見た目は獰猛も…カメラが捉えた「ありがとう」 日本語を操る助っ人が示した“美徳”

【カメラマンの目】福岡のウェリントン、かつての同僚と短い日本語で交流
J1リーグ第13節・湘南ベルマーレ対アビスパ福岡戦。後半17分、先発出場していた福岡攻撃陣の要であるFWウェリントンが交代でピッチをあとにする。ウェリントンは束ねていた髪をほどき、戦闘モードを解除した。しかし、バックスタンドから回ってベンチへと戻る際に、歩を止めて攻防が続く試合を見つめていた目は、まだ猛禽類のように鋭かった。(文=徳原隆元)
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福岡はリーグ開幕から3連敗とスタートダッシュに失敗したものの、ここにきて徐々にチームとしての戦い方が選手たちに浸透してきている。堅陣をもって相手にサッカーをさせず、ボールを奪うと素早くゴールを目指す、近年のJリーグのトレンドと言えるスタイルで、リーグの3分の1をこなした現在、上位への進出を成功させている。
ギアを上げてきたチームにあってウェリントンは、強靭な肉体を武器に身体を張ってのポストプレーや、また両サイドから供給される鋭いクロスからゴールを狙う、重要な役割を担っている。
相手にとっては実に厄介な存在であるだけに、ウェリントンは敵からマンマークを受けることも常態化し、自由にプレーできることは少ない。そうした敵と激しいつばぜり合いを演じる状況で戦術的な動きをこなし、いつ訪れるか分からないワンチャンスをモノにしなければならないのだ。肉体的な厳しさはもちろん、精神的なタフさも持ち合わせていなければならず、爽快な充実感はなかなか手にすることができないポジションだが、ウェリントンはそれを懸命にこなしていた。
そうしたギリギリの駆け引きをピッチで繰り返していたウェリントンも、ベンチに戻るとようやく猛々しかった戦闘精神が落ち着いたようだった。カメラのファインダーに捉えたウェリントンは、スタッフからタオルを手渡されると、その口元の動きから日本語で「ありがとう」と言ったように見えた。
結局、90分間の攻防は0-0のスコアレスドローに終わる。試合後、古巣の湘南サポーターが待つスタンドへと挨拶に向かうウェリントンを追った。ここでかつての同僚である選手やスタッフとも再会する。その場面で交わされていた短い会話も日本語だった。
2013年に湘南に加入して以来、母国ブラジルに戻ることもあったが、福岡にヴィッセル神戸とJリーグのチームを渡り歩き、長きにわたって日本でプレーをしてきているだけに、ウェリントンにとっては東洋の島国での生活への壁はもはや低く、勝手知った環境となっているのだろう。
そして、この背番号17のブラジル人アタッカーには、ピッチでの激しさとは裏腹に、日本でのプレー経験によって、礼儀正しさを美徳とする意識が自然と身についているのだと感じた場面があった。それは交代でベンチに戻るときの行為に表れていた。ゴール裏を通り過ぎる際に、カメラマンが並ぶ位置に来ると、そのまま歩を進めれば我々の前を通るところだったが、わざわざ後ろに回ってベンチへと戻って行ったのだった。
試合後のこちらの声掛けに快く笑顔で写真に収まるところや、他者への心遣いをさりげなくするところも、この外見は野性味に溢れたブラジル人選手の魅力なのだ。
徳原隆元
とくはら・たかもと/1970年東京生まれ。22歳の時からブラジルサッカーを取材。現在も日本国内、海外で“サッカーのある場面”を撮影している。好きな選手はミッシェル・プラティニとパウロ・ロベルト・ファルカン。1980年代の単純にサッカーの上手い選手が当たり前のようにピッチで輝けた時代のサッカーが今も好き。日本スポーツプレス協会、国際スポーツプレス協会会員。