兄がJクラブで台頭…「ベガルタ戻りたい」 兄弟歩む“同じ道”、夢は「一緒にユアスタでプレー」
阪南大3年生ボランチ工藤紫苑の人間性と憧れる兄の存在
この夏、全日本大学サッカートーナメント総理大臣杯で、阪南大学が12年ぶり3回目の優勝を手にした。
3年生ボランチ工藤紫苑は、豊富な運動量と高い危機察知能力を誇り、中盤の底で危険なスペースを埋めながら、鋭い出足でインターセプトを見せる。そんな工藤は、優勝を手にした瞬間はベンチにいた。彼にとってこの大会は喜びと悔しさの入り混じった大会になった。
「兄が阪南大学3年の時にインカレで2位まで行ったのを当時、高校3年生だった僕はライブ配信で見ていました。タレントが揃っているチームの中で8番をつけて、中心メンバーとして全国大会で活躍する兄の姿に憧れていました」
兄はベガルタ仙台でプレーする工藤蒼生。昨年、阪南大から仙台に加入した蒼生は、1年目はリーグ戦に1試合も出場できなかったが、今年はボランチとして開幕からスタメンを掴み取り、一気に頭角を表してきた。
4つ違いで、ベガルタ仙台U-15、U-18、阪南大と兄と全く同じキャリアを歩む弟・紫苑にとって、背番号8を背負って臨む今大会は特別だった。しかし、憧れていた兄と同じように決勝まで勝ち上がり、兄がなし得なかった全国優勝を成し遂げたにもかかわらず、決勝は出番なし。悔しくないはずがないが、彼は前向きだった。
「今年はリーグ戦から毎回スタメンで出ているわけではないので、僕は仮にベンチでも声がかかったら、いつでも自分の役割を果たしてチームの勝利に貢献することを考えています」
1回戦の日本経済大戦(3-1)ではリードを広げた後半14分に投入され、試合をきっちりとクロージング。2回戦の京都産業大学戦は4-3の後半アディショナルタイムに投入され、僅かな時間で集中した守備を見せた。
こうした高い献身性と真摯な姿勢が評価され、準々決勝の明治大戦でスタメンに抜擢されると、大学サッカー界トップクラスのタレントを揃える明治大の攻撃を、的確な読みとパスカット、シュートブロック、かつセカンドボール回収でも大きな躍動を見せ、2-0の勝利に貢献。準決勝の東京国際大戦では再びベンチスタートとなったが、0-0の後半11分に投入されると攻守のバランスを整える。攻撃の起点になったことで後半26分にはMF三好麟大の決勝ゴールが生まれ、そのまま1-0の完封勝利に貢献した。
「与えられた時間の中でこれまで積み上げてきたものを全力で発揮してきたからこそ、明治大との大一番でスタメンのチャンスが回ってきた。これからもスタメンでも途中でも、チャンスを与えてもらったら、その期待に応えるべく、やるべき役割をやりたいですし、そうすれば今回のようにまた大きなチャンスが巡ってくると思っています」
兄から学んだ前向きな姿勢「どんな時も一生懸命にやる」
常にベクトルを自分に向けて、どんな時も前向きに準備を怠らない。その精神は兄から学んだ。
「僕が大学1年生の時は兄と一緒に住んでいたので、兄が4年になって怪我をして苦しんでいるのを間近で見てきました。家でもリハビリに真剣に取り組んで、食事の面の意識も高かった。復帰してからは誰よりも早く練習場に行って、身体作りに打ちこんでいた。プロに入っても努力を兼ねて、2年目でスタメンを掴んでいますし、僕も真似というか、どんな時も一生懸命にやるということが当たり前のことだという意識を持ってサッカーに打ち込んでいます」
スタメン出場をした明治大戦は兄もスタンドで応援してくれた。同じポジションで「プレースタイルも似ている」と語る尊敬する兄というお手本であり、永遠のライバルである存在がいるからこそ、彼は険しい道を一歩ずつ着実に踏み締めている。
「将来的にはベガルタに戻りたいです。大学サッカーが忙しくて、兄がユアスタでプレーする姿はまだ生で見たことがないので、僕が選手として加わって一緒にユアスタのピッチでプレーがしたいです。個人的にもユアスタは特別な場所ですから」
本気で願えば叶う。そう心の中で信じながら。
(FOOTBALL ZONE編集部)