100%を求めるのは「高望み」 VAR廃止には「反対」、VARと主審に求めたい“裁量”【前園真聖コラム】

VARの廃止について6月6日に採決が行われる【写真:徳原隆元】
VARの廃止について6月6日に採決が行われる【写真:徳原隆元】

VAR導入による試合時間の延長はテレビ放送に影響

 イングランドでビデオ・アシスタント・レフェリー(VAR)に対する不満が表面化した。プレミアリーグ所属のクラブがVAR廃止を提案して、議論されることになったのだ。プレーを公平に裁くために導入されたはずのVARがなぜ反感を持たれてしまったのか。そしてVARは今後も存続すべきなのか。元日本代表MF前園真聖氏に意見を訊いた。(取材・構成=森雅史)

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 イングランド1部プレミアリーグでビデオ・アシスタント・レフェリー(VAR)の廃止が検討されています。ウォルバーハンプトンがリーグにVAR廃止の決議案を提出し、6月6日に採決が行われることになりました。

 VARはさまざまな利点とともに問題点も指摘されています。

 まず、レフェリーによる見落としや見間違いがなくなったことが最大のメリットでしょう。どうしてもレフェリーから見えないプレーをビデオカメラが代わりに見てくれます。また、何度も見返すことができるのでより正確性を上げることができます。

 一方で、VARが介入することでゲームが止まります。ボールがゴールに入るたびにVARのチェックが行われるので、実施前のゴールに入ってすぐにスタジアムが沸く場面が、一度間を置いてからの歓声に変わるようになりました。そのため感動の瞬間が一瞬遅れます。

 さらに、アディショナルタイムが長くなります。2022年のカタール・ワールドカップ(W杯)の頃はアディショナルタイムが7分というとずいぶん長く感じられましたが、今はだんだんそれが普通になってきて、5分でも短く感じられるようになりました。

 これは実はテレビ放送に影響するのではないかと思います。前後半で10分ずつアディショナルタイムがあることも想定して放送枠を決めなければいけなくなるでしょう。サッカーは時間が来れば試合が終わるという、本来放送に向いているスポーツだったのですが、少し考えを変えなければいけなくなりました。

VARによって確実にミスジャッジは減少

 そして最も大きな問題は、VARを入れても判定の間違いは残るということです。限られた時間の中で焦りながら判定することで、間違った判断が生まれることもあります。2023年10月のトッテナム対リバプールで、VARと主審とのコミュニケーションミスから、ゴールが取り消されてしまうことがありました。

 それからレフェリーが一度下したジャッジをVARによって覆されるわけですから、レフェリーへの信頼も傷つけられているような気がします。

 そういう功罪両面ありますが、僕はVAR廃止に反対です。もしもVARがなくなると、きっと「VARがあれば」という声が出てくるでしょう。今から「GKヘのバックパスを手で取ってもいい」という時代に戻るようなものです。それに、当初は違和感があった得点やアディショナルタイムの長さも、もう慣れてきた人も多いのではないでしょうか。

 僕はVARによって確実にミスジャッジが減ったと思います。もちろんそれでもすべてはなくならないでしょうし、主審が主観で判断しなければならないところがあるので「ファウルじゃないのではないか」と疑問は残るでしょう。

 ですが、それよりもVARが入ったことで、これまで見逃されてきたことがちゃんとジャッジされるようになったことのメリットが大きいと思います。すべてを間違いなく判断するというのは高望みだという気がします。なんでも100%を求めるのは無理でしょう。

 ただし、僕もVARとレフェリーに望みたいことがあります。

 それはあまりに細かく見るために、サッカーの面白さが薄まってしまうことです。特にペナルティエリア内のハンドなどはものすごく細かく反則を取られ、PKになってしまいます。

例えばジャンプする時の身体のバランスを取るために上げた手に、不可抗力とも思えるような状況でボールが当たってもハンドになります。特にDFは腕を上げずにジャンプすることも考えなければいけなくなりました。

 また、スライディングした時はボールが当たった手が「支え手」と判断されればハンドにはなりませんが、腕が体から大きく離れた状態になったと判定されるとハンドになってしまいます。

 どちらもギリギリのプレーの場面で、身体を投げ出しゴールを死守するためのプレーです。ゴールを守る為に必要な、自然な動きの中で手に当たってしまうのです。それを「手に当たったから」とVARで細かく見てハンドにするのには、僕は違和感を覚えます。

 VARが導入されて、今までいろんな事例が積み上がってきたことでしょう。その中から、自然なプレーの一環として起きてしまったファウルについては、主審の判断で反則に取らないということになってほしいと思います。同時に、サッカーのルールを決める国際サッカー評議会(IFAB)は、積極的にルール改正(IFABは国際サッカー連盟[FIFA]4名、英国サッカー協会[イングランド・スコットランド・ウェールズ・北アイルランド]各1名の委員から構成され、年1回の総会で6票以上の賛成があった場合にルールを改正する)に取り組んでいってほしいと思います。

(前園真聖 / Maezono Masakiyo)



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前園真聖

まえぞの・まさきよ/1973年生まれ、鹿児島県出身。92年に鹿児島実業高校からJリーグ・横浜フリューゲルスに入団。96年のアトランタ五輪では、ブラジルを破る「マイアミの奇跡」などをチームのキャプテンとして演出した。その後、ヴェルディ川崎(現・東京ヴェルディ)、湘南ベルマーレの国内クラブに加え、ブラジルのサントスFCとゴイアスEC、韓国の安養LGチータースと仁川ユナイテッドの海外クラブでもプレーし、2005年5月19日に現役引退を表明。セカンドキャリアでは解説者としてメディアなどで活動しながら、「ZONOサッカースクール」を主催し、普及活動を行う。09年にはラモス瑠偉監督率いるビーチサッカー日本代表に招集されて現役復帰。同年11月に開催されたUAEドバイでのワールドカップ(W杯)において、チームのベスト8に貢献した。

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