菅原由勢、6月シリーズでの“正念場” 激戦区制し「CL出場」の夢を現実に【現地発コラム】
アジア杯で悔しい思いをした菅原由勢は右SBの競争を勝ち抜けるか
すでに2026年北中米ワールドカップ(W杯)アジア最終予選進出を決めている日本代表。だが、1~2月のアジアカップ(カタール)8強敗退のダメージが完全に癒えたとは言い切れない状況だ。
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「僕はアジアカップの難しさを今は感じていて、シンプルに放り込んできたりとか、肉弾戦になった時に自分たちがどうボールを支配していくかってところを高めていかないと。ああいう戦い方になった時にどう攻撃の糸口を見つけられることができるのかも見出していければいい」と自身2度目のW杯予選を戦っている南野拓実(ASモナコ)も強調していた。半年前に直面した現実に向き合い、スッキリした状態で9月からスタートする最終予選に向かうことこそが、6月シリーズに課された最重要タスクと言っていいだろう。
アジアカップでまさかの不調に陥り、毎熊晟矢(セレッソ大阪)に右サイドバック(SB)の定位置を奪われる格好になった菅原由勢(AZアルクマール)にとっても、自身の地位を固めるための重要なシリーズとなる。
3月の北朝鮮戦(東京・国立)でも先発出場を果たしたが、この時は2戦目の平壌でのアウェー戦が中止になり、ポジションを争う橋岡大樹(ルートン・タウン)らとのフラットな競争ができたとは言い難い部分があったからだ。
今回は橋岡に加え、アーセナルで両SBをこなしている冨安健洋、森保ジャパンでしばしば右SBで使われている相馬勇紀(カーザ・ピア)らがいる中での戦いとなる。千葉・幕張で行われた3日の練習では、菅原は4バックの右SBに加え、3バックの右ウイングバック(WB)でもプレー。より高い位置に上がって攻撃に厚みをもたらす役割を託されていた。
「チームとしてトライしていくことをしっかり理解しながら、それプラス、自分の武器を出せるようにやっていけたらと思います。アジアカップは結果としても、個人的な部分でも納得いくパフォーマンスを見せられなかった。そこからどう自分のパフォーマンスをさらに確立させていくかってことに切り替えたし、バネにしてやってこられたので、それも出したいと思います」
本人は半年前の悪夢を完全払拭し、アグレッシブに攻めに絡み、得点に直結するプレーを見せ、「日本を勝たせられる男」に成り上がっていく覚悟だ。
4日からミャンマー入りし、代表は時折、激しいスコールが降るような悪天候の中でのプレーを余儀なくされる。練習場のロッカーもなく、用意されたイスの前で着替えをして練習にのぞむ状況で、環境の整った欧州クラブに在籍する面々にしてみればストレスもあるはずだ。それでも、菅原や中村敬斗(スタッド・ランス)、久保建英(レアル・ソシエダ)らは森山佳郎監督(現ベガルタ仙台)のU-17代表時代にさまざまな劣悪な環境の国々に遠征しており、上の世代以上に適応力を磨いている。
「僕もインドネシアとかインドとかいろんな国に行きましたけど、それに似た感じ。『全然、懐かしいな』という感じ。W杯予選でこういう環境があるということは想定していたし、先輩たちも言っていたので、想定の範囲内かなと思います」とアッケらかんと言ってのけるあたりは頼もしい。強靭なメンタリティーと頭脳的なポジショニング、堂安律らタテ関係を形成する選手との連係・連動、そしてリスタートのキックといった数多くのストロングを持つ菅原が輝けば、チームも勢いに乗れるはず。そういった方向にグイグイと突き進んでいくべきなのだ。
その先に、前々から切望している欧州5大リーグへのステップアップが見えてくる。現所属のAZには2019年U-20W杯(ポーランド)直後に赴き、5シーズンを戦い抜いた。今季はオランダ1部で4ゴール7アシストと数字的にも悪くなかったが、チームは4位で、来季はUEFAヨーロッパリーグ参戦となる。前々から「(UEFA)チャンピオンズリーグ(CL)で戦いたい」と熱望していた男にしてみれば、これ以上、AZにとどまり続けることは夢が遠のくことになりかねない。
本人的にはもっと早く格上クラブ行きを叶えたかったが、昨夏の移籍は叶わず、冬のマーケットもアジアカップ参戦中ということで残留となった。それだけにこの夏を逃したくないという思いは非常に強いはずだ。
関根や濃野ら有望な若手もA代表入りを目指す
「CLに出たいというのもありますけど、まずは5大リーグに行かなきゃいけない。少しでもレベルの高いところにチャレンジしたいと思っているので。どこに行っても競争は間違いなくあるし、そういった中で自分という選手の価値を上げていかなきゃいけない。自分のクロスとかラストパス、シュートやフリーキック(FK)の質は上がってきているんで、そこを武器と捉えながら、もっともっと磨いていきたいですね」と高い領域を貪欲に追い求める菅原は、はやる気持ちを抑えられない様子だ。
確かに今の代表を見ると、冨安や久保、鎌田大地(ラツィオ)のようにCL参戦者は何人もいるし、来季は伊藤洋輝(シュツットガルト)や南野も大舞台に立つ見通しだ。自分のそういった立場にならなければ、激戦区の代表右SBに長く定着できないことを痛感しているのだろう。
年齢的に下の世代を見ても、パリ五輪後にA代表昇格が有力視される関根大輝(柏レイソル)がいるし、今季Jリーグで5ゴールを挙げている濃野公人(鹿島アントラーズ)のような新星も頭角を現しつつある。そこに今回代表落選した毎熊もいるのだから、ウカウカしてはいられない。かつての内田篤人(JFAロールモデルコーチ)や酒井宏樹(浦和レッズ)のようにW杯に複数回参戦できるような突出した存在にならなければいけないという危機感は強いはずだ。
昨年9月のドイツ戦(ボルフスブルク)の闘志あふれるパフォーマンスを格下相手の2連戦で示すのは難しいかもしれないが、困難な環境でタフさと激しさ、クレバーさを示すことはできるはず。それをやってこそ、菅原由勢は新たなステージへの一歩を踏み出せる。
今回はこの男の一挙手一投足に注目しながら、6月シリーズをしっかりと見極めたいものである。
(元川悦子 / Etsuko Motokawa)
元川悦子
もとかわ・えつこ/1967年、長野県松本市生まれ。千葉大学法経学部卒業後、業界紙、夕刊紙記者を経て、94年からフリーに転身。サッカーの取材を始める。日本代表は97年から本格的に追い始め、練習は非公開でも通って選手のコメントを取り、アウェー戦もほぼ現地取材。ワールドカップは94年アメリカ大会から8回連続で現地へ赴いた。近年はほかのスポーツや経済界などで活躍する人物のドキュメンタリー取材も手掛ける。著書に「僕らがサッカーボーイズだった頃1~4」(カンゼン)など。