くなっているかというデータも公表されている。

 参考のために、J1リーグ全20チームのセットプレーリスタート時間の平均は、FKが37.3秒、CKは38.6秒、スローインは14.6秒、ゴールキックは28.5秒。J1各チームのセットプレーリスタート時間も掲載されていて、FKにおいては湘南と横浜FM、CKは柏、スローインは清水と柏やG大阪、ゴールキックは柏が特に優れているというデータが出ているなど観戦の参考になると思うので、どうか一度ご覧いただきたい。

(森雅史 / Masafumi Mori)



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森 雅史

もり・まさふみ/佐賀県出身。週刊専門誌を皮切りにサッカーを専門分野として数多くの雑誌・書籍に携わる。ロングスパンの丁寧な取材とインタビューを得意とし、取材対象も選手やチームスタッフにとどまらず幅広くカバー。2009年に本格的に独立し、11年には朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)の平壌で開催された日本代表戦を取材した。「日本蹴球合同会社」の代表を務め、「みんなのごはん」「J論プレミアム」などで連載中。

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