6ゴール4アシストの堂安律、なぜ成長できた? 「知らなかったよ」…指揮官が称賛する人間性【現地発コラム】
堂安とシュトライヒ監督の絆「(キャラクターまで)知らなかったよ。でも…」
フライブルクの日本代表MF堂安律が、第33節ハイデンハイム戦で今季6点目となるゴールを決めた。
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今季限りでクラブを去ることを表明しているクリスティアン・シュトライヒ監督にとって、この日がホームラストゲーム。堂安はことあるごとにシュトライヒへの感謝の思いを言葉にしていた。
この日も試合後、「すごいエモーションな日だったので、勝ち点3を取りたかったなって思いました」と話し、勝ち切れなかったことを悔しがっていた。
それでも惜別となる素晴らしいゴールを決めた。左サイドバックのクリスティアン・ギュンターのクロスに抜群のタイミングで弾けるように飛び込み、豪快にヘディングでゴールを決めたのだ。
第30節マインツ戦後、シュトライヒ監督に直接尋ねてみたことがある。
堂安はその日、ミヒャエル・グレゴリッチのゴールを見事なクロスでアシストしただけではなく、足を止めずにハードワークをし続けた。以前、記者会見で堂安の成長を褒めていたことがあったが、ではなぜ堂安はこうした成長を遂げることができたのだろうか? 少し言葉を探してから、次のように語ってくれた。
「それは彼がいつでも真剣で、規律立った人間だからだ。試合の分析でもなんでも、私が何か話をすると真剣にしっかりと聞こうとする。これはとてもポジティブな要素だ。中には『監督は何を言ってるんだ? 俺には関係ないね』と思う選手だっているだろう。だが彼はちゃんと真剣に受け止めようとする。だから試合でもどんどん規律あるいいプレーを見せてくれるんだ。クラブのために戦うことを厭わず、クラブのアイデンティティーに沿う選手なんだ」(シュトライヒ監督)
獲得前にそうしたキャラクターについてまで知っていたのだろうか?
「知らなかったよ」
すぐにそう言って少し笑った。それからすぐにまた丁寧に話し出す。
「でもいい選手だというのは分かっていた。そして彼はとてもいい成長を遂げている。競り合いに強くなり、ピッチ上での存在感が増している。ボールを持ってプレーできるのは以前からそうで分かっていたが、これまで以上に戦えるようになった」
お互いの信頼関係がそこにはある。堂安はシュトライヒを信頼して、その言葉を漏らさずに聞こうとしただろうし、シュトライヒも堂安の言葉に真剣に耳を傾けたことだろう。リスペクトし合う間柄。絆というものがそこにはある。
堂安の活躍ぶりに指揮官も嬉しさ露わ「でも今それが実りつつあるだろう?」
今季の堂安はあまりゴールやアシストに絡めない時期があった。悪くないプレーをしながら数字が付いてこない。だが、シーズン終盤にきて、そうした数字も付いてきている。
シュトライヒは嬉しそうに頷きながら話す。
「そうだね、少なかった。でも今それが実りつつあるだろう? しっかりと成長したら、ピッチ上で存在感を発揮できるようになったら、数字も付いてくる。そうした時期に入っているんだ。だからゴールやアシストが付いてきている」
堂安もそのあたりの手応えを感じているようだ。6ゴール4アシストの成績を残し、ゴール+アシストのスコアポイントを二桁の「10」にした。「いいシーズンを送っているんだけど数字だけが」と口にしていた時期もあっただけに、大満足とまではいかなくとも、納得いくところまでは来たのではないだろうか。
「うん、そうですね。ヨーロッパリーグと合わせると得点数で二桁まであとちょっと。今8点ですよね。次の試合で2点取れれば。そこは達成したいなっていうのは調子が上がってきている時から思ってました。ただ次の試合(最終節)もウニオンが崖っぷちにいるので厳しい試合になると思います。この3~4試合、対戦相手がこういう相手ばっかなので難しさを感じてます」
第33節で敗れて2部3位との入れ替え戦に回る16位へ落ちたウニオンは全身全霊を懸けて戦ってくるはず。しかも相手のホーム。だからこそ、そこで結果を残す爆発が求められる。ウニオンの守備に風穴を開ける活躍を見せることができたら、それこそが恩師シュトライヒへの何よりの贈り物となるのではないだろうか。
中野吉之伴
なかの・きちのすけ/1977年生まれ。ドイツ・フライブルク在住のサッカー育成指導者。グラスルーツの育成エキスパートになるべく渡独し、ドイツサッカー協会公認A級ライセンス(UEFA-Aレベル)所得。SCフライブルクU-15で研修を積み、地域に密着したドイツのさまざまなサッカークラブで20年以上の育成・指導者キャリアを持つ。育成・指導者関連の記事を多数執筆するほか、ブンデスリーガをはじめ周辺諸国への現地取材を精力的に行っている。著書『ドイツの子どもは審判なしでサッカーをする』(ナツメ社)、『世界王者ドイツ年代別トレーニングの教科書』(カンゼン)。