J1全20クラブ「戦力値ランキング」 浦和が補強Aランク…上位争い候補の“トップ6”は?【コラム】

上位陣の戦力値を査定【写真:徳原隆元】
上位陣の戦力値を査定【写真:徳原隆元】

「攻撃力」「守備力」「組織力」の3項目から全20クラブの戦力値を査定

 J1リーグ全20クラブの戦力値を査定すべく「攻撃力」「守備力」「組織力」の3項目(各100点満点)から、戦力値ランクとして紹介する。「攻撃力」は多くの人がイメージされるとおり、チャンスメイクからゴール前の決定力、アタッカーのタレント力など、得点数に関わる要素を総合評価したもの。「守備力」はボール奪取から自陣守備の安定度、GKなど失点数に大きく関わる要素から総合評価した。

「組織力」はチームワーク、カップ戦とのレギュレーションに耐えられる選手層、キャプテンの経験値、監督など、純粋な「攻撃力」と「守備力」以外の勝負に関わる要素を筆者の視点でまとめて評価した形だ。今回は「上位編」として、合計値が上位6位までのクラブについて、補強ランクも合わせて語りたい。

 合計270で1位になったのは浦和レッズだ。4位に終わった昨シーズンはAFCチャンピオンズリーグ(ACL)やクラブ・ワールドカップにも参加し、前例のない超過密日程を強いられた。得点数は42で、攻撃力で最高得点の横浜F・マリノスを21得点も下回った。

 攻撃的なスタイルを打ち出すペア・マティアス・ヘグモ新監督の下で臨む今シーズンに向けて、一昨年J1得点王のチアゴ・サンタナ(←清水エスパルス)、ノルウェー代表FWオラ・ソルバッケン(←ASローマ)などを加えた。昨年をはるかに上回る戦力で、大幅な得点アップを目指す。補強ランクをAにしたように、昨シーズンの主力を留めたうえで、そのスタメンにも代わり得るタレントをアタッカー中心に補強できたのは好材料だ。

 その一方で、最小失点だったディフェンスに関してはJ1ベスト11に輝いたセンターバックのアレクサンダー・ショルツとマリウス・ホイブラーテン、西川周作が健在で、右サイドバックの酒井宏樹もよりゆったりした日程で、100%のパワーを発揮できる試合は増えそうだ。ただ、全体的にハイラインで、攻撃的になる分、相手に背後を狙われるようなシーンは増えてくるはず。4-3-3の“ヘソ”とも言えるアンカーを担うスウェーデン代表MFサミュエル・グスタフソン(←ヘッケン)は攻守のバランスを取りながら、攻撃に迫力を出していくためのキーマンだ。

 浦和にとって“内なる敵”になり得るのが、開幕前から2006年シーズン以来のリーグ優勝を宿命付けられる重圧、そして1週間に1試合という日程が続くなかで、試合に出られない選手たちのマネジメントだ。その意味で、昨年は中盤の主力だった岩尾憲、またFC岐阜から3年ぶりに復帰した宇賀神友弥などがサブの立場でも、常に前向きに、チームのために振る舞える選手たちの存在はとてつもなく大きい。ノルウェーの名将として知られるヘグモ監督の手腕にも注目だが、サポーターの後押しも含めて“チーム浦和”が問われるシーズンになる。

王者・神戸は「組織力」で最高評価も…心許ない点は?

 総合2位の神戸は「攻撃力」と「守備力」は浦和を下回ったが、前回王者ということで「組織力」は最高評価にした。昨年60得点だった「攻撃力」をやや抑えめにしたのは、大迫勇也が封じられた時の戦術的なオプションが心許ない点、また攻撃的なポジションに限ってはやや選手層が薄いことだ。もっと外国人枠はまだ余裕があり、夏の移籍市場に向けては強化部が補強に動いている可能性も高そうだ。

 戦力面を見ると十分にリーグ連覇を狙える陣容だが、その目標を達成することがいかに困難かはJリーグの歴史が証明している。秋には新フォーマットになるACLがあり、昨年以上の過密日程が予想されるなかで、井手口陽介(←セルティック)や宮代大聖(←川崎フロンターレ)など即戦力を数多く補強。選手層は着実に厚くなったが、実際にチームを運用していくのは簡単ではない。

 なにより昨シーズンとの立場の違いは大きい。経験豊富な酒井高徳などは王者ではなく、あくまでチャレンジャーとしてタイトルを掴みに行く姿勢を強調していたが、周りはそう見てくれない。それはプレシーズンの富士フイルムスーパーカップで、相手の川崎がしっかりと神戸対策をしてきたことでも明らかだ。結果的に最初のタイトルを逃すこととなったが、神戸にとっては高額だが貴重な“授業料”となった。昨年以上に、相手が対策してくることを前提に、どう戦っていくかは未知数だが、もし乗り越えることができたら過去数年の川崎や横浜FMのように、常に優勝を争える地盤になっていくはずだ。

