就任3年目で初の3連敗…黒田監督「受け入れ難い」 町田に訪れた“非常事態”「現実を自覚」【コラム】

町田は終盤にミスから失点し湘南に0-1敗戦
FC町田ゼルビアが泥沼にあえいでいる。25日の湘南ベルマーレ戦で0-1と敗れ、黒田剛監督が就任した2023シーズン以降で初めてとなる3連敗を喫した。後半アディショナルタイムの失点を招いた痛恨のミスに目が奪われがちだが、ミスをさかのぼっていくと、黒田体制で2度目となる非常事態に行き着く。(取材・文=藤江直人)
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対照的な感情が同時に収められている映像が、X(旧ツイッター)上で大きな話題を呼んだ。
ベンチ前のテクニカルエリアで戦況を見つめていた監督がガッツポーズを作り、振り向きざまに足を滑らせて転びながら、すぐに起き上がってコーチングスタッフや控えの選手たちと歓喜の抱擁をかわした。一方でもう一人の監督が力なくひざまずき、次の瞬間、右手の拳でピッチを思い切り殴りつけた。
狂喜乱舞したのは湘南の山口智監督。そして、悔しさを露わにしたのは町田の黒田監督。場面は25日に町田GIONスタジアムで行われた、J1リーグ第12節の後半アディショナルタイム3分。湘南のMF池田昌生が、両チームともに無得点の均衡を破る先制ゴールを決めた直後の映像だった。
J2時代を含めて、就任3年目で初めて3連敗を喫した黒田監督は、試合後の公式会見でこう語った。
「あの時間帯で、あの局面で、ああいった判断が必要かどうか。コーチングスタッフや選手たちは、あの結果に対する気持ちを受け入れられない現実があると思います。私自身も監督として、なかなか受け入れ難い現実もあるが、気持ちを切り替えて、チームとしての結束力をもって前進していくしないと思っている」
キャプテンのDF昌子源は一言「今日はすみません」
指揮官が言及したのは、失点につながったDFドレシェヴィッチが犯した痛恨のミスだった。
自陣の中央でこぼれ球を拾ったドレシェヴィッチは、前方へ蹴り出さずに、前へ持ち運ぶプレーを選択した。しかし、左側から間合いを詰めてくる湘南のFW鈴木章斗の姿が視界に入ってくると急停止。鈴木のプレスをかわそうと時計回りにターンしたところへ、FW福田翔生に突っかけられた。
こぼれたボールを拾った鈴木章が、すかさずショートカウンターを発動。左側をフォローしてきた福田へパスを送り、ゴール正面で福田のリターンを受けようとした。福田のパスは合わなかったものの、右サイドをフリーで駆け上がってきた池田が右足を振り抜き、劇的な決勝ゴールを左隅へ突き刺した。
リスクを冒す必要のない時間帯と状況で、自らが得意としている、最終ラインからパスをつなぐプレーを選択したドレシェヴィッチがボールを失う。受け入れられない現実を象徴するように、キャプテンのDF昌子源は「今日はすみません」とだけ言い残し、取材後の取材エリアを素通りしていった。
最初にドレシェヴィッチへプレスをかけて、ターンさせたキャプテンの鈴木章はこう振り返った。
「ドレシェヴィッチ選手が少しボールを持ちすぎるところもある、という分析もあったなかで狙い目だったというか、自分たちが相手のどの選手に対しても常にプレッシャーをかけていった結果です」
鈴木章と福田が後半21分に、池田にいたってはアディショナルタイムに入る直前の同42分にそれぞれ投入されていた。プレスをかけるうえで体力的にもフレッシュな状態で、なおかつ事前のスカウティングでドレシェヴィッチの癖を湘南側が共有していた。そうした点を差し引いても、不用意なミスだった点は否めない。
相馬勇紀「負けるべくして負けている」
「あそこで(鈴木章を)避けようと思ったけど、実際にああいう事態が起こってしまった」
ボールを失った場面を振り返ったドレシェヴィッチは、必死に前を向きながら言葉を紡いだ。
