スキッベ体制3年目の広島「最新序列」考察 開幕2戦で“固定”の先発陣を打ち崩すのは?【コラム】

スキッベ体制3年目の広島【写真:Getty Images】
スキッベ体制3年目の広島【写真:Getty Images】

スキッベ体制3年目の各ポジションの先発争い構図を考察

 2024年シーズンのサンフレッチェ広島の選手序列は一目瞭然だ。開幕戦(浦和レッズ戦/2-0)と第2節(FC東京戦/1-1)で、先発は同じ。FC東京戦に至っては、交代もゼロだ。ミヒャエル・スキッベ監督がいかに、この11人に信頼を寄せているか、よく分かる。

 当初は、特に前線の3枚についてはもっと激しい競争になると思われた。

 最前線では昨年の負傷禍を克服すべく、プレシーズンから準備を重ねてきたピエロス・ソティリウと湘南で13得点の大橋祐紀、そして昨季は途中出場で8得点と結果を残したドウグラス・ヴィエイラの3人が、評価としては横一線で並んでいた。

 だが、ドウグラス・ヴィエイラは昨年末に行った足のメンテナンス手術によってキャンプは出遅れ。第2節も足の違和感のため、トレーニングに参加することができていない。ピエロスはキャンプでのトレーニングマッチやプレシーズンマッチで5得点と結果を残すも、大橋はJクラブ相手には1得点。前線からのプレスやポストプレーなど、ゴール以外での貢献は五分。ここはピエロス優位かと思ったが、スキッベ監督はまさかの“ウルトラC”に出た。

 2月10日、ガンバ大阪とのプレシーズンマッチで指揮官は背番号20(ピエロス)と背番号77(大橋)の同時起用に踏み切った。2トップではない。ピエロスを頂点に、大橋と加藤陸次樹をシャドーに配置したのである。

 この形は宮崎キャンプでは皆無。「前日トレーニングでシャドーに入ったのが初めて」と大橋は語ったが、実は以前から指揮官は「(加藤)ムツキと同じような特性を持っている」と語っていた。加藤も広島でFWからシャドーにコンバートされたことを思えば、可能性は大いにあると感じていたが、まさか開幕2週間前でいきなりのテストとは――。しかもこの試合で、大橋が起点となってピエロスのゴールが生まれ、2週間後の開幕戦(浦和戦)では77番の2点目を20番がボールのないところで演出。機能することを証明した。

 前線にFWタイプを3枚並べることの効用について、指揮官はこう語っている。

「相手にとって最も危険であるペナルティーエリアに、ゴールを狙える選手たちを揃えることができる。おーちゃん(大橋)についてもムツキにしても、1.5列目に止まるのではなく、パワフルにゴールへと向かってほしい」

 この配置ができる前提として、大橋も加藤にしても「献身的な守備」と「チームプレー」ができることが挙げられる。特に加藤は大橋の中央大時代の後輩で、大学時代はホットラインを築いていた。実際、開幕戦では加藤のクロスを大橋が決め、中大ラインの確かさを証明した。

マルコス・ジュニオールの復帰で序列変化が起こる可能性

 この布陣が成功したことにより、満田誠がボランチに下がって川村拓夢とコンビを組むことが確定する。満田は宮崎キャンプの前半を前年終盤に痛めた足を回復させる時間に使い、本格的なトレーニングは1月の終わりから。だが試合に出れば、持ち味の「火の玉プレス」も健在で、パスによる展開も板についてきた。

 彼の持つプレッシングの激しさやスピード、シュート力を生かすにはシャドーのほうがベターだとは感じる。実際、練習試合ではシャドーの位置でプレーしていた。だがボランチでもレベル超えのプレーができている今、満田はやはり外せない。開幕戦で先制点の起点となる強烈なシュートを放ち、チームトップクラスのボール奪取能力を誇る川村拓夢も含め、スキッベ監督にとっては2人はまさに「鉄板」だ。

 GK大迫敬介と3バック(塩谷司、荒木隼人、佐々木翔)はまだまだ他の追随を許さない。サイドも中野就斗はさらにスケールアップしてきたし、東俊希もプレシーズンマッチでのアシストも含め、キャンプで最も成長を感じさせた1人だ。監督の信頼はおそらくは揺るがない。キャンプでは徹底的にチームをミックスさせ、そこで個々の力を冷静に見つめて、評価を下した結果だからだ。

 ただ、もうしばらく時間が経つと、この序列に変化が起きるだろう。

 それは、マルコス・ジュニオールの復帰である。

 宮崎キャンプで筋肉系の負傷を負った10番は、ここまで慎重に治療とリハビリを進めてきた。そして彼はすでに実戦練習にも参加し、コンディションを急ピッチに上げている。復帰が3月9日のサガン鳥栖戦になるかどうかは分からないし、おそらく当初はベンチスタートとなるだろう。

 ただ、マルコスの復帰はチームに大きな影響を与える。

 圧倒的にチャンスを作っていたFC東京戦で感じたのは、今の広島の攻撃は「剛」がほとんどで「柔」が少ないということだ。サイドからのクロス、中央からはミドルシュート。破壊力を感じさせる迫力は素晴らしいが、それだけでは守備を固めてくる相手からゴールを奪うのは難しい。1タッチ・2タッチの速いパス回しで打開を図ろうとするのだが、それもペナルティーエリア内に守備陣が乱立している状況では難しい。

 だがマルコス・ジュニオールがいれば、彼のクオリティーによって打開は可能だ。魔法使いのようなスルーパスだけでなく、彼はまるで忍者のようにゴール前の危険な位置に入り込む。昨年のリーグ第23節以降、広島が唯一敗戦したのは京都戦だが、この時も引いて守る相手のわずかな隙を突き、決定的シーンを創ったのはマルコスだ。PKの判定が出てもおかしくないプレーを引き出すなど、常に危険なプレーで相手を脅かした。

 彼が復帰すれば、前線3枚の競争は一気に激化する。大橋とピエロス、加藤とマルコス。さらに宮崎キャンプ後半の一時期、怪我でリハビリに費やした野津田岳人の状態が上がってくれば、ボランチの競争はもっと激化するだろう。

 今季の野津田は、宮崎キャンプの前半は特にボール奪取のところで輝きを見せ、さらに攻撃でも魅せていた。彼の状態が上がってくれば、満田や川村をシャドーにという判断も出てくる。そうなると、1トップ2シャドーはさらに激戦区となるだろう。

 中盤には、トレーニングでいいパフォーマンスを続けている松本泰志や、怪我での離脱は残念だがパワフルな松本大弥がいる。シャドーだったらドリブルで違いを見せられるエゼキエウや小原基樹がいる。さらに広島ユースの井上愛簾や、昨年にプロ契約を果たしている中島洋太朗の評価も高い。

 今は現状の11人。しかし、その組み合わせは大きな変化の可能性も、ある。

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