J開幕で見えたパリ五輪世代の“今” 最終予選まで1か月…大岩監督にとって「最大の誤算」とは?【コラム】
鹿島の松村は2試合連続でベンチ外
ついに開幕した2024年Jリーグ。2月23~25日に行われたJ1開幕節では、昨季王者ヴィッセル神戸、同2位の横浜F・マリノス、同3位サンフレッチェ広島、天皇杯王者の川崎フロンターレら2023年の上位陣が揃って白星発進し、ランコ・ポポヴィッチ監督体制で常勝軍団復活を目指す鹿島アントラーズも好スタートを見せた。前評判の高かった浦和レッズが初戦黒星というのは想定外かもしれないが、そこまで番狂わせのない第1節だったのではないか。
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こうした中、開幕節では今回のパリ五輪を目指すU-23世代の国内組には“異変”があった。新天地に赴いた荒木遼太郎(FC東京)や山田楓喜(東京ヴェルディ)らがいきなりブレイクする傍らで、これまで代表常連組だった松村優太(鹿島アントラーズ)がまさかのベンチ外。1~2月のアジアカップ(カタール)に参戦した野澤大志ブランドン(FC東京)がベンチに甘んじ、西尾隆矢(セレッソ大阪)、鈴木海音(ジュビロ磐田)らセンターバック(CB)陣も揃って控え。悲喜こもごもの状況が生まれた。
まずFW陣を見ると、アジアカップメンバーの細谷真大(柏レイソル)がスタメン出場。自身が誘発した相手ファウルからPKを得たものの、これを失敗。チームを勝利に導けず、本人も悔しさをにじませた。アジアカップの後、オフを挟んでチームに合流したものの、まだ調子が上がり切っていない印象もある。大岩剛監督から絶対的エースと位置づけられる選手だけに、早く今季初ゴールを奪い、感覚を取り戻してほしいところだ。
植中朝日(横浜F・マリノス)は開幕節で後半からの出場。分厚い選手層の中にあって自身の出番を確保するのに苦しんでいる印象だ。FW陣の手薄感というのは、日本全体の問題。パリ世代のブレイクが待たれるところだが、短期的には厳しいかもしれない。
2列目に目を向けると、大岩監督にとっての最大の誤算は松村の2試合連続ベンチ外ではないか。鋭いドリブルと打開力を武器とする彼は昨年9月のAFC・U-23アジアカップ予選(バーレーン)にも参戦。コアメンバーの1人と位置付けられていた。それを本人も自覚し、今季は鹿島に残って勝負をかけるつもりでいた。が、新指揮官のポポヴィッチ監督の下ではなかなか序列を上げられずに苦しんでいる様子だ。
そんな松村とは対照的に、同じ右サイドを主戦場とする山田が強烈なインパクトを残している。京都サンガF.C.から東京Vに赴いた彼は城福浩監督の下で水を得た魚のように躍動。開幕の横浜戦では直接フリーキック(FK)を蹴り込み、それ以外にもビッグチャンスに絡んだ。同じく京都から新天地を見出した木村勇大、鹿島からレンタル移籍中の染野唯月といった同世代の面々とコンビを組むことで、より自分らしさを発揮できているのかもしれない。
彼と同じく新たな環境でいきなり結果を出したのが荒木。過去2シーズン、鹿島で出番を得られず苦しんだ男は自身が望むトップ下のポジションを与えられ、よりゴールに近いところでプレーできるようになり、開幕のセレッソ戦で2点を叩き出すことに成功した。
「トップ下があるチームでやれば結果を出せる」と開幕前から自信をみなぎらせていた荒木の復活はパリ世代にとって朗報だ。ただ、彼はU-23アジアカップ予選に出ておらず、コアメンバーという位置づけではないだけに、大岩監督の扱いが気になるところだ。
実際、U-23日本代表の攻撃陣は、鈴木唯人(ブロンビーIF)や三戸舜介、斉藤光毅(ともにスパルタ・ロッテルダム)、小田裕太郎(ハーツ)ら欧州組がメイン。とはいえ、4月の五輪最終予選を兼ねたAFC・U-23アジアカップ(カタール)はAマッチデーという扱いではないため、所属先が代表派遣に難色を示していると言われる。現時点では鈴木、小田は難しく、三戸と斉藤も微妙な情勢という。
