堂安律、なぜドイツで高評価? 計り知れない貢献度「これだけやってたら嫌でも上手くなる」【現地発コラム】

フライブルクの堂安律【写真:Getty Images】
フライブルクの堂安律【写真:Getty Images】

どこで起用されても高水準のプレー、堂安の起用法に見る期待と信頼

 攻撃的な選手にゴールやアシストが求められるのはサッカー界の常。欧州でブレイクスルーを果たすためにはゴールに直結するプレーのクオリティーが欠かせないし、効果的にフィニッシュワークに関われる選手ははどんなチームでも重用される。

 一方で、現代サッカーではチーム戦術を秩序だって遂行することも高いレベルで求められる。攻撃的な選手だからといって攻撃にだけ集中して取り組めばいいとはならない。

 本当に一握り中の一握りだけが、例外的に守備への負担を減らして攻撃で脅威となるプレーが発揮しやすいようにと考慮されるケースもあるが、そのためにはひとたびボールを持つと高い確率でゴールを脅かすアクションにつながるという深い信頼がなければ成り立たない。そして世界レベルで活躍している選手の多くが、守備でも攻撃でもオフ・ザ・ボールで秩序だった動きに汗をかいているし、そのことが攻撃に悪影響になるようでは評価対象にも入ってこないのが現実だ。

 フライブルクの日本代表MF堂安律がクリスティアン・シュトライヒ監督から高く評価されているのは、どれだけ運動量が多く求められる試合展開でも、守備へのタスクが多くなる起用法でも、足と頭を止めずに、チームのために全力で取り組み、さらに個の力でプラスαをもたらしてくれるからだ。

 今季はさまざまなタスクを担いながらも出場し続けていることからも、それがよく分かる。4-4-2での右サイドハーフ、4-3-3での右ウイング、そして3-4-3での右ウイングバック。どこで起用されても堂安はこれだけのプレーをしてくれるという期待と信頼がそこにはある。

 ボルシアMG戦に向けて「4バックでいくべきか、それとも3バックかとかなり熟考した」と明かすシュトライヒ監督は最終的に3バックを選択。「フィジカル的、アスレチック的な強さも必要になると考えた。上手く機能してくれた」とその理由を振り返っていたが、堂安はそうした試合展開でも大きな力になるという評価の表れでもある。

 選手によっては戦術的な理由でスタメンから外されたり、メンバー外になることだってある。どんな役割でも大切な選手。それがフライブルクにおける堂安なのだ。守備での貢献は計り知れない。堂安も「そうですね、これだけ守備をやってたら、嫌でも上手くなりますね」と自信を深めている。

今季4ゴール2アシストの活躍を見せる堂安、本人の自己評価は「全然っすね」

 堂安は細部でも大事な動きも見せている。例えば、ボルシアMG戦の前半7分の先制点の場面だ。

 左サイドでのスローインからセンターバックで起用されたヤニク・カイテルが上手くスペースでボールを受けると、そのまま前線へタイミングのいいロビングパス。マーリン・ロールがヘディングで折り返すと、ボルシアMG左サイドバックのルカ・ネッツが自分に食い付いてきているのを感じた堂安が、このボールをクレバーにスルー。うしろに回り込んでいたマクシミリアン・エッゲシュタインのシュートはそのネッツに当たって方向が変わり、ファーポスト際でいち早く反応したミヒャエル・グレゴリッチュがダイレクトシュートで流し込んだ。

 この一連の流れでは結果としてグレゴリッチュのシュートがゴールへと入ったが、スルーしただけではなく、堂安がファーポスト際でしっかりとスタンバイしていたのは重要なポイントだ。

 チーム2点目の場面もそうだった。グレゴリッチュが左サイドから侵入してきた場面で、堂安はファーポストへとハイスピードで走り込んでいる。グレゴリッチュはシュートを選択し、こぼれ球を拾ったレールが鋭いシュートを決めてゴールとなったわけだが、得点機に顔を出す堂安の動きは貴重だ。

 シュトライヒ監督は常々、そうした堂安の走りを褒めていたことがあった。

「相手守備を押し込み、翻弄するためには深いところまで走りこむ動きが必要になる。リツはそうした走りを何度も見せてくれる。チームの助けとなる動きだ」

 とはいえ、それですべて満足しているわけではない。ボルシアMG戦で1ゴールの堂安は、今季4ゴール2アシストの活躍。この数字は本人にとってはまだ「全然っすね」というものだった。

「そんな悪いシーズンじゃないのになと思いながら、そんな数字だったなという。ただ、ウインターブレイクが明けて、アジアカップが終わって、かなりの悔しさを持ってこうやって帰ってきて、間違いなくこの2か月で成長できています」

 試合ごとに得点機には絡めているだけに、残り試合でゴールやアシストをさらに増やし、クラブ3年連続となるヨーロッパカップ戦出場権獲得に貢献したい。

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中野吉之伴

なかの・きちのすけ/1977年生まれ。ドイツ・フライブルク在住のサッカー育成指導者。グラスルーツの育成エキスパートになるべく渡独し、ドイツサッカー協会公認A級ライセンス(UEFA-Aレベル)所得。SCフライブルクU-15で研修を積み、地域に密着したドイツのさまざまなサッカークラブで20年以上の育成・指導者キャリアを持つ。育成・指導者関連の記事を多数執筆するほか、ブンデスリーガをはじめ周辺諸国への現地取材を精力的に行っている。著書『ドイツの子どもは審判なしでサッカーをする』(ナツメ社)、『世界王者ドイツ年代別トレーニングの教科書』(カンゼン)。

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