「戦術よりも…」古巣対決であふれ出た“パッション” 選手が明かした…指揮官のロッカーの姿

鹿島は国立競技場で川崎に2-1で逆転勝利を収めた
特別な思いを持って臨んだ一戦だったことは間違いないだろう。今シーズンより鹿島アントラーズを率いる鬼木達監督は、5月11日のJ1第16節で昨季まで指揮を執っていた川崎フロンターレと対戦した。
「古巣対決」であれば、よくある話。だが、鬼木監督と川崎の関係は単なる「古巣」ではない。2000年から現役最後の7シーズンを川崎で過ごし、その後に育成・普及コーチ、トップチームコーチ、トップチーム監督を昨年まで務めてきた。監督就任1年目にシルバーコレクターだったクラブに初のJ1優勝でタイトルをもたらすと、そこから黄金期を築きあげて4度のリーグ優勝をはじめ、7つのメジャータイトルをクラブと勝ち取った。
Jの歴史を振り返っても最も成功している監督の一人が、そんな古巣と初めて対戦する。周囲にとっても胸が騒ぐようなストーリーなのだから、監督自身、さぞかし強い思いをもって臨んだ試合だっただろう。
新国立競技場では最多となる5万9574人を集めた一戦では、両チームのメンバー発表の最後に鬼木監督の名前が呼ばれると、両チームのサポーターから割れんばかりの拍手が起こった。そんな鬼木監督が率いる鹿島は川崎に先制点を許しながらも、MF舩橋佑のプロ初ゴールで追いつき、FW田川亨介の決勝点で2-1の勝利を収めた。
試合後の記者会見で鬼木監督は「両チームのサポーターが非常に良い雰囲気を作ってくださいました。こういった中で戦えるのは幸せなこと。こういうゲームが多くあればいいなと心から思いました」と切り出し、試合を総括した。「ゲームのほうは自分たちはかなり相手に押されたと思います。相手の出足のほうが速く、スピード感についていけず苦しいゲームでした。また、セットプレーという警戒していたところでやられたことでも難しい展開で始まったと思います。そのなかでもしっかりと点を取って(ロッカールームに)帰ってこれたこと。途中からしっかり自分たちでボールを動かすことも、徐々にできてきたと思います。ただ、苦しいところで点を取れたこともそうですが、守りのところで最後にあれだけ押されたなかで、身体を張った。それが勝利につながったと思います。非常に気持ちのあるゲームができたかなと思います」と、振り返った。
川崎と対戦する際、どんな思いだったかが気になるところだが、鬼木監督は「試合中はいつもと変わらないですね。勝つことだけを求めてやっていました。できればもっと自分たちの強みを出して勝てれば良かったですが、うまさとか、取れない部分もありました。最終的に川崎というより、相手として戦えたことが自分自身のなかで良かったかなと思います。変な感情のなかでやるのではなく、選手と一緒に目の前の相手を倒すことに集中できたので、うれしく思います」と語った。
さらに特別な思いの有無を聞かれると、「勝ち点3はどこと戦っても一緒。勝った嬉しさもあれば、(川崎の選手たちの)悔しい表情を見れば、いろいろな思いがあります。ただ自分も鹿島の一員として、ここには優勝するためにきている。そこを主として考えることが、自分のスタイル。ほかに大きなものを持たないことが大事なのかなと今の立場では思っています」と、あらためて自身が鹿島を率いていることを強調した。
あくまでいつもと同じようにという姿勢で試合中も、試合前も指揮を執ってきたという鬼木監督だが、選手たちは少し違いを感じていたようだ。守備で最も貢献した選手に贈られる「アイアンマン・オブ・ザ・マッチ」を受賞したGK早川友基は「鬼木さんは優勝を経験していて、佇まいにも余裕があるんです。負け続けていた時も何も変わらなかったし、そういう面でみんな本当に信頼していると思います。そういう面でみんな本当に信頼していますし、優勝しているからこそ、どこが大事かは伝えてくれますし、『今回も6連勝しよう』と言ってくれて、自分たちからしたらその指標を出してくれるのはありがたい」と、普段から鬼木監督の指導に感謝している。その上で、川崎戦に向けては「気合は入っているだろうなと思いました。(ミーティングでの)熱量は多めでしたね。気合入っていました。一番、鬼さんが気合入っていたと思う」と“違い”を感じ取った。
決勝点を挙げた田川も、「熱量はありましたね。細かい戦術よりは、戦う姿勢のところを強調していたと思います。いつもはもうちょっと戦術的なところが多いのかなという感じでしたが、(この試合に向けては)パッションでしたね。相手が川崎で国立での試合でしたし、(選手たちも)勝たせてあげたいという気持ちに自然となりましたね」と、普段以上に気持ちを前面に出すことを求めていた指揮官に白星を送る気持ちが強かったと明かした。
3連敗を喫した後、6連勝という結果を残して首位を走る鹿島。7年ぶりのタイトルを目指す古豪は、指揮官の古巣にも勝利し、さらに勢いづきそうだ。
(河合 拓 / Taku Kawai)