となれば、国内組により目を向けるしかない。開幕節に先発した平河悠(町田)やボランチ兼任の松木玖生(FC東京)らを有効活用しつつ、新たな戦力の掘り起こしも進めておくべき。重見柾斗(アビスパ福岡)らもチャンスだろうが、荒木も滑り込みの可能性が出てきたと言えそうだ。
ボランチに関しては、松木と川﨑颯太(京都サンガF.C.)が所属先で盤石の地位を確立。田中聡(湘南ベルマーレ)も調子を上げている。海外組の藤田譲瑠チマと山本理仁(ともにシント=トロイデン)を最終予選に招集できそうで、戦力的に計算できる。
GKやCBは手薄感が漂い最終予選でも不安材料
だが、守備陣の方は不安が拭えないのが実情だ。開幕節を見ると、まずCBは西尾隆矢(セレッソ大阪)、鈴木、木村誠二(FC東京)が軒並み出番なしで、山崎大地(広島)が終盤出場しただけ。高井幸大(川崎フロンターレ)はターンオーバーで出番をつかみ、最近代表に呼ばれていない馬場晴也(北海道コンサドーレ札幌)も3バックの一角でスタメン出場している。ただ、ミハイロ・ペトロヴィッチ監督の3バックと大岩監督の4バックは異なるスタイルのため、すぐに馬場を抜擢すればいいという話でもないだろう。
西尾は第2節で先発復帰したが、CBに関してもともと手薄感が否めない状況で、本番ではオーバーエージの板倉滉(ボルシアMG)や冨安健洋(アーセナル)招集が有力視されているが、予選を突破しなければ何も始まらない。ここは本当に不安視されるポイントというしかない。
逆に右サイドバック(SB)に関しては、本命の半田陸(ガンバ大阪)に加えて、大卒ルーキーの濃野公人(鹿島)や関根大輝(柏)らが頭角を現しており、海外組の内野貴史(デュッセルドルフ)含めて競争が激化していると言っていい。特に濃野は攻守両面でキラリと光るプレーを見せており、その成長ぶりは目を見張るものがある。大岩監督の古巣・鹿島の選手ということでよりインパクトが大きいはず。直近の3月シリーズ、最終予選の抜擢があるのかどうかは見ものだ。
左サイドバック(SB)の方は第一人者のバングーナガンデ佳史扶(FC東京)がスタメン出場。それは朗報だが、大畑歩夢(浦和)や畑大雅(湘南)がスタメン落ちし、中野伸哉(G大阪)に至ってはベンチ外とやや層の薄さが懸念される。
それはGKも同様。野澤大志ブランドンがベンチ、佐々木雅士(柏)もベンチ外で、試合に出ているのはJ2ジェフユナイテッド千葉の藤田和輝くらい。海外組の小久保玲央ブライアン(ベンフィカ)も出番を得られていないし、鈴木彩艶(シント=トロイデン)もクラブ側が最終予選参戦に難色を示していると言われる。となれば、今のところ使えるのは藤田1人ということになってしまう。大岩監督も頭の痛い状況ではないか。
いずれにせよ、パリ世代の国内組が活躍しないとJリーグが盛り上がらないし、パリ五輪予選突破も微妙になる。今、上り調子の山田や荒木のような選手が次々と出てきて、ハイレベルな競争を繰り広げるようになれば理想的。ここから3月の代表ウイークまで一気に存在感を高める人材が数多く出てきてくれることを強く求めたい。
元川悦子
もとかわ・えつこ/1967年、長野県松本市生まれ。千葉大学法経学部卒業後、業界紙、夕刊紙記者を経て、94年からフリーに転身。サッカーの取材を始める。日本代表は97年から本格的に追い始め、練習は非公開でも通って選手のコメントを取り、アウェー戦もほぼ現地取材。ワールドカップは94年アメリカ大会から8回連続で現地へ赴いた。近年はほかのスポーツや経済界などで活躍する人物のドキュメンタリー取材も手掛ける。著書に「僕らがサッカーボーイズだった頃1~4」(カンゼン)など。