新生ドイツ代表、なぜ低迷から復活? フランスとオランダ撃破…“泣きどころ”が一転して武器に【現地発コラム】

トーマス・ミュラーとトニ・クロースが存在感【写真:ロイター】
トーマス・ミュラーとトニ・クロースが存在感【写真:ロイター】

トニ・クロースがドイツ代表復帰…構造と雰囲気を重要視したナーゲルスマン監督

 EURO(UEFA欧州選手権)イヤーにドイツ代表が復活のきっかけを掴んだかもしれない。

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 ユリアン・ナーゲルスマン監督は11月の代表シリーズでトルコ代表(2-3)とオーストリア代表(0-2)に連敗し、代表としてどう戦うべきかの明確なビジョンとメッセージをついに見つけ出したようだ。

 攻守をつなぎ合わす存在としてトニ・クロースが復帰し、相棒にはハードワーカーのロベルト・アンドリッヒが指名された。これまで主力の1人に数えられていたレオン・ゴレツカをメンバーから外してでもチームの構造と雰囲気を重要視した。

 オランダ戦で決勝ゴールを挙げたニクラス・フュルクルクも試合後のミックスゾーンで報道陣に囲まれると、チームバランスの良さに手応えを口にしている。

「チームとしていいエスプリを感じられる。いい雰囲気がある。監督との話し合いを経て、選手それぞれが自分の役割をはっきりと理解し、ここにいる全員が、喜んで代表チームでプレーしたいと思い、チームとして成功するために全力を尽くす気概を持っているんだ」

 クロースのカムバックは守備の要であるアントニオ・リュディガーにとっても歓迎すべき点だ。競り合いの強さでは世界有数のセンターバックだが、ボールを持った時の選択肢で問題を抱えることが少なくない。レアル・マドリードでともにプレーするクロースのサポートを受けることで、フランス戦とオランダ戦ではこれまでにない安定したプレーを代表にもたらした。

 取材で訪れたフランクフルトのスタジアムで隣に座っていたオランダ人記者が何度も声を上げて僕に話しかけてくる。中盤からマンマークで守備にあたろうとするオランダの守備の狙いを、クロースを中心としたドイツがことごとく外していくからだ。

「まただ。自分のマークにずっと付いていってしまうだろう? そうすると、どこかが完全に空いてしまって、捕まえられていない。後手になってしまっている」

 密集地域でプレスに行こうとする相手の狙いをクロースが涼しげに外し、右サイドでフリーになっていたヨシュア・キミッヒにパスを展開すると、オランダ人記者は思わず頭を抱えていた。

自国開催のEUROへ大きく弾み【写真:ロイター】
自国開催のEUROへ大きく弾み【写真:ロイター】

両SBの存在は大きな戦果、6月のEUROへミュラーも手応え「みんなプロだから…」

 バイエルン・ミュンヘンで右サイドバック(SB)としてプレーすることになったキミッヒが代表でも大きな支えになりつつあることは大きい。フランス戦ではスーパースターのキリアン・ムバッペ相手に何度も鋭い守備とクレバーな攻撃でチームをけん引した。

 実は代表合流前にプライベートコーチと自主練習に励んでいたという。右SBとしてのプレー感覚をさらに取り戻すべく、サイドでボールを受けてからの前線へのスルーパス、チップパス、クロスを何度もチェック。オランダ戦前のアップで右サイドから次々と繰り出すクロスが正確に味方へと送られていたのが印象的だった。

 そして欠けていた最後のピースは左SBとしてデビューを飾ったマクシミリアン・ミッテルシュテットとなるかもしれない。守備力にまだ不安を残すが、戦術理解度が高く、ビルドアップでの出口作り、攻撃での突破口作りで高いレベルを披露すると、オランダ戦では同点ゴールをマーク。ナーゲルスマンもそのパフォーマンスに合格点を与えていた。

「みんなが『まだインターナショナルな試合を一度もしたことがない選手だ。早すぎる』と口にしていた。確かに今日失点に絡むミスをしたが、ゴールを決め、そのあとも素晴らしいプレーを見せてくれたんだ。気持ちにあふれ、多くのパワーをもたらし、チームのために全力でプレーできる選手なんだ」(ナーゲルスマン)

 両SBが泣きどころだったドイツだが、両SBが武器になりつつあるのは大きな戦果と言えるだろう。

 何より6月開幕のEURO開幕に向けて決して小さくはない希望を手にすることができた。ベテランで14年ワールドカップ優勝メンバーのトーマス・ミュラーも試合後のミックスゾーンで報道陣相手に笑いを交えながら、ポジティブな言葉を繰り返す。

「雰囲気はいいよ。僕らはみんなプロ選手だから、いろんな経験をしている。非常に難しい時期を過ごしてきたから。11月に起きたことを忘れてはいけない。それでも正しい大きな一歩を進むことができたのを嬉しく思う」

 隣のオランダ記者は試合後スッと立ち上がると、僕とも握手を交わして、「ドイツはいいチームだ」と周りのドイツ人記者に言い残して、颯爽と去っていった。スタジアムからの帰り道、ドイツ人ファンは「今度こそ」の思いの高まりをきっと感じていたに違いない。

◆ドイツ代表/ユリアン・ナーゲルスマン監督体制の戦績と日程
23年10月14日 親善試合 アメリカ ●1-3○ ドイツ
23年10月18日 親善試合 メキシコ △2-2△ ドイツ
23年11月18日 親善試合 ドイツ ●2-3○ トルコ
23年11月21日 親善試合 オーストリア ○2-0● ドイツ
24年3月23日 親善試合 フランス ●0-2○ ドイツ
24年3月26日 親善試合 ドイツ ○2-1● オランダ
24年6月3日 親善試合 ドイツ×ウクライナ
24年6月7日 親善試合 ドイツ×ギリシャ
24年6月14日 EURO第1戦 ドイツ×スコットランド
24年6月19日 EURO第2戦 ドイツ×ハンガリー
24年6月24日 EURO第3戦 ドイツ×スイス

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中野吉之伴

なかの・きちのすけ/1977年生まれ。ドイツ・フライブルク在住のサッカー育成指導者。グラスルーツの育成エキスパートになるべく渡独し、ドイツサッカー協会公認A級ライセンス(UEFA-Aレベル)所得。SCフライブルクU-15で研修を積み、地域に密着したドイツのさまざまなサッカークラブで20年以上の育成・指導者キャリアを持つ。育成・指導者関連の記事を多数執筆するほか、ブンデスリーガをはじめ周辺諸国への現地取材を精力的に行っている。著書『ドイツの子どもは審判なしでサッカーをする』(ナツメ社)、『世界王者ドイツ年代別トレーニングの教科書』(カンゼン)。

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