日本代表の「問題点を洗い出した」 躍進を支えた緻密な準備とノウハウ「極端な話…10分単位の移動」

山本昌邦ナショナルチームダイレクターにスタッフ体制について聞いた【写真:徳原隆元】
山本昌邦ナショナルチームダイレクターにスタッフ体制について聞いた【写真:徳原隆元】

森保ジャパンを支えるスタッフの充実もキーポイントに

 2023年以降、日本代表は目覚ましい成績を収めている。選手個々の成長、森保一監督の的確な采配、コーチングスタッフのサポートなどチーム内の充実ぶりが好成績を支えている一方、日本代表を支えるスタッフたちの努力が結実したという点も見逃してはならない。今回は山本昌邦ナショナルチームダイレクター(ND)に、日本の躍進を支えたスタッフ体制について聞いた。(取材・文=森 雅史/全4回の2回目)

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   ◇   ◇   ◇   

――今回のワールドカップ(W杯)アジア予選で、日本代表は過去最速でW杯出場を決めました。その背景には、日本サッカー界で蓄積された様々なノウハウがあったからではないかと思います。

「予選に関しては、過去の失敗から多くを学んで、それをどう生かすかというのはやりました。たとえば2018年、2022年と初戦を落としていた9月の試合については精査して、問題点を洗い出しました。ヨーロッパで活躍する選手がこれだけ増えたこと、そして対戦する相手はだいたい2週間~3週間も合宿して、日本代表選手よりも先に日本にやって来て1週間や10日前から準備し、どちらのホームか分からない準備の形になっているという問題点が浮かび上がっています。

 でも、我々のやれることは限られています。そのなかで、これまで全員が揃って練習できるのが試合前日1日だけだったのを、どうすれば2日に増やせるか、ミーティングを1回増やすにはどうすればいいか、事務方のスタッフがいろいろなところと調整して対応しました。

 ですから選手には、直前のリーグ戦が終わったあと、ロッカールームからどのタイミングで外に出てきてもらって、その時間に用意しておいた車で空港に移動してもらうかというところまでお願いしています。所属クラブのスタッフにも『この時間にはスタジアムから出してほしい』という要望も出して、選手はだいたい事務所に所属していますから、その人たちにもサポートしてもらって、極端な話としては10分単位の移動をクリアしてもらっています。そしてチャーター機の中でしっかり寝て食事を取ってもらい、帰国してもらっていました」

――そこまでやっても帰国した選手のコンディションを万全に持っていくのは難しい気がします。

「そうですね。特にシーズンが始まったばかりの頃は、その選手の調子が今いいのかどうか、身体の状態がどうなのかというのは分かりづらいと思います。もちろん能力と才能はみんなあるけれど、コンディションが上がってないと実力は発揮できませんし、疲労も考えなければいけない。

 そしてコンディションは負荷がかからなければ把握できないんです。だからこそ練習を2回できるというのは重要です。試合前々日の練習でゲーム形式のメニューで負荷をかけ、そのデータを見ればフィジカルコーチにはいろんなことが見えてきます。

 長い移動をしてきて、たった2日で普段と違う時間に試合をやるのですから、選手には難しいと思いますけど、その時に100%に近い形で選手の力を引き出せるような準備はしなければいけない。そういう準備を繊細にやった結果が出たと思っています」

――繊細といえば、食事についても細かい配慮がされていたようでした。

「はい、それは考えていました。予選でヨーロッパ組は、1回の活動でホーム戦とアウェー戦、あるいはアウェー戦とホーム戦、アウェー2連戦という組み合わせでプレーしました。つまり3つの異なる時間帯で過ごすわけです。ですから、ヨーロッパ組の選手たちがずっとヨーロッパ時間で生活できるような工夫をしました。そのため、日本時間の朝ご飯は食べない、昼と夜を全員で一緒に食べて、夜中にヨーロッパ組だけ食べるという食事提供をしたんです。

 この朝食を選手の自由にするというのが1つの施策でした。でも、そのためには夜中に提供しなければならない。その夜中の食事をホテルの外から調達することも含めて用意しました。そういう部分をサポートしたので、ヨーロッパ組の選手たちは普段の時間どおりの生活をして、ヨーロッパに戻ることができました。ただ、SAMURAI BLUEはヨーロッパ組だけじゃない。だからヨーロッパ組、Jリーグ組、そしてコーチングスタッフと、その3つのグループのサポート体制を作ったのでスタッフの負担は大きかったと思いますね。

 スタッフは上手くやらないと寝る暇がない。だからスタッフがちゃんと睡眠を取れているかというのも見ていました。そしてスタッフのグループも朝まで寝ていていいグループ、昼まで寝ていいグループと分けながら体調を管理してもらいました」

――体調といえば医療体制はどうですか?

「はい、スポーツといえば怪我なので、外科の先生がチームにいるのはよくあるのですが、SAMURAI BLUEは内科の先生にも毎回帯同してもらっています。そしてU-20日本代表やU-17日本代表でも、最終予選などでは内科の先生もお願いすることにしました。

 というのも、起きる事象としてお腹を壊したり熱が出たり、喉をやられたりということもあるんです。怪我の対策は外科の先生にお願いするとして、内科の先生も選手の体調管理ということに関してはとても重要なんですよね。そういうスタッフの部分も改善されています」

(森雅史 / Masafumi Mori)



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森 雅史

もり・まさふみ/佐賀県出身。週刊専門誌を皮切りにサッカーを専門分野として数多くの雑誌・書籍に携わる。ロングスパンの丁寧な取材とインタビューを得意とし、取材対象も選手やチームスタッフにとどまらず幅広くカバー。2009年に本格的に独立し、11年には朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)の平壌で開催された日本代表戦を取材した。「日本蹴球合同会社」の代表を務め、「みんなのごはん」「J論プレミアム」などで連載中。

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