 3位のサンフレッチェ広島はとにかく攻守のバランスがよく、ミヒャエル・スキッベ監督が3年目を迎えることもあり、チームとしてもよくまとまっている。補強ランクはCとしたが、流出を最小限にとどめて、そこに昨シーズン13得点の大橋祐紀を湘南ベルマーレから獲得したということで、戦力面では昨年よりアップしている。「組織力」を90に評価したのはチームの成熟度とスキッベ監督の手腕によるものだが、優勝となると浦和や神戸を超えていくような何かプラスアルファが欲しい。また今季から新スタジアムを使用するという点では、慣れるまではあまりホームアドバンテージがないことも、多少勝ち点に影響するかもしれない。

 4位タイの横浜FM、川崎フロンターレに関しては一昨年まで6シーズンに渡り、リーグ優勝を2分してきた両雄であり、流れ次第で浦和、神戸、広島を上回るポテンシャルは十分に秘めていることを踏まえての評価だ。横浜FMは昨シーズン得点王のアンデルソン・ロペスをはじめエウベル、ヤン・マテウスというJリーグ最強3トップが健在であるため「攻撃力」をトップの95にしたのは妥当だろう。ただ、ハリー・キューウェル新監督が4-3-3をベースにした新たなスタイルを植え付けている最中であり、完成度が上がってくるまでに少し時間がかかりそうな気配はある。

 川崎は鬼木達監督が就任8年目を迎える。山根視来がMLSのロサンゼルス・ギャラクシー、登里享平がセレッソ大阪に移籍するなど、重要な役割を担ってきた主力選手が複数去ったが、ブラジルの名門サンパウロから加入のFWエリソン、日本代表にも招集されたDF三浦颯太(←ヴァンフォーレ甲府)、ゲームメイク力に優れるMF山本悠樹(←ガンバ大阪)など、純粋な戦力としては昨年を一回り、二回り上回る。それはアウェーのACLラウンド16の山東泰山とのアウェーゲームから中3日で行われた富士フイルムスーパーカップの勝利でも証明された。そこから中2日で行われたACLラウンド16第2戦は悔しい結果に終わり、惜しくも8強進出に届かなかったが……。

 経験豊富なDF丸山祐市(←名古屋グランパス)の獲得は心身両面で大きい。その一方で大卒2年目の山田新など、伸びしろのあるタレントが多いことも、長いシーズンの戦いを見据えてポジティブな要素だ。ただ、ACLはベスト16で敗退したと言っても、ACLエリートが入ってくる後半戦以降、かなり過密日程になることは間違いない。すべてのタイトルを狙うと言うのは簡単だが、タイトルの優先順位を見極めるタイミングというのはどこかで来るだろう。

「攻撃力」「守備力」「組織力」が高水準のC大阪は上位争い十分のポテンシャル

 6番手に評価したC大阪に関しては「攻撃力」「守備力」「組織力」が高水準で、上位争いできるポテンシャルがあるのは間違いない。補強もBランクにはしたが、見方によってはAランクでも違和感はないだろう。北海道コンサドーレ札幌から獲得した田中駿汰を中盤の軸に、香川真司や清武弘嗣をインサイドハーフに配置する4-3-3は魅力的だが、これまで良い守備から良い攻撃にという戦いで上位に来ていた小菊昭雄監督のプランを考えると、この戦力アップが良くも悪くも、リスクのある方向にアクセルを踏んでいく転機になる気配がある。

 ボールを握って相手を圧倒する戦い方を目指すには、ディフェンスラインなどもう少し守備強度が必要と考える。また、一時的にうまくハマることはあっても、相手の対策に向き合うなかで、分析力に長けた指揮官も、難しい舵取りを強いられることになるだろう。3シーズン連続二桁得点のエースFWレオ・セアラが健在で、新外国人FWヴィトール・ブエノや札幌から加入のMFルーカス・フェルナンデスが期待どおりに稼働すれば、昨年の39得点から大幅アップも見込める。ただし、失点も34から増えるリスクもある。そうしたことを踏まえても、C大阪の新たなチャレンジには注目だ。

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河治良幸

かわじ・よしゆき/東京都出身。「エル・ゴラッソ」創刊に携わり、日本代表を担当。著書は「サッカーの見方が180度変わる データ進化論」(ソル・メディア)など。NHK「ミラクルボディー」の「スペイン代表 世界最強の“天才脳”」を監修。タグマのウェブマガジン「サッカーの羅針盤」を運営。国内外で取材を続けながら、プレー分析を軸にサッカーの潮流を見守る。

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