森保Jの課題…ロングボール対策にDF植田直通を呼べ 鹿島のリーダーが狙う代表復帰【コラム】

鹿島でプレーする植田直通【写真:徳原隆元】
鹿島でプレーする植田直通【写真:徳原隆元】

守備だけでなく攻撃で進化を遂げる植田

 2022年8月から1年半指揮を執った岩政大樹監督が昨季限りで退任し、今季からランコ・ポポヴィッチ監督率いる新体制へと移行した鹿島アントラーズ。彼らは2月23日の敵地・名古屋グランパス戦から2024年シーズンをスタートさせることになる。

 しかしながら、目下、柴崎岳と鈴木優磨という中盤、FW陣のリーダーが揃って負傷離脱中。開幕に間に合わない可能性が高い。こうした中、10日のいばらきサッカーフェスティバルでキャプテンマークを巻いたのが、守備の大黒柱・植田直通。昌子源が町田ゼルビアに移籍し、関川郁真もケガで別メニューになっている今、彼は紛れもなくチームの重要な統率役の1人と言えるのだ。

 今季の鹿島最終ラインは右サイドバック(SB)に大卒新人の濃野公人、相棒のセンターバック(CB)にプロ2年目の19歳・津久井佳祐と経験の少ないメンバーも加わっている。だからこそ、経験豊富な男がしっかりと周囲をリードし、安定した守備組織を構築すべきなのである。

「今はCBが3人しかいないので、全員にチャンスがある。津久井もあの歳であれだけプレーできるのはいいことですけど、改良すべき点もある。これから自分が伝えていきたいですね。3人で刺激し合って成長していければいいと思います」と植田は目を輝かせた。

 ポポヴィッチ監督は1月のチーム始動間もない時期から主力とサブを分けてトレーニングを実施。密度の濃い練習ができていることもあり、主力組の連係面や戦術理解度は確実に高まっている。

 それは水戸戦の前半を見ても明らかだ。植田自身も「前へ前へ」という要求を受け、長いパスを最前線のアレクサンダル・チャヴリッチや土居聖真に展開。攻撃意識を鮮明にしていた。

「CBから攻撃が始まることが多くて、自分たちが繋がらないと前の選手たちが繋がってこられないので、そこは自分たちのクオリティーは求められるかな、と。水戸戦では日頃の精度が出たのかなと思います。ただ、後半になって精度が落ちてしまった。今まで練習を分けていた分、固定されたメンバー以外が出ると難しい部分もありますけど、試合になれば18人全員で戦うことが大事になる。交代したからといって落ちるのはチームとしてよくない。もっと僕らが後から入ってきたメンバーを助ける必要があると思うし、それは試合翌日にも監督と話しました」と植田はチーム全体を俯瞰しながら、必要な声掛けやサポートを行っていく構えだ。

 そういった姿勢は、人見知りで先輩についていくので必死だった若かりし頃とは全く違う。植田も今年で30歳。鹿島からセルクル・ブルージュ、ニームと異国を渡り歩き、2018年ロシア・ワールドカップ(W杯)にも参戦するなど、数々の高度な経験を重ねたことで、自身のマインドや行動も変化してきたという。

「やっぱり自分がやらなきゃいけないことも増えるし、このチームに与えていかなきゃいけないものも多くなってきていると思います。自分がタイトルという形で恩返ししたいという気持ちもあるし、取らせなきゃいけないという気持ちも年々、高まっている。これだけ長い間、優勝できていないのは本当に申し訳ない。ファン・サポーターたちとともに喜びたいので、今年は必ず取りたいなと思います」と彼は改めて常勝軍団の復活に全力を注ぐ覚悟を口にした。

 その先に見据えるのはもちろん代表復帰だ。森保ジャパン発足当初は常連だった植田も2022年3月シリーズ以来、お呼びがかからなくなってしまっている。自分より若い板倉滉(ボルシアMG)、冨安健洋(アーセナル)らが欧州で活躍したことで、結果的に押し出された格好だ。

日本代表の課題が明確に…植田は鹿島で着実にステップを踏む

 とはいえ、日本代表は先のアジアカップ(カタール)で空中戦とロングボール対応の脆さというウイークポイントを露呈。「確実に跳ね返せるCBの重要性」が再認識されたと言っていい。その役割を担うのは目下、渡辺剛(ヘント)だと見られているが、彼もインドネシア戦の後半にわずかな時間ピッチに立っただけ。代表実績は皆無に近い。

「ならば、もっと確実に競り勝てる植田の方がいいのではないか」といった声が高まってきても不思議ではない。そうなるように、彼は鹿島で全力を尽くし、チームを勝たせ、日の当たる舞台を再び目指していくつもりだ。

「(1-2で負けた)イラン戦を見ましたけど、(蹴り込む形が)アジアでは(日本に対して)一番有効だということになっていると思う。それでいけるなら一番簡単だし、それに越したことはない。だからこそ、相手は使ってきているんだと思います。日本サッカーもそれに対処できるように発展していかないといけないと感じます。今の日本では空中戦に突出して強い選手が出にくくなっていると思いますけど、それも忘れちゃいけない部分。そういう基礎があるからこそ、また上に行けるので。競り合いの一つもやっぱり大事かなと感じさせられましたし、自分も力になれればなという気持ちにはなりました」

 ロシアW杯のベルギー戦でも、マルアン・フェライニら高さのある面々を送り込まれ、高いボールで勝負を挑まれた日本。その際にも「植田を使うべき」という声が少なくなかったが、彼は最後まで西野朗監督に呼ばれることなく、世界舞台を去ることになった。その悔しさは今もなお脳裏に焼き付いて離れない。今回の日本代表の戦いを見て、植田は5年半前の悔しさを思い出したはずだ。

 大津高校の先輩・谷口彰悟(アル・ラーヤン)が30代でメンバー入りしているのだから、彼が諦める必要は全くない。今後のアジア予選を貪欲に狙っていけばいいのだ。そのためにも、まずは鹿島で結果を出すこと。本人もそこに全身全霊を注ぐという。

「ポポさんのサッカーをやっている中で、このサッカーなら自分自身、成長できると思うし、自分が課題としている攻撃の部分もかなり良くなるという手応えがあります。それプラス、自分の強さでもある競り合いなんかも伸ばしていければ、上のステージ行けるチャンスも増えてくる。今は鹿島で精一杯やろうと思います」

 植田自身が前向きに言うように、水戸戦ではビルドアップや前線へのタテパス、展開といったところでも光るものを感じさせた。この調子でコンスタントに活躍し続ければ、鹿島の常勝軍団復活、そして彼自身の再ブレイクも決して不可能ではない。

 目の色を変えて高みを追い求める背番号55の一挙手一投足から今年は目が離せない。

(元川悦子 / Etsuko Motokawa)



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元川悦子

もとかわ・えつこ/1967年、長野県松本市生まれ。千葉大学法経学部卒業後、業界紙、夕刊紙記者を経て、94年からフリーに転身。サッカーの取材を始める。日本代表は97年から本格的に追い始め、練習は非公開でも通って選手のコメントを取り、アウェー戦もほぼ現地取材。ワールドカップは94年アメリカ大会から8回連続で現地へ赴いた。近年はほかのスポーツや経済界などで活躍する人物のドキュメンタリー取材も手掛ける。著書に「僕らがサッカーボーイズだった頃1~4」(カンゼン)など。

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