中東敵地でアジアの洗礼「到底納得できない」 ファンが見舞われた“想定外”…J名門スタッフの戦い【インタビュー】

【ACLE最終決戦カウントダウン】前回大会決勝で起きたアクシデント
「日本サッカーを共に盛り上げる」を今年からコンセプトに掲げる「FOOTBALL ZONE」では、クラブや選手の魅力を“深掘り”する「ZONE的Jクラブの深層」を掲載する。今回は、「ACLE最終決戦カウントダウン」と題し、現地時間4月25日から5月3日かけて行われるAFCチャンピオンズリーグエリート(ACLE)2024/25ファイナルズに向けた特別企画を展開。横浜F・マリノスのチームマネージャーを務める鈴木彩貴氏が、前回大会決勝の裏で起きていた“もう1つの戦い”について語った。(取材・文=FOOTBALL ZONE編集部・山内亮治/全3回の3回目)
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「試合後、サポーターのもとへ挨拶に行った選手の戦い切った背中、選手たちを目の前にしたサポーターの表情などは脳裏に焼き付いています。優勝に辿り着けずに大会が終わったことへの喪失感と言うべきか……言葉にするのはなんとも難しいのですが、あの悔しさは今回のACLEでしか晴らせないとクラブに関わる多くの方が思っています」
2024年5月25日を、当時、横浜F・マリノスのセキュリティー担当者としてUAEに現地入りしていた鈴木彩貴氏はこう振り返る。アル・アインとのAFCチャンピオンズリーグ2023/24シーズン決勝第2戦、横浜F・マリノスは1-5と完敗を喫し2戦合計3-6で悲願だったアジア王者の座を逃した。「ファン・サポーターを目の前にしたら自然と涙があふれてきて止められませんでした」。
ファン・サポーターの姿に感情を抑えきれなかったのには訳がある。横浜F・マリノス側に当初配布される予定だった試合の観戦チケット約2100枚が1100枚近くまで減ったことが、試合数日前に判明。現地で何よりも力になってほしい存在に想定外のアクシデントが起きていた。
ファン・サポーターはクラブのアジア初制覇を信じ続々と現地に入ってくる。「ファン・サポーターの不安を含め、決勝という大舞台ではちょっとした隙さえクラブとして作りたくない」。試合のキックオフ直前まで相手クラブと交渉を続け、日本サッカー界の有志の協力も得ながら追加のチケット確保に奔走した。
それでも、トラブルはここだけで終わらない。今度は事前に相手クラブから割り当てられたチケットの二次元コードがゲートで読み取れず、何人もの横浜F・マリノスサポーターが立ち往生していたのだ。
「アル・アインの会場スタッフは『もうこのチケットは1回使われているから』と説明するのですがそんなわけがなく、せっかく日本から来たのに会場入りできないなんて事態に到底納得できませんでした。
そこで僕は、横浜F・マリノスのセキュリティー担当者として何か起きた際の全責任を負うと決め、彼らを会場に入れるために粘り強く現地関係者と交渉し、結果、全員を無事スタジアムに入れることができました。安全確保の観点から100%正しい行動とは言えないかもしれませんが、このときばかりは誠心誠意、自分の判断を信じ懸命に対応しました」

「クラブに関係するすべてのピースがうまくはまらないといけない」
鈴木氏をここまで突き動かした背景には、ともに働く“仲間”への思いもあった。
「相手クラブから送られてきた1000枚以上のチケットの二次元コードデータを1枚1枚個別にし、ファン・サポーターに配送する横浜F・マリノススタッフの業務を知っていました。相当な時間と工数を要する作業だったと思います。その尽力のおかげで配布が無事に終わった報告を受けていた以上、ともに働く仲間の思いも無駄にするなんてことはできず、ファン・サポーターが会場に入れない事態は絶対に避けなければいけなかったんです」
チームだけではなく、ファン・サポーターやクラブスタッフの思いも1つもこぼさず無駄にしない――。そこにはアジアの舞台で勝つための信念がある。
「ACLEのような国際大会で最高のパフォーマンスを発揮するには、クラブに関係するすべてのピースがうまくはまらないといけないと思っています。
特に今大会は優勝を手に入れるまでに3試合あるため、ファイナルに進むにつれてさらに力をつけていないといけないでしょう。そのために僕は、ファン・サポーターを含むあらゆる要素の最大限をいかに引き出せるかに考えを尽くします」
前回大会決勝で味わった悔しさを乗り越え、リベンジの舞台へ。横浜F・マリノスのすべての力を結集し、あとはサウジアラビアの地で表現するだけだ。
[プロフィール]
鈴木彩貴(すずき・あやき)/1987年4月13日生まれ、愛知県出身。現役時代のポジションはゴールキーパー。立命館大学卒業後の2010年に当時JFL所属だったブラウブリッツ秋田に入団する。その後、ギラヴァンツ北九州を経て2017年から2シーズン、横浜F・マリノスでプレー。2019年にV・ファーレン長崎に完全移籍し、同年12月17日に現役引退を発表した。引退後は2年間、FC町田ゼルビアのユースとジュニアユースでGKコーチを経験。22年に横浜マリノス株式会社に入社し、現在はJリーグ運営正担当・チームマネージャーを務める。
(FOOTBALL ZONE編集部・山内亮治 / Ryoji Yamauchi)