なぜオフサイド位置で反則にならない? 近年…運命を分ける“主審の主観”【コラム】

イッサム・ジェバリのゴール取り消しが話題になった【写真:Noriko NAGANO】
イッサム・ジェバリのゴール取り消しが話題になった【写真:Noriko NAGANO】

重要なのは最後は主審が「関係していた」と思ったら反則になるということ

 昔から、サッカーで一番わかりにくいルールが「オフサイド」だと言われ続けています。ボールが出た後に走り勝ったのはいいけれど待ち伏せはダメ、という元々の精神を知らないと分かりにくいわけですが、加えて難しく思わせてしまうのが「オフサイド」の位置にいても反則にならないケースがあること。今回は「オフサイド」について深掘りします。

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 そもそも「オフサイド」とは、味方からボールがハーフウェーラインより前にパスされた瞬間(ハーフウェーライン上は含まない)、自分の前に「2人」以上の選手がいない状態です。通常はGKがゴール前にいるので、DFが1人いることになります。そしてそれは通常、反則になります。

 まずここでときどき起きる、誤解を招く場面があります。それはゴール前の混戦でGKが前に出て行き、パスをもらった選手の前にDFが1人いるものの、GKがボールを受けた選手よりもハーフウェーライン寄りにいたため、「オフサイド」になってしまうこと。

 もっともこのケースはそう多くありません。ただ、こういう事例があるということを覚えておけば、いざ起きたときに「これはね」と周りに解説してあげて尊敬を集めることが出来るでしょう。

 ではここからは、パスが出た瞬間に、GKと最終ラインの守備側選手の間に攻撃側選手がいた場合について整理します。

 普通ならこれは「オフサイド」です。でも「オフサイド」にならないケースがあります。それは「プレーに関係していなかった」場合。

 たとえばシュートを打った選手はオフサイドではなかったけれど、ゴールとは全然関係ない場所にいた選手がオフサイドポジションにいた場合は、「オフサイド」の反則にはなりません。ゴール前の攻防のときにコーナー付近でプラプラしていても、全然ゲームには関係ありませんよね。

 では、オフサイドの位置にいる選手がゴール前にいたらどうなるか。シュートが右に飛んで、オフサイドの選手が左にいたら?

「オフサイド」の反則にはなりません。でもボールが飛んでいく方向にいたり、飛んでいくボールに対して触ろうとするアクションを見せたりすると、プレーに関係したとして「オフサイド」になります。またオフサイドポジションにいた選手が相手選手がプレーしようとするのを妨害したときも「オフサイド」として反則になります。

 ここで重要なのは「プレーに関係しようとしたと見えたかどうか」というのは、主観的ということです。つまりレフェリーが「プレーに関係しようとしたように見えた」と思えば「オフサイド」の反則になります。

 そしてもう一つ。近年、解釈が変わった場面があります。

 オフサイドポジションに攻撃側の選手がいたとします。でも守備側の選手は、その相手選手がオフサイドかどうか分かりません。そのオフサイドポジションの選手にパスが出ました。守備側の選手は「このパスが通ればピンチになる」と思ってカットしようとします。伸ばした足にボールが当たったものの、そのまま相手選手に渡ってしまいました。

 もし守備側の選手が触っていなければ「オフサイド」の反則でした。ですが事象だけ考えれば、守備側選手からのボールが攻撃側の選手に渡ったので、オフサイドではないように見えます。

 これが、守備側の選手が「意図的にプレーした」ときだけオフサイドにならないことになりました。「意図的にプレーした」というのは、守備側選手がボールをクリアしたり、キープしたり、パスしたりできたと見なされることです。

「ボールが長く移動したので、競技者はボールをはっきりと見えた」「ボールが速く動いていなかった」「ボールが動いた方向が予想外ではなかった」「競技者が体の動きを整える時間があった」などの場合は「意図的にプレーした」と考えられます。

 逆に、立っていたその場から足を精一杯伸ばして触ったけれどもカットできなかった、というのは「意図的にプレーした」とは見なされず、相手選手に渡ると「オフサイド」の反則になります。「反射的に体を伸ばしたりジャンプせざるを得なかった」「かろうじてボールに触れた」などというケースです。

 ここでも主審が「意図的にプレーした」と思うかどうかという主観で反則かどうかが決まります。そうやって主審の考えで反則かどうかを決めていいのがサッカーで、これはサッカーの成り立ちからの話になるのですが、それはまた別の機会に。

 実は「オフサイド」のルールも昔大きな変更がありました。今から100年前、1925年に「オフサイド」が3人から2人になったのです。それまでは、DF2人+GKで守っていて、縦にボールが蹴られそうになると1人のDFが上がって相手選手を「オフサイド」にしていました。「オフサイド・トラップ」の原型です。

 これが2人になったことで、守備の方法が変わり、そこからいろいろな戦術が生まれることになりました。サッカーを最初に見始めたとき、一番分かりにくいと言われる「オフサイド」ですが、実は今のサッカーを作る元になったのです。そしてその判定を主に行う副審という存在も大切なものです。

 ちなみに、VARが入る前にJリーグで副審がオフサイドの旗を上げた場合、その正しさは96パーセントでした。今はVARが入って100パーセントに近くなってきています。最近はわずか数センチ出ていただけでも判定できるようになりました。ただ、最後は主審が「関係していた」と思ったら反則になるということを知っているのが重要です。

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森 雅史

もり・まさふみ/佐賀県出身。週刊専門誌を皮切りにサッカーを専門分野として数多くの雑誌・書籍に携わる。ロングスパンの丁寧な取材とインタビューを得意とし、取材対象も選手やチームスタッフにとどまらず幅広くカバー。2009年に本格的に独立し、11年には朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)の平壌で開催された日本代表戦を取材した。「日本蹴球合同会社」の代表を務め、「みんなのごはん」「J論プレミアム」などで連載中。

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