無所属の元日本代表…“女優妻”の姿にハッとした 「負けてらんねぇ」捨てた弱気な自分【インタビュー】
元日本代表FW川又堅碁の苦境キャリア支えた“人生の伴侶”
かつてJ1の舞台でゴールを量産し、日本代表にも名を連ねたFW川又堅碁はプロ17年目を迎えた今、J3アスルクラロ沼津の一員として戦い続けている。ここ数年は怪我に苦しみ、一時は現役引退も頭をよぎったが見事に復活を遂げた。その傍らには、現在は人生の伴侶となった妻の存在があった。(取材・文=FOOTBALL ZONE編集部・橋本 啓/全3回の2回目)
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2008年、高卒からアルビレックス新潟へ入団した川又は、プロでもがいた。4年経っても定位置を掴めず、リーグ通算得点も「0」。しかし12年、期限付き移籍先のJ2ファジアーノ岡山で得点ランキング2位となる18得点を挙げると、一気に花開く。新潟へ復帰した翌年はJ1で23ゴール。以降、毎年ゴールを奪い続けた。
2014年シーズン途中から加わった名古屋グランパスでは、加入2年目で2桁まであと一歩に迫る9ゴール。17年シーズンから所属したジュビロ磐田では、1年目で14得点、2年目で11得点を記録した。そんな順風満帆なキャリアに暗い影を落としたのは、磐田加入3年目のこと。試合中、右肩を脱臼するアクシデントに見舞われ、復帰まで5か月を擁した。
怪我の代償は大きかった。19年のリーグ戦では8試合に出場し、わずか1得点。シーズン後、「0円提示」を受けた。無所属のまま年を越し、J2ジェフユナイテッド千葉のキャンプに参加。アピールが実って契約を勝ち取ったが、そのキャリアをまたも怪我が狂わせた。千葉加入2年目の2021年、アキレス腱に激痛が走る。リハビリを繰り返しても、思いどおりのコンディションになかなか近づけない。
翌22年も怪我は完治せず、リーグ戦2試合出場で無得点。そのシーズン限りで千葉を退団し、再び所属先がなくなった。「もうダメかも」。現役引退も覚悟していたなかで、ある1人の女性が傍で支え、後押しした。
23年、アキレス腱を手術した川又は、病院の医療スタッフやJFA(日本サッカー協会)のトレーナーが寄り添うなかで、リハビリに励んだ。過酷な日々から逃げ出さずに済んだのは、のちに妻となる女優・田中道子さんの存在も大きかった。
「手伝ってくれてましたね。色々と」
実は当時、アキレス腱の痛みは完全に消えていなかった。完治する保証もなく、一か八かで踏み切った手術。「現役を続けるのは無理かも」。弱気になっていた川又に、女優業で多忙な日々を送る田中さんは明るく接し、日常生活から徹底サポートした。
「できないわけじゃない」――。田中さんの行動力に衝撃を受け、現役続行へ再び火が付いた出来事があった。
もともと建設業界への就職も視野に入れていた田中さんは一昨年、合格率10%と言われる1級建築士の試験に一発合格。女優業の傍ら、限られた時間で難関試験を突破した姿を目の当たりにして、一気に目が覚めた。
弱気な自分を捨て、練習参加の末、沼津との契約を勝ち取る
「女優業とかタレント業やっているなかで、あれだけ忙しくて、時間がないっていう時も隙間時間で勉強していましたし、睡眠も削り、僕の朝ごはんも作ってくれたり……。『できないわけじゃないよ』っていう、本当にかなりのパワーをいただいたなと。
あり得ないぐらい時間がない時もあったし、それを一発で合格してくるんですから。製図試験の前なんて、舞台入ってたんで。しかも主役の舞台。多分、勉強できる環境下ではなかったっすね。あのセリフ覚えないといけないとか。本当とんでもないなっていう風に僕は思ったし、その反面、『俺もやんねぇと、負けてらんねぇな』っていう、そういうところは本当にもらいました。力を」
弱気な自分を捨て、懸命なリハビリを経た昨年8月、練習参加の末、沼津との契約を勝ち取った。アキレス腱の痛みは消え、コンディションは良好。生粋のストライカーが再びピッチに帰ってきた。そして沼津加入後のおよそ8か月後には、田中さんとの結婚を発表。人生の伴侶を得た今、その言葉には覚悟が滲む。
「やっぱ家族ができたので、その家族を守るためにやっぱり結果も求めるし、より一層自覚しないといけない部分もたくさん出てきた。お互いリスペクトし合いながらいい関係を築いていると思います」
自らをサポートし、奮い立たせてくれた妻がいたからこそ、今がある。とことん強気なスタンスを貫いてきたストライカーが、逆境から這い上がり再び走り出した。
[プロフィール]
川又堅碁(かわまた・けんご)/1989年10月14日生まれ、愛媛県出身。小松高―アルビレックス新潟―カタンドゥヴェンセ(ブラジル)―アルビレックス新潟―ファジアーノ岡山―名古屋グランパス―ジュビロ磐田―ジェフユナイテッド市原・千葉―アスルクラロ沼津。Jリーグ通算318試合98得点。2013年にJベストイレブンにも輝いた生粋のストライカー。怪我を乗り越え、昨夏加入した沼津でプロ17年目を迎えた今も奮闘を続ける。
(FOOTBALL ZONE編集部・橋本 啓 / Akira Hashimoto)