渦中の町田へ「すべてが悪とするのは違う」 “ボール水かけ疑惑”に代表OBが持論【見解】
【専門家の目|栗原勇蔵】ボールの水気を拭くのは良くて、水をかけるのはダメなのか
FC町田ゼルビアのFW藤尾翔太は、6月30日に行われたJ1リーグ第21節ガンバ大阪戦で決勝PKを決め、3-1の勝利に貢献した。PKのシーンでは、藤尾がビデオ・アシスタント・レフェリー(VAR)チェック中に水が入ったボトルを手に取り、G大阪の選手が慌てて駆け付けるシーンが話題となったが、元日本代表DF栗原勇蔵氏は「町田がやることすべてが『悪』とするのは違う」と持論を展開している。
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3位G大阪との大一番でベンチスタートとなった藤尾は、1-1で折り返した後半開始から途中出場。後半14分、FWミッチェル・デュークがペナルティーエリア内でキープして藤尾に渡すと、藤尾が背後から追いかけてきたG大阪MFダワンに倒される。岡部拓人主審はファウルと判定し、町田にPKを与えた。
このPKを冷静に決めた藤尾だが、ビデオ・アシスタント・レフェリー(VAR)のチェック中にゴール横まで移動して水が入ったボトルを手にすると、G大阪のDF中谷進之介やDF松田陸が駆け寄りボールを奪われるシーンがあった。前半33分にG大阪DF半田陸が退場して以降は荒れた展開となり、町田にファウルも増えていたことから、互いにヒートアップする姿は度々見られた。
藤尾は5月19日のJ1リーグ第15節東京ヴェルディ戦(5-0)の後半15分、ペナルティースポットに向かう直前に飲水がてらボールにたっぷりと水をかけていた経緯がある。本人は試合後に「水を飲もうと思っただけ」と話したが、その後、ペナルティースポットに戻った際に持っていた小さなペットボトルの水をボールにかける瞬間が試合中継に映し出されたこともあって、SNS上では大きな反響を呼んだ。
現役時代に横浜F・マリノス一筋で18年間プレーした日本代表OB栗原氏は、「自分はPKを蹴る際にボールに水をかけるところは実際に見た記憶はない」「わざわざ水を持ってきてかけるのは、本人に意図は聞いてみないと分からない」と前置きしつつ、自身の見解を述べる。
「まずはプロとして勝つことが目標です。近年はルールの範囲内なら何をやってもOKの時代でもないですが、勝負なので少しでも確率が上がることをやるのは『マリーシア』(ずる賢さ)とも言えるのかもしれない。タオルで水気を拭くのは良くて、逆に水をかけることはダメなのか。試合前に芝生に水を撒くのは何も言われないですよね。町田がやることすべてが悪とするのは違うし、なんでもかんでも疑ったり、勘ぐるのは良くないと思います」
町田が「リーグを盛り上げているのは間違いない」
栗原氏は、「自分が蹴るボールに水をかけるのは、滑るからコントロールしづらくなることもある」とし、「ガンバ(大阪)戦に関してはすでに芝が濡れていたこともあって、あまり意図してやっていない気もします。彼の中では一種の願掛けのようなものかもしれない」と語った。
町田は激しい球際やロングスローを駆使する戦術が議論のテーマに挙がることも多いが、史上初めてJ1初昇格で前半戦を首位で折り返し、今なお鹿島アントラーズやガンバ大阪、昨季王者のヴィッセル神戸を抑えて首位に立っている。栗原氏は、「町田がリーグを牽引し、盛り上げてくれているのは間違いない」と評価する。
「議論になるのも、人の興味を引き付けている証。負けていたら話題にもならないかもしれないわけで、町田が勝ち続けていることへの妬みも少なからずあるかもしれないし、ヒールのようなチームを倒す気持ち良さがあったほうが盛り上がる部分もあるでしょう」
黒田剛監督率いる町田の快進撃はどこまで続くのか、シーズンを追うごとにその注目度は増している。
栗原勇蔵
くりはら・ゆうぞう/1983年生まれ、神奈川県出身。横浜F・マリノスの下部組織で育ち、2002年にトップ昇格。元日本代表DF松田直樹、同DF中澤佑二の下でセンターバックとしての能力を磨くと、プロ5年目の06年から出場機会を増やし最終ラインに欠かせない選手へと成長した。日本代表としても活躍し、20試合3得点を記録。横浜FM一筋で18シーズンを過ごし、19年限りで現役を引退した。現在は横浜FMの「クラブシップ・キャプテン」として活動している。