練習場に異物、理不尽トラブルも…J名門が挑むサウジでの最終決戦、支えるスタッフの仕事術【インタビュー】

横浜FMでJリーグ運営正担当・チームマネージャーを務める鈴木彩貴氏【写真:FOOTBALL ZONE編集部】
横浜FMでJリーグ運営正担当・チームマネージャーを務める鈴木彩貴氏【写真:FOOTBALL ZONE編集部】

【ACLE最終決戦カウントダウン】戦いを陰で支えるチームマネージャー

「日本サッカーを共に盛り上げる」を今年からコンセプトに掲げる「FOOTBALL ZONE」では、クラブや選手の魅力を“深掘り”する「ZONE的Jクラブの深層」を掲載。今回は、「ACLE最終決戦カウントダウン」と題し、現地時間4月25日から5月3日かけて行われるAFCチャンピオンズリーグエリート(ACLE)2024/25ファイナルズに向けた特別企画として、横浜F・マリノスのチームマネージャーを務める鈴木彩貴氏へのインタビューを実施した。国際大会を戦うチームを陰で支えるその仕事について迫る。(取材・文=FOOTBALL ZONE編集部・山内亮治/全3回の1回目)

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 アジアの頂点を懸けた戦いの火ぶたが、間もなく切って落とされる。現地時間4月26日にアル・ナスル(サウジアラビア)との準々決勝に臨む横浜F・マリノスは今大会、ノックアウトステージ・ラウンド16までの10試合で8勝1分1敗。無得点で終わった試合は1つもなく、2人の監督(ジョン・ハッチンソン氏→スティーブ・ホーランド氏)によるバトンリレーが行われたなかでも安定した戦いを見せてきた。

 選手・監督の一丸となったパフォーマンスはさることながら、この戦いぶりの裏にはそれを支えるクラブスタッフの尽力がある。チームに帯同しその先頭に立つのがチームマネージャーの鈴木彩貴氏。現役時代はゴールキーパーとして2017年から2年間、横浜F・マリノスに在籍し、22年にスタッフとして古巣に戻って来た。

 これから始まるサウジアラビアでのファイナルステージでも、国際大会となれば大なり小なりアクシデントは付き物だろう。敵地でのチーム運営を円滑に進めるべく、責任者としてどのような心持で現場に立っているのか。

「どんな場面でも決して焦らず、その時々で取るべき行動として何が最善かを最速で見つけることです」

 とはいえこれまでに、いざ現地入りすると練習場に釘やたばこの吸い殻などの異物が落ちている、頼んだ数のゴールがピッチに運び込まれていない、練習前の準備時間が15分しか与えられないと大会規則にないことを告げられるなど、数々のトラブルに直面してきた。鈴木氏曰く、そんな状況で重要になるのが「調整のキーパーソンの把握」とのこと。

「国際大会のアウェー戦では、自分たちがやりたいことをスムーズに進めるために、どの人物や組織がコンタクトを取るうえで重要な存在かを冷静かつ迅速に見極めなければなりません。交渉相手によっては、いつまで経っても物事がうまく進まないことがあるので」

「現地関係者との交渉術にもポイントがある」と鈴木氏。意識するスタンスを次のように説明する。

「あまりペコペコとお願いをしないように心がけています。関係者に対してはより直接的な伝え方を徹底し、強気で調整に臨むほうがスムーズに物事が進むという実感があります」

 チームがストレスなく目の前の練習や試合に向かっていけるよう状況を整える――。鈴木氏に課せられた責任は大きい。

「いかに広く全体を俯瞰して物事を見られるかが重要」

 試合で勝利を手にするために、トラブルを未然に防ぐための努力も欠かせない。試合中、ベンチ内で目を光らせる先がある。

「主審のジャッジに不満があった際、ベンチを飛び出してしまう選手やスタッフがいます。ただ、これをしてしまうとACLEではカードを出されてしまう可能性があります。そうなると罰金処分を科されるだけではなく、監督・コーチのベンチ入り禁止にもなりかねません。試合には最善の布陣で臨めるのがベストですし、それが叶わない事態にならないよう、自分が最初にベンチから出ていき間に入る役割を果たすことがあります」

 さらに、神経を研ぎ澄ませるのは試合中だけに留まらず。現地応援に駆けつける横浜F・マリノスのファン・サポーターへのケアもチームの勝利に欠かせない要素だと力説する。

「オーストラリアでは現地ホームサポーターと横浜F・マリノスのファン・サポーターの緩衝地帯のエリアがワンブロック少ないと判明したこともありました。こういう場合は安全が十分に確保されていると言えませんから、試合に向けてファン・サポーターが安心して応援できる環境を現地のセキュリティー担当と整えます。

 また、大きな事件・事故が起きた場合も想定し、現地の日本領事館へ事前に挨拶しておくことも欠かせません。試合当日にスタジアムで設置するバナーや持ち込む太鼓などの事前申請も含め、安全・安心に普段どおりの応援ができる環境の準備も最大限にします。というのもこれまでの経験上、チームが勝つにはファン・サポーターを含めたすべての要素がしっかりと揃っていなければ難しいと感じてきたからです」

 鈴木氏はこの仕事の神髄について、「いかに広く全体を俯瞰して物事を見られるかが重要」と語る。その姿は、まさに最後尾からチーム全体を見てきた現役時代の頃のよう。「現役時代と似たことをやっていますよね。僕としてはすごくやりがいを感じていますし、楽しいです」。GKだった経験が、引退して立場が大きく変わっても生かされている。

[プロフィール]
鈴木彩貴(すずき・あやき)/1987年4月13日生まれ、愛知県出身。現役時代のポジションはゴールキーパー。立命館大学卒業後の2010年に当時JFL所属だったブラウブリッツ秋田に入団する。その後、ギラヴァンツ北九州を経て2017年から2シーズン、横浜F・マリノスでプレー。2019年にV・ファーレン長崎に完全移籍し、同年12月17日に現役引退を発表した。引退後は2年間、FC町田ゼルビアのユースとジュニアユースでGKコーチを経験。22年に横浜マリノス株式会社に入社し、現在はJリーグ運営正担当・チームマネージャーを務める。

(FOOTBALL ZONE編集部・山内亮治 / Ryoji Yamauchi)



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