「どのように言えばいいのか……なかなか言いたくないというか、ちょっとアンラッキーな部分もあるので難しい。こういうミスは本当にやってはいけないと思っているけど、同時にこれはサッカーなので、起こるときは起きる。大切なのは前を向いて、次の試合へしっかりと準備していくことだと思っている」
町田も湘南も2連敗で、ともに零封負けを喫して迎えた一戦。結果として町田が黒田体制下で初めて3連敗を喫したが、それだけではない。3試合連続の無得点は、J1で3位に躍進した昨シーズンは一度もない。
J2を戦った2023シーズンのザスパクサツ群馬との第33節で0-0と引き分け、栃木SCとの第34節で0-1と敗れ、さらに藤枝MYFCとの第35節で再び0-0で引き分けて以来、2度目の非常事態だった。試合後の公式会見で黒田監督が真っ先に言及したのも、無得点という結果に対してだった。
「前半にあれだけ多くのチャンスを作りながら、1点も取れなかったのは大いなる反省点。決め切るために個人のスキルを上げられるように、決して言い訳をせず、しっかりと自分たちに矢印を向けて鍛錬していくしかない」
指揮官が振り返るように、前半は終始、町田が優位に立った。決定機は実に6度を数え、そのうち4度を湘南の守護神、上福元直人に防がれた。前半13分にMF仙頭啓矢のパスに抜け出し、左足から強烈なシュートを放つも上福元にセーブされたMF相馬勇紀は「負けるべくして負けている」と攻撃陣に矢印を向けた。
「僕自身がシュートを決め切れなかった場面が頭に残っている。こういう試合はイボ(ドレシェヴィッチ)のミスがフォーカスされがちだけど、今日は攻撃陣の責任に重きを置かなければいけない試合だと思う」
初の3連敗もどの試合でもシュート本数は上回った
主軸の鈴木章と福田をあえてベンチスタートとして、後半勝負の青写真を描いていた湘南の山口智監督も、最後まで歯を食いしばって走った自軍の選手たちを称えながら、同時にこんな言葉を残している。
「相手のミスに助けられた、というところは否めないと思っています」
ミスとはドレシェヴィッチより、前半の決定機を外し続けた町田の攻撃を指していた。ゴールが遠い焦りが、相手ボールになりかねない前線へのロングボールよりも、自らが関わる最終ラインからのビルドアップをドレシェヴィッチに選択させた。その意味では前半からの積み重ねが、最後に痛恨のミスを招いた。黒田監督が言う。
「選手たちも結果を受け入れられない、あるいは認め難いと各々が感じていたと思うが、同時に決定機を外した選手たちは『前半に決めなければ』と口にしていた。その意味では失点に関して言及するよりも、決定機を決めることでもう少し試合を楽に進められたと考えるべきだと思っている」
チーム得点王のFW西村拓真を怪我で欠き、昨シーズンの得点王のFW藤尾翔太、同2位の韓国代表のFWオ・セフンは無得点が続く。それでも言い訳は許されない。指揮官はさらにこう続けた。
「(私が)就任してから初めての3連敗という数字だけがつきまい、あるいは話題になるかもしれないが、そこに一喜一憂せずに、自分たちがいい方向に向かっている、という現実をしっかりと自覚していきたい」
数多くの決定機を作れている状況を、あえてポジティブな材料に位置づけた。実際、3連敗中は浦和レッズ戦、ヴィッセル神戸戦、そして湘南戦といずれも相手より多くシュートを放った。しかし、それだけでは勝てないのがサッカーの世界。現実との狭間にもがき苦しみながら、敵地・ヨドコウ桜スタジアムへ乗り込み、中3日で迎えるセレッソ大阪との次節へ向けて、町田はドロ沼から抜け出すためのきっかけを追い求めていく。
(藤江直人 / Fujie Naoto)

藤江直人
ふじえ・なおと/1964年、東京都渋谷区生まれ。早稲田大学第一文学部卒業後に産経新聞社に入社。サンケイスポーツでJリーグ発足前後のサッカー、バルセロナ及びアトランタ両夏季五輪特派員、米ニューヨーク駐在員、角川書店と共同編集で出版されたスポーツ雑誌「Sports Yeah!」編集部勤務などを経て07年からフリーに転身。サッカーを中心に幅広くスポーツの取材を行っている。サッカーのワールドカップは22年のカタール大会を含めて4大会を取材した。