Jリーグに必要な“投資”「すごいチャレンジング」 歴史をビジネスに生かす方法【インタビュー】

レッドブルはビジネスとスポーツを掛け合わせている
「日本サッカーの未来を考える」を新コンセプトに掲げる「FOOTBALL ZONE」では、現場の声を重視しながら日本サッカー界のあるべき姿を模索していく。Jリーグが英国・ロンドンにたち上げた「J・LEAGUE Europe」の初代プレジデントに就任した秋山祐輔氏にインタビュー。数々の移籍を手がけた代理人から転身した秋山氏に、Jリーグ、日本サッカーの発展に必要なアイデアを聞いた。(取材・文=FOOTBALL ZONE編集部・井上信太郎/全3回の3回目)
【PR】DAZNを半額で視聴可能な学生向け「ABEMA de DAZN 学割プラン」が新登場!
◇ ◇ ◇
今季のJリーグの大きな話題にレッドブル・グループの大宮アルディージャ買収がある。同グループは、ドイツ、アメリカ、オーストリア、ブラジルのクラブで運営に携わっており、大宮に関しては昨年8月にNTT東日本から株式を取得。新体制となった今季は昇格したばかりのJ2で2位と上昇気流に乗っている。大宮の行く末は、Jリーグにとっても試金石となる。
「やっぱりレッドブルはすごいですよ。南野がザルツブルクにいた時にマーケティング部門の方たちとミーティングをしたことがあるんですけど、その時に冬季五輪をやっていて、メダルランキングを見せてくれたんです。1位ノルウェー、2位スイス、3位レッドブルアスリートって。自分たちがスポンサードしている選手たちが3位だと、誇りを持っている。F1もそうですけど、あのレッドブルカラーを世界中で走らせている。ちゃんとビジネスとスポーツをしっかり掛け合わせていて、確かに素晴らしいなと思いますよね」
そのレッドブルをはじめ、サッカー界では大小さまざまなマルチ・クラブ・オーナーシップ(MCO)がある。大きいものでは、横浜F・マリノスも加わっているシティ・フットボール・クラブ(CFG)、小さいものでは日本代表MF三笘薫が所属するブライトン(イングランド)とサン・ジロワーズ(ベルギー)などがある。クラブ間の選手移籍やビジネスノウハウの共有などメリットしかないように見えるが、手放しで喜ぶわけではない。
「ヨーロッパのクラブからすると、日本の若手の情報が欲しいんですよ。育成はやっぱり評価されていますよね。ただ世界にはたくさんのMCOがありますけど、全てがうまくいっているわけではない。何を求めて入るかということですよね。大宮は今すごく頑張られていて、うまくいっているわけですけど、これはレッドブルが仕掛けたもの。黒船理論になるじゃないですか。もっと日本の一流企業がやってもいいなと思うんですよね。Jリーグのクラブを保有している日本の一流企業が、世界に売っているものだったり、自分たちのグローバルマーケティングとフットボールビジネスを掛け合わせる発想があってもいいと思うんですよね。実際に『海外のクラブと会わせて欲しい』という相談も来たりしていますし、うまく僕らを活用してつながってもらえればなとは思います」
日本サッカーが歴史を積み上げてきたからこそできること
これまで多くの選手たちが日本から欧州に渡り、日本サッカーの評価を高めてきた。その“蓄積”をサッカービジネスにも生かそうとしている。
「今までだったら、『U-20日本代表の選手はいいけど、Jリーグだと分からないから……』と足元を見られていた部分があったと思うんです。でも例えば、若い選手とヨーロッパで活躍した香川選手や長谷部選手がどうだったのか、みたいなことをデータでサポートできるとしたら、交渉的にも有利になると思うんですよね。それをヨーロッパのクラブの人たちが信じるかどうかは置いておいて、自分たちで日本人選手のデータを示せるようなものを作れたとしたら、いい指標になるのかなと。まだアイデアの段階ですけど、日本の若い選手たちの情報も発信していきたいですし、いろいろトライしたいなとは思っています」
まだ全てが始まったばかり。「まさか自分がやることになるとは思わなかった」というプロジェクトだが、エージェントとして多くの実績とコネクションを持つ、秋山氏にしかできない仕事だと言える。
「これまでのエージェントの時もそうでしたけど、リーグとしてクラブと同じ方向を向いてやっていきたい。いかにリーグがやりたいこと、クラブがやりたいことを、海外とのつなぎの中でどうサポートしていくか。この動き回って得たものをどう国内に還元、共有していくかが最大のテーマですから。まだまだ試行錯誤していますけど、Jリーグにとってはすごいチャレンジングなことでもあり、大事なプロジェクト。その責任者として、応えたいなという思いはあります」
今回のプロジェクトは、Jリーグ、そして日本サッカーが経済的にも発展していくために必要な“投資”。ヒントを探しに、今日もヨーロッパを駆け回っている。
【プロフィール】
秋山祐輔(あきやま・ゆうすけ)/1974年4月20日生まれ、東京都出身。広告代理店勤務を経て、選手の移籍などを手掛ける代理人(エージェント)に。2007年4月に「株式会社SARCLE」を設立し、これまで大迫勇也(ヴィッセル神戸)、南野拓実(モナコ)、上田綺世(フェイエノールト)ら多くの日本代表選手の移籍に携わった。2024年10月にJリーグヨーロッパのプレジデントに就任。2025年からヨーロッパで活動を開始。
(FOOTBALL ZONE編集部・井上信太郎 / Shintaro Inoue)