リーグ最小163cm…ドイツで躍動の日本人MFが成長実感 同僚に要求「俺が出たらボールくれ」【現地発】

マクデブルクの伊藤達哉【写真:Getty Images】
マクデブルクの伊藤達哉【写真:Getty Images】

ドイツ2部マクデブルクの26歳MF伊藤達哉、海外で研鑽を積むなかで感じた変化

 ブンデスリーガ2部でプレーしている日本人選手はなかなか日本メディアで取り上げられない。世間的に知られていたり、昇格争いに絡んでいるクラブでないと、注目も集まりにくいのかもしれない。

 とはいえブンデスリーガ2部でプレーし、チームで居場所を見つけ、活躍をするというのは、そんなに簡単なことではないはずだ。

「2部の難しさというのはあまり分かられていないかもしれないですけど、本当にすごくありますよね」

 そう語っていたのは、ドイツ2部マクデブルクでプレーする26歳MF伊藤達哉だ。柏レイソルの育成アカデミーから当時ブンデスリーガのハンブルガーSVへ移籍し、1部リーグでもプレーしていた伊藤は、ベルギーリーグのシント=トロイデンを経て、ブンデスリーガ3部、そして2部と渡り歩いている。

 2部や3部リーグではロングボールの行き来が多くなり、そのために背の高い選手やがっしりとした体躯の選手が前線でも起用されがちだ。そんななかで、そこまで大柄ではない、スピードや機敏さで勝負する選手がプレー機会を勝ち取るのはやはり簡単なことではない。さらに伊藤の身長は163センチとリーグでも最小だ。

「そうですね。プレースタイルそのもので1部と2部の違いというのがある。あと、そもそものところですけど、めちゃめちゃ芝も悪いんですよ。それは1部とは比にならないほどに悪いです。そういうところで、タフさというのは鍛えられているなと感じています」

 伊藤のプレーを初めてスタジアムで見たのは、ハンブルガーSV時代の2018年だった。クリスティアン・ティッツ監督(現マクデブルク監督)から高評価を受けてトップチームで抜擢された伊藤は、小気味いいドリブルで、低迷していたチームに確かな希望をもたらしていた。

 あれから5年。当時の自分と比べて、どのようなところに変化や成長を感じているのだろう。

「フィジカルのところが多分一番大きいかな。当時もスピードではある程度通用していたと思いますけど、やっぱりボディーコンタクトのところは難しかった。今、2部リーグでもボディーコンタクトのところは結構激しいし、潰しにくるのも早いんですけど、そうしたところでの対処とかで見たら、トータル的には成長しているなと実感してます」

「ゴールかアシストにつながるようなプレーを」のメンタリティー

 取材に訪れたドイツ2部リーグ第20節ホルシュタイン・キール戦(1-1)では、伊藤の自由を奪おうとプレスに来る相手を高確率でいなし、一瞬のギアチェンジでトップスピードに入り、相手を置き去りにするシーンがいくつもあった。

「この間、ブラウンシュバイク戦(1-0)で30分くらい出たんですけど、ボールに触れてなくて。だから今日はもうチームメイトにダイレクトに言っておいたんです。前から一緒にやってる選手は僕を見てくれるけど、やっぱり新加入の選手はまだそういうところで分かってもらえてないので。『俺が出たら、もう俺のサイドにボールを出してくれ』って言っておいたので、今日は結構ボールを触れました。結果にもつながったし」

 自分の武器を生かすためには仲間からの理解とサポートが誰にでも必要だ。長く欧州でプレーをするなかで身に付けたコミュニケーション能力。そして口で言った以上、プレーで示すことの責任も理解している。口だけではダメなのはどの世界でも一緒だ。

「前半戦、自分としては数字以外のところは結構満足しているんです。ただ途中からの出場で求められてるものってなるとゴールかアシストという数字になります。後半戦が始まってからもう一度改めて、去年と同じメンタリティーを取り戻そうとしています。正直ミスしても、シュートを外しても、プレー内容が少し悪くなっても、ゴールかアシストにつながるようなプレーをしようと。それがあって今、後半戦が始まってからはいい流れになってるかなと」

 ハンブルガーSV時代からの恩師ティッツ監督が当時、「タツは1対1の局面で普通ではないクオリティーを持っている。いつも『ペナルティーエリア内へ切り込んでいけ』と言っている」と話してくれたことがある。2年連続2部残留に向けて、伊藤の巻き起こす旋風でチームを活性化させ続けてほしい。

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中野吉之伴

なかの・きちのすけ/1977年生まれ。ドイツ・フライブルク在住のサッカー育成指導者。グラスルーツの育成エキスパートになるべく渡独し、ドイツサッカー協会公認A級ライセンス(UEFA-Aレベル)所得。SCフライブルクU-15で研修を積み、地域に密着したドイツのさまざまなサッカークラブで20年以上の育成・指導者キャリアを持つ。育成・指導者関連の記事を多数執筆するほか、ブンデスリーガをはじめ周辺諸国への現地取材を精力的に行っている。著書『ドイツの子どもは審判なしでサッカーをする』(ナツメ社)、『世界王者ドイツ年代別トレーニングの教科書』(カンゼン)。

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