“水の量”に関する議論は「ナンセンス」 異例の質問集中…審判界から見た町田の特殊性【コラム】

町田・黒田剛監督【写真:©FCMZ】
町田・黒田剛監督【写真:©FCMZ】

レフェリーブリーフィングでは、判定裏側の解明とメディアからの質問を受け付け

 日本サッカー協会(JFA)審判委員会は、レフェリー及びレフェリングに対するメディアの理解を深めるため、原則としては月1回、「レフェリーブリーフィング」を開催している。そのレフェリーブリーフィングが9月11日に開催された。

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 今年は扇谷健司委員長と佐藤隆治審判マネジャーが出席し、前回開催時からその時までに起きたさまざまな事象を取り上げ、判定の裏側で何が起きていたのかという話とともに、メディアからの質問に答えている。

 取り上げる事例の中には判定が大きな話題になったもの、審判から見て問題があったと思われる事象、また判定や運用が間違ったものがある。ただし、正しく判定がなされなかったり、判定を下すまでに問題があったりしたことを糾弾するための場ではない。なぜそういうことが起きたのか、そして今後はどう修正しようと考えているのかをメディアの意見も聞きながら説明するための会になっている。

 そのため、「こんな誤審を起こして、このレフェリーは今後どうするんだ」「この判定が勝敗に影響したけれど、どうしてくれるんだ」ということではなく、同じような問題が起きないようにどう取り組むかという話が中心になる。

 また、「この問題が生じている背景はこうなのではないか」というメディア側の意見に対して、佐藤マネジャーが説明を加えることもある。

 例えば、「レフェリーが選手のパスコースや進路を妨害することがある。レフェリーはまずピッチ上の4人が正しく判定を下さなければならないということになっているので、どうしてもプレーエリアに近づくのではないか。だったら主審は角度をつけたところから見て、細かいところはVAR(ビデオ・アシスタント・レフェリー)に任せたほうがいいのではないか」という意見を出した。

 それに対する佐藤マネジャーの回答は「選手がプレーしたいエリアを邪魔していいということではないが、VARがあってもなくても原点に戻らなければならない。それは『オンフィールド・ディシジョン』の精度を上げること。もし『VARがあるから』と遠くから見ているようになれば判定の精度は落ちるだろうし、何度もVARが入ってアディショナルタイムが延びるだろう」というものだった。

ボール水かけ、タオル拭き…町田が関わる事象に質問が集中

 もちろん、いろいろな試合で起きたことについてメディアがこれについてはどうだったのか、と聞くこともできる。そこでルールの解釈としてはこういうことが考えられる、という審判サイドの意見を聞くことでサッカーへの理解を深めようとしている。

 ただ、この日は少々これまでと違う部分があった。それはFC町田ゼルビアに関する質問が相次いだのだ。

 審判委員会も判定に関するビデオの中で、8月17日のJ1リーグ第27節、町田対ジュビロ磐田の場面を最初に取り上げた。それは後半13分のPKの際、藤尾翔太がボールに水をかけて蹴ろうとしたところ、高崎航地主審が乾いたボールに交換した場面だった。

 佐藤マネジャーはこの高崎主審の行動について「間違っていない。十分理解できる」としながらも、今後の運用について聞かれると「水の量が少しでもダメなんですかといった議論はナンセンス」だとし、「最後はレフェリーの裁量」で、その試合を裁いた主審がどう感じたかで判断するものだとした。つまり、水をかけてもいいが、主審の判断によってボールを交換したり、注意されたりすることも考えられるということだ。

 この1つの話題だけで、予定の60分のうち、冒頭の全体説明12分のあとの25分が費やされた。それだけメディアからの注目度が高かったと言える。その後3つの事例が紹介されたが、それはすべてすんなり終わり、審判委員会が準備していたプログラムは予定どおり60分で終わった。

 しかし、そこから20分の長い延長戦に突入した。メディアからの質問に佐藤マネジャーが答えるのだが、出てきた話題は6項目のうちの3項目が町田に関することだった。

①ロングスローの時のタオルで拭く行為に時間がかかるのは黙認されているのか。

②国立競技場で開催された町田と浦和レッズの試合の時に、浦和のサイドに置かれていた町田のタオルについてレフェリーはどこまで関与するのか。

③町田と横浜F・マリノスの試合で町田のスローインからゴールにつながった場面で、黒田監督がテクニカルエリアから出て指示をしており、そこからゴールにつながった。同じ場面ではテクニカルエリアにほかのコーチも出ていて、ピッチ外のことにどうやってレフェリーは関わっていくのか。

 いずれもレフェリーの判断に委ねられたり、すべての事象に関わることはできなかったりという答えだった。だが、その内容よりも町田に関するいろいろなメディアからの関心の高さが窺えた。それだけ町田の存在が、いろいろな記者にとっても目新しいということだろう。

 このブリーフィングの冒頭で佐藤マネジャーは「ここからの1試合ごと、1つの判定の重みはレフェリーも痛感している。今までと同じ90分ではない」と、今後の試合でますます判定の間違いがないようにしなければいけないと語っている。チームにとっても、レフェリーにとっても、一層気を張る季節になってきた。

(森雅史 / Masafumi Mori)



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森 雅史

もり・まさふみ/佐賀県出身。週刊専門誌を皮切りにサッカーを専門分野として数多くの雑誌・書籍に携わる。ロングスパンの丁寧な取材とインタビューを得意とし、取材対象も選手やチームスタッフにとどまらず幅広くカバー。2009年に本格的に独立し、11年には朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)の平壌で開催された日本代表戦を取材した。「日本蹴球合同会社」の代表を務め、「みんなのごはん」「J論プレミアム」などで連載中。

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