なぜ大物代理人がJリーグへ? 「ヒントの宝の山」…日本と欧州の距離を縮める仕掛人【インタビュー】

秋山祐輔氏にインタビュー「いかに世界との接点を増やしていくか」
「日本サッカーの未来を考える」を新コンセプトに掲げる「FOOTBALL ZONE」では、現場の声を重視しながら日本サッカー界のあるべき姿を模索していく。Jリーグが英国・ロンドンを拠点にたち上げた「J・LEAGUE Europe」の初代プレジデントに就任した秋山祐輔氏にインタビュー。日本と欧州を繋ぐ架け橋として期待される新プロジェクトのビジョンを聞いた。(取材・文=FOOTBALL ZONE編集部・井上信太郎/全3回の1回目)
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「実際、何をやっているんですか?」
不躾な質問で申し訳ないが、これが今回のテーマである。秋山氏の存在はサッカー界では知らない人はいない。株式会社「SARCLE」で代表取締役を務め、エージェントとしてこれまで小野伸二や内田篤人、南野拓実ら、日本を代表する選手たちの移籍を数多く手掛けてきた。そんな日本の大物代理人が転身して、新たなチャレンジをする。ワクワク感しかないが、実際にどんなことをやっているのか。拠点となるロンドンに移住してから、どのような生活をしているのか。
「ロンドンはプレミアリーグを筆頭に、色んな情報やスポンサーなど、フットボールビジネス的には一番様々なものが集まる場所です。一方で、Jリーグロンドンではなく、Jリーグヨーロッパなので。こちらにスタッフが3人いるんですけど、色々連携をしながらヨーロッパ中を飛び回ってます。昨日はオランダから帰ってきて、高校選抜の試合を見に行っていたんですけど、その前はドイツにいて、明日からはマドリードで4、5泊してカンファレンスに出て……という感じです。
と、かっこいいこと言ってますけど、もう人に会いまくってます。エージェントの時も色々やってきたつもりですけど、ヨーロッパの人たちからすると、『ユウスケ、いよいよこっちに来たか』みたいな感じで、向こうの距離感が近くなったというか。この1か月は関係者を紹介してもらったり、カンファレンスに出たり、ネットワークの広がり方が半端じゃないですね。やっぱりヨーロッパはヒントの宝の山だなと感じています」
なるほど、めちゃくちゃ忙しく、めちゃくちゃ充実しているのは伝わってきた。改めてJリーグが今回のプロジェクトを立ち上げた意義、そして目指す姿はどこにあるのか。
「最大の目標はJリーグ、Jクラブのレベルやクオリティーを上げていくために、いかにその世界と繋がって、接点を増やすかということ。いいものを取り入れて、Jリーグをもう一回、活性化させて、世界との行き来を増やしていきたい。これから人口が減っていく日本社会において、どの産業もそうですけど、スポーツ産業も、外から取り入れるものは取り入れて、再生産して、良いものを出していく。この構造を作らないと、なかなか国内だけでは回りきらない時代になってくる。そういう危機感はありますよね。
将来的にはヨーロッパだけじゃなくて、アメリカやアジアも大事なマーケットですから。日本サッカーは今、いい所に来ているなとは思いますけど、人脈の部分だったり、ノウハウの部分だったり、まだまだ取り入れられるものがある。それは監督なのかもしれないし、スポーツダイレクターなのかもしれないし、データコンサルかもしれない。まずは日本とヨーロッパの距離を縮めていきたい。それが一番かな」
Jクラブの強化担当者を連れた“視察ツアー”を開催予定
その目的のために、実際に動き出しているものもある。Jリーグは2026年は半期の特別大会を経て、現在の2月開幕から8月開幕にシーズン移行することが決まっている。欧州のリーグとシーズンが一緒になることで実現しようと動いているのが、Jクラブの欧州キャンプ実施だ。
「ヨーロッパと日本の接点づくりという意味で言うと、プレシーズンキャンプをヨーロッパでやって欲しいなというのがあります。もちろん、J1からJ3まで全てのクラブが来られるわけじゃないのも分かっていますけど、一つでも二つでも多く来てもらって、選手だけじゃなく、スタッフや強化の方もどんどん交わってくれれば、活性化するんじゃないかなと思っています。想定しているのはオーストリア。キャンプの“メッカ”で、時期は多少クラブによって違いますけど、6月末から7月にかけて、イングランドやドイツ、オランダやベルギーなど90チームぐらいは来ていますね」
そのために、今夏には“視察ツアー”も実施する予定。J1からJ3クラブの強化担当を対象に希望者を募集し、オーストリアのキャンプを実際に視察するというものだ。Jリーグが渡航費などの大半を負担するという破格の条件ということもあり、J1クラブをはじめ、多くのクラブが参加希望を表明している。
「こういう話をすると、選手を取られちゃうんじゃないかなと考えるクラブもあると思いますけど、いやいや取り返せばいいんですよ。ブンデス2部のゴールキーパーなんてすごいですし、いい選手はゴロゴロしている。そういう競争の中でみんなやっているわけで、日本のクラブも飛び込んで交わってみて、結果強くなればいいんじゃないかと思っていますけどね」
今や日本代表の大半は欧州のトップリーグでプレーしている。日々、各国の代表選手たちと揉まれて強くなっていく一方、日本国内で戦うJクラブのスタッフや強化はどうしてもドメスティックな考えになってしまう。
「僕もそうですけど、日本人ってドメスティックだし、海を渡ることってすごく決意がいることじゃないですか。でも今の時代、別に飛行機乗っちゃえば、着くわけで。もう少し気軽にね、ヨーロッパと繋がってもいいんじゃないかなと。今回のキャンプで、向こうの関係者とご飯を食べたり、お茶したり、会話をすることで、結果的に距離が縮まって、色んな移籍交渉とかがスムーズになる可能性もあるかもしれない。ヨーロッパの一部になるというか、ヨーロッパの景色が日常になることが、Jリーグを活性化させることになるかなと思います」
Jリーグとヨーロッパの距離を近づける。今回のプロジェクトの結果が出るのは5年後、いや10年後かもしれない。だが確実に動き始めている。
【プロフィール】
秋山祐輔(あきやま・ゆうすけ)/1974年4月20日生まれ、東京都出身。広告代理店勤務を経て、選手の移籍などを手掛ける代理人(エージェント)に。2007年4月に「株式会社SARCLE」を設立し、これまで大迫勇也(ヴィッセル神戸)、南野拓実(モナコ)、上田綺世(フェイエノールト)ら多くの日本代表選手の移籍に携わった。2024年10月にJリーグヨーロッパのプレジデントに就任。2025年からヨーロッパで活動を開始。
(FOOTBALL ZONE編集部・井上信太郎 / Shintaro Inoue)