日本の育成に警鐘「大卒で海外に来るのは遅い」 欧州目線で提言…JリーグU-21構想の成功条件

岡崎慎司氏がU-21リーグの構想について話してくれた【写真:IMAGO / Beautiful Sports】
岡崎慎司氏がU-21リーグの構想について話してくれた【写真:IMAGO / Beautiful Sports】

Jリーグが検討するU-21リーグ新設、岡崎慎司が“欧州基準”で私見

 JリーグでU-21リーグの創設が検討されているなか、現在ドイツ6部チームで指揮を執る元日本代表FWの岡崎慎司は構想に賛同する。U-21リーグのあり方が重要と説くなか、「大学チームと一緒にリーグを作るみたいなのがあってもいい」「育成選手を多く起用しているクラブは評価され、Jリーグから育成費をもらえたりとか」と提言する一方、「現場にばかり負担がかかるようになったら難しい」と懸念点も指摘している。(取材・文=中野吉之伴)

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 Jリーグでは2026年夏からU-21リーグ新設を検討している。ユース上がりの選手がどこでどのようなプレー機会を掴むかは極めて重要だ。どれだけ資質があるとされる選手でも、適切なステージで適切な実戦経験を積むことができなければ伸び悩みに苦しみ、再浮上するきっかけを掴めないまま消えていく例は世界中で数えきれないほどたくさんある。
 
 欧州での経験豊富な持ち、現在はドイツ6部FCバサラ・マインツで監督として奮闘する岡崎慎司は言う。
 
「U-21の試合環境を作ろうというのはとてもいいことだと思うんです。でも、それをどのような形にするのか。ヨーロッパのように大人のリーグでプレーできるようにするのか。あるいは同年代で試合をする環境を良しとするのか。それでいくとライバルは大学だと思うんですけど、別々にやるんじゃなくて、大学チームと一緒にリーグを作るみたいな連携があってもいいんじゃないかと思うんです。

 あと、選手の成長やキャリアを考えて、最終的に世界のトップレベルでプレーする選手をどうやって輩出するかという視点でこの年代における試合環境のあり方を考えているかどうか。ヨーロッパ基準でサッカーを考えてみると、大卒で海外に来るのは遅い。22歳、23歳で初めて海外に来るのではなくて、ユース後に海外に出る機会を増やすにはどうしたらいいかを考えることも大切じゃないかなと思います。そうなると大学リーグや今考えられているU-21リーグを超える何かを考えないと」

若手も「マーケットの中に入るべき。入れないとルートに乗れない」

 ドイツではU-19ブンデスリーガよりも、4部リーグのほうがレベルは上だとサッカー関係者は口を揃えて言う。プロクラブの育成機関において各年代のトップレベルでプレーをしてきても、様々な年代の優れた選手がプレーする大人のリーグとはあらゆるものが違う。だからこそ、U-21チームの捉え方と活かし方が重要になると強調するクラブも少なくない。特に育成に秀でているフライブルクやマインツといったクラブの責任者からは「そこが生命線になる」という話を聞いたことがある。
 
「イングランドにはU-21リーグがある。個人的には大人の中でやったほうがいいかなって。マーケットの中に入るべき。マーケットに入れないとルートに乗れない。プロになる道がいろいろあるのはいいんですけど、じゃあそのなかでどれだけの選手が早い段階でヨーロッパに行けるのかと。世界基準ばかりで考えちゃうとあれかもしれないですけど、大切な視点だと思うんです」(岡崎)

 ワールドワイドに広がっていくサッカー界のなかで、日本サッカーがどのようなビジョンでどのような取り組みをしていくかのコンセプトはできる限り明確に打ち出し、共有したほうが良いのは確かだ。
 
「あと大事なのは……」と言って岡崎はこんな指摘をした。

「ヨーロッパのサッカーは様々な面で先を行っているから、成功例だけじゃなく失敗例もたくさんある。そこから学べることはすごいあるんです。ヨーロッパはヨーロッパ、日本は日本って別物みたいに考えがちなんですけど、本当は一緒に考えたほうがいい。やっぱり歴史は知って、参考にすべきだと思う」

 ドイツの全クラブがU-21を有効活用しているわけではなく、例えばフランクフルトは一時廃止していたこともある。予算的な問題やU-19からトップチームに昇格できない選手に投資するよりは、資質のある選手を外から獲得するほうががいいという考えがそこにはあった。そんなフランクフルトが2022-23シーズンから再びセカンドチームとしてU-21を復活させている。

清水ではサテライトリーグも経験した【写真:Getty Images】
清水ではサテライトリーグも経験した【写真:Getty Images】

岡崎も感謝する育成の場「僕もサテライトリーグで経験を積めた側の人間」

 フランクフルトスポーツダイレクターのマルクス・クレシュは、「トップチームへの橋渡しとして、クラブの戦略的な取り組みにおいて重要となる。才能ある若手選手が大人のサッカー環境に順応していく可能性を作るという観点からだけではなく、トップチームでまだ主力となるまで経験が必要な将来性の高い選手にとって、可能な限り高いレベルで試合に出られる環境を作る必要がある」と理由を説明している。

 一時は不要と判断しても、改めて分析し、必要とあれば再び着手する。そうしたプロセスから学ぶものが多いと岡崎は言う。
 
「ドイツとかはやっぱり、一周も二周も先にやっている。U-21を廃止したけど、継続しているクラブが結局育成で成功しているのを見て、いろいろ考えて今がある。そういうのもいっぱい見たほうがいいし、参考にできることがいっぱいあると思う。僕もサテライトリーグがあったおかげで経験を積めた側の人間なんで。そうした機会は絶対あったほうがいいです。例えばU-21の大会をやるんだったらそれなりの額の優勝賞金を設定したり、育成選手を多く起用しているクラブは評価されて、Jリーグから育成費をもらえたりとか。現場にばかり負担がかかるようになったら難しいですよね」

(中野吉之伴 / Kichinosuke Nakano)



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中野吉之伴

なかの・きちのすけ/1977年生まれ。ドイツ・フライブルク在住のサッカー育成指導者。グラスルーツの育成エキスパートになるべく渡独し、ドイツサッカー協会公認A級ライセンス(UEFA-Aレベル)取得。SCフライブルクU-15で研修を積み、地域に密着したドイツのさまざまなクラブで20年以上の育成・指導者キャリアを持つ。育成・指導者関連の記事を多数執筆するほか、ブンデスリーガをはじめ周辺諸国で精力的に取材。著書に『ドイツの子どもは審判なしでサッカーをする』(ナツメ社)、『世界王者ドイツ年代別トレーニングの教科書』(カンゼン)。

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