森保J、6月は「単なる消化試合ではない」 主軸招集の真実…“新戦力”に試される敵地の洗礼【コラム】
6月2連戦は消化試合も…不安払拭のチャンス
2026年北中米ワールドカップ(W杯)まで早いものであと2年。日本代表はすでにアジア最終予選進出を決めており、6月のミャンマー(6日=ヤンゴン)、シリア(11日=広島)2連戦は消化試合となる。
【PR】ABEMA de DAZN、明治安田J1リーグの試合を毎節2試合無料生中継!
となれば、これまで招集機会の少なかったメンバーを多く呼んで、新たなトライをするというのが順当。森保一監督も2022年カタールW杯最終予選前の6月シリーズ、あるいは昨年6月などもそういったアクションを取っていた。
しかしながら、今回の26人の顔ぶれを見ると、キャプテン遠藤航(リバプール)、今季フランス1部9ゴールの南野拓実(ASモナコ)ら現代表の主力級がズラリと並んでいる。今季限りで現役を引退した長谷部誠(フランクフルト)、岡崎慎司(シント=トロイデン)とともに長く代表をリードしてきた37歳長友佑都(FC東京)も、3月シリーズに続いて名を連ねている。
目ぼしいところで選外となったのは、1月の週刊誌報道を受け、代表離脱中の伊東純也(スタッド・ランス)、ケガで長期離脱している三笘薫(ブライトン)、チーム状態も含めてやや停滞感が見られる浅野拓磨(ボーフム)、負傷明けでパフォーマンスが上がり切っていない毎熊晟矢(セレッソ大阪)、パリ五輪参戦でU-23代表優先となった鈴木彩艶(シント=トロイデン)くらい。森保監督が直々に指揮を執った東京五輪世代が17人という「ガチメンバー」で挑むことになるのだ。
それだけの陣容を揃えた背景として、1~2月のアジアカップ(カタール)8強敗退の影響がある。日本は史上最強と言われながら、ロングボールやクロス対応に苦慮し、イラクとイランに立て続けに苦杯を喫した。そこからの立て直しをすべく、重要なシリーズと位置付けられた3月も、アウェー北朝鮮戦(平壌)がドタキャンされたため、ホーム戦を含めた4日間しか活動できなかった。つまり、今の日本代表は「対アジアの不安」を抱えたままなのだ。
「代表活動が長く空いた状態で9月からの最終予選を迎えると、難しい入りになることもあり得る」と森保監督はJリーグ視察時の囲みでも語っていたが、前回の最終予選初戦のバーレーン戦で黒星スタートを余儀なくされ、崖っぷちに追い込まれた苦い経験もある。3年前と同じ轍を踏まないためにも、6月シリーズでチームのベースを確立させ、底上げを図っておきたいというのが、指揮官の切なる思いに違いない。
こうした中、朗報と言えるのは、パリ世代の鈴木唯人(ブレンビー)の招集だ。2022年1月に千葉・幕張で行われた国内組合宿に呼ばれた経験のある鈴木唯人だが、その後はパリ五輪に向けた活動に主軸を置き、A代表入りする機会はなかった。
だが、昨年8月のデンマーク移籍後、徐々に存在感をアピール。今季はリーグ戦25試合出場9ゴール、カップ戦を含めると11ゴールという目覚ましい活躍を見せている。彼と久保建英(レアル・マドリード)に関しては、7~8月のパリ五輪への派遣をクラブ側が認めず、事実上の参戦不可となったことから、A代表で活動することになった。
「特長としては攻撃の起点になる、得点に絡むところ、今ブレンビーでやっているプレーを期待したい。4-2-3-1ならトップ下、4-1-4-1ならインサイドハーフ(IH)だったり、3バック、3-4-3で戦うのであればシャドーのポジションになる。彼は今、3バックのシャドーのポジションでやっているので、そこでやってもらえればと思います」と森保監督は5月24日のメンバー発表会見時に説明。鈴木唯人を鎌田大地(ラツィオ)や旗手怜央(セルティック)、久保らと競わせる考えのようだ。
今回のミャンマーとシリアという相手を踏まえると、広島での第2戦に最強メンバーをぶつける可能性が高い。鈴木唯人にチャンスが与えられるとすれば、ヤンゴンでの第1戦ということになる。おそらくそこには3月シリーズに出ていない長友や川村拓夢(サンフレッチェ広島)、短時間の出場にとどまった小川航基(NECナイメンヘン)らが抜擢されるのではないか。
6月初旬のヤンゴンは連日雷雨の予報で、気温も1日を通して26~30度だという。高温多湿の気象条件が続けば、トゥウンナ・スタジアムのピッチ状態も相当悪いはず。そこでフレッシュな面々がタフに戦えるのか否かが試される。百戦錬磨の長友や年代別代表経験豊富な小川は問題ないだろうが、鈴木唯人や川村は10代の頃にアジアの難しい環境でプレーした経験が少ない。そのマイナス面をいかに克服し、普段通りのパフォーマンスを見せるのか。彼らにとっては最終予選への生き残りを賭けた重要なゲームになりそうだ。
アジア杯不在も嘆かれた鎌田の復帰に懸かる期待
昨年11月シリーズ以来の復帰となる鎌田の一挙手一投足も注目すべき点だろう。ご存じの通り、今季赴いた新天地で長く出番を得られず、アジアカップにも招集されなかった彼だが、3月にマウリツィオ・サッリ監督が更迭され、ゴール・トゥドール監督が就任すると、状況が一変。チームの主軸と位置付けられ、フル稼働するようになったのだ。
「チームを勝たせる存在感を発揮していると思いますし、本人の良さでもある、攻撃も守備もチームに貢献しながら、リズムを生み出す、そして得点に絡んでいくこともできている。試合に出続けているということで、コンディションも非常に上がってきているのかなと思います」と森保監督も前向きにコメント。今後は再び代表の主軸と位置づけていく構えだ。
実際、アジアカップでも「鎌田がいれば、苦境でもボールを保持する時間を増やせたし、ゲームを落ち着かせることができた」といった声は関係者からも聞かれた。特に蹴り込まれて沈んだイラン戦はそんな印象が強かった。彼がいるかいないかで日本の戦い方のバリエーションは大きく変わってくる。そのあたりの「違い」を彼には今一度、代表のピッチで示してほしいものである。
傍目から見れば、今回の6月2連戦は「何も懸かっていない試合」だが、単なる消化試合ではない。先々につながる重要なシリーズと位置づけ、活動を冷静かつ厳しく注視していくべきである。
(元川悦子 / Etsuko Motokawa)
元川悦子
もとかわ・えつこ/1967年、長野県松本市生まれ。千葉大学法経学部卒業後、業界紙、夕刊紙記者を経て、94年からフリーに転身。サッカーの取材を始める。日本代表は97年から本格的に追い始め、練習は非公開でも通って選手のコメントを取り、アウェー戦もほぼ現地取材。ワールドカップは94年アメリカ大会から8回連続で現地へ赴いた。近年はほかのスポーツや経済界などで活躍する人物のドキュメンタリー取材も手掛ける。著書に「僕らがサッカーボーイズだった頃1~4」(カンゼン)など。