J1挑戦・町田の命運を握る昌子源「フランスとは状況が違う」 指揮官に期待される役割とは【コラム】
【カメラマンの目】DF陣を統率…新加入・昌子が求められるリーダーシップと成長
「距離は1.5メートルを保ち、相手に脅威を与えること!」
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FWの選手をマークする練習で、DF陣に向けてコーチからそう声が飛ぶ。緊張感と高揚感が練習グラウンドに張り詰めるなか、実戦的な場面を想定した意図ある練習が、次々と行われていく。
「町田の考え方は1本中の1本!」
ワンプレーに全力を傾ける意味を示すこの言葉は、高校サッカーの強豪・青森山田のコンセプトでもある。そして、そのコーチ陣を通して発せられた言葉は黒田剛監督の思いだ。
「絶対に決め切る!」
さらにコーチ陣からは選手たちのモチベーションを鼓舞する言葉があふれれ出ていく。見ているだけでスタッフたちのチームに注ぐ情熱が伝わり、その思いを選手たちも汲み取り全力で練習に取り組んでいる。練習は熱気を孕み圧倒的にアグレッシブで、そして楽しそう。これがFC町田ゼルビアの宮崎キャンプでの印象だ。
もともと守備練習に重きを置いてきた町田だが、J1昇格によるさらなるレベルへの挑戦は、より強固な守備網の構築へとチームを向かわせている。そのなかでリーダーとなるのが、鹿島アントラーズから完全移籍で加入した昌子源だ。
サッカー選手にとって、チームを移籍するということは大きな転機になる。昌子で言うならフランスのトゥールーズとこの町田ではないだろうか。それぞれ移籍したときの思いを聞いた。
「ヨーロッパに移籍するときと、同じ国内でもJ1で初挑戦のチームに行くというのは、僕に求められることもそれぞれ異なるので感情的にも違います。フランスはどちらかというと挑戦という感じでしたが、もちろん町田でも挑戦ですが、町田はオファーをいただいた時からリーダーとして引っ張っていってほしいと言われているので(フランスとは)状況が違いますね。(チーム内で)あくまでもキャリア的に言えば、僕が一番に積んできているので、周りもリスペクトしてくれます。ただ、それに甘えるのではなく、そういう環境で自分がチームをどこまで引っ張っていけるのか、それがすごく楽しみです」
黒田監督とのやり取りや町田での生活について迫る
黒田監督からはもっと追い込めと言う言葉をかけられたことについては、「そういう強度でやらないと、ここから先は戦っていけない。監督は老体にムチを打ってと言うが(笑)、まだまだできるところを示さないと。若い選手もいるので、そう感じています」
──町田は守備がベースのチームで、その強度をさらに高める練習が多いようですが、DFの昌子さんとしては練習が楽しいですか? それとも辛いですか?
「いやいや、辛くはないですよ(笑)。やはり僕も練習とはいえ成長したいので、淡々とこなすつもりはありません。成長したくてここにきているので、そこは全力で取り込んでいます」
──その練習も意図あるものが多いですね。
「それも選手として成長できる一歩だと思いますし、これまでいろいろな監督の指導を経験してきましたが、黒田さんには黒田さんの色があって、毎日を非常に楽しんでいます」
──キャンプを通して上手くいっているところを教えてください。
「監督のやりたいサッカーを理解するという部分では、すごく上手くいっている。かなりハイペースで理解しています。それをピッチで体現する部分も含めてできているんじゃないかな。だからポジィティブな要素が多いです」
黒田監督は本来なら徐々に上げていくところを、スタートの早い段階から高い強度を求めているようで、そこがチームスタイルとしてよく出ていると言う。昌子の言葉通りで、その練習は特に対人の部分では、FWにプレーをさせない激しさを追求している。しかし、相手をファウルで止めるのではなく、「相手には怪我をさせないと」とコーチが選手たちに向かって言っていたように、激しさのなかにもクリーンにボールを奪おうとしている。
町田にとって初舞台となるJ1の開幕に向けて必要なことを昌子は「いまこの時期に出る良いこと、悪いことの両方をポジティブに捉えて良いところは伸ばす、悪いところは修正するというのがこの時期では大事。それをグラウンドのなかで監督の言葉を待つのではなく、自分たちで修正していけるようにする。そして、監督の意見と融合させていく必要があり、そういう準備はキャンプでしかできないので、そこは突き詰めていきたい」と答える。
最後にJ1の舞台への挑戦の意気込みを聞いた。
「チームはJ1初挑戦で選手も(初挑戦)が多いので、そこをしっかりと支えていけるように自分自身も全試合に出るつもりで、しっかりやっていきたいと思っています」
町田には特出したスター選手はいない。しかし、選手たちは良く鍛え上げられている。意図ある練習における激しさや集中力は、驚くほど高い。守備では局面で負けない、そして攻撃でもひとつのチャンスをものにしようとする勝利に向けての一体感は、町田をJ1でも躍進させると思わせるだけの十分な理由になると感じた。
もしかして昨年J2を席捲したように、J1でも上位に食い込む躍進を遂げるかもしれない。そう思わせるほど練習の内容は濃く、作り出されていた雰囲気には活気があった。
(徳原隆元 / Takamoto Tokuhara)
徳原隆元
とくはら・たかもと/1970年東京生まれ。22歳の時からブラジルサッカーを取材。現在も日本国内、海外で“サッカーのある場面”を撮影している。好きな選手はミッシェル・プラティニとパウロ・ロベルト・ファルカン。1980年代の単純にサッカーの上手い選手が当たり前のようにピッチで輝けた時代のサッカーが今も好き。日本スポーツプレス協会、国際スポーツプレス協会会員。