クロップとリバプール9年間の旅路 中堅化脱却、解任の覚悟…葛藤の末に辿り着いた“終着点”【コラム】

今季限りでの退任を発表したユルゲン・クロップ監督【写真:Getty Images】
今季限りでの退任を発表したユルゲン・クロップ監督【写真:Getty Images】

来季のスケジュール調整で突如頭を過った退任

 イングランド1部リバプールは現地時間1月26日、ユルゲン・クロップ監督が今季限りで退任することを発表した。2015年に就任して以降、14年ぶりのUEFAチャンピオンズリーグ(CL)優勝、30年ぶりのプレミアリーグを筆頭に、合計6つの主要タイトルを獲得。リバプールとともに歩んだ9年間の旅路で、誰しもに愛される英雄となった。そんな熱き名将が葛藤の末に辿り着いた“終着点”とは――。

 サッカー界に激震が走った。リバプールは昨年に2026年まで契約延長し、今季は戦力を大幅に刷新し、チームの若返りに成功。群雄割拠のプレミアで首位を走っている。何もかもが順調に見えたなかで告げられたクロップ監督の退任だった。

 リバプールは退任に向けたクロップ監督のインタビューを公開。「このクラブの全てを愛している。この街の全てが、サポーターの全員のことが大好きだ。もちろん、チームもスタッフもね。全てを愛している」と強調したうえで、「だが、決断しなければならない瞬間がある。なんと表現すればよいか…エネルギーがなくなってきてしまったんだ」と心情を吐露している。

 クラブに退任の意向を告げたのは昨年11月だった。シーズンの開幕直後でも、クラブは来夏に向けたキャンプ地の決定などについて早期に動く必要があるようで、打ち合わせの場を設けた際に「自分がここに残るかどうか、分からない」という考えが頭を過ったという。「そんな自分に、私自身が驚いた。でも、そうなってしまっては退任について真剣に考え始めるしかなかった」と、当時の葛藤を明かした。

 クロップ監督とリバプールは昨季、厳しい戦いを強いられた。開幕から調子が上がらず、リーグ戦で早々に優勝争いから脱落。CLでも早期敗退を余儀なくされた。「おそらく、ほかのクラブであれば『今までありがとう』と宣告されていたに違いない瞬間があった」と解任を覚悟した時期もあったようだ。それでも終盤は尻上がりに白星を積み重ね、なんとか5位まで持ち込んだ。「チームを軌道に戻すことがとにかく重要で、私にとってそれがすべてだった。そして、本当に良くなったチームを目の前にした今、もう一度自分自身と向き合った」と、チームの復調で“役目を果たした”と感じた部分が大きいようだった。

 退任発表後に開かれた記者会見でも、クロップ監督は「私は24年間ずっと監督業を続けている。自分の持っている全てを捧げてきた。そして、自分のリソースが無限ではないことに気が付いたんだ」と語り、今後退任を撤回する可能性について質問された際は、「まずありえない」と断言したが、「来年は、どこのクラブも、どこの代表の仕事も受けない。プレミアクラブに関しては、一生ない。例え生活がひっ迫しても、それだけは起きない」と、リバプールへの忠誠心を示していた。

2015年にリバプールの監督に就任【写真:ロイター】
2015年にリバプールの監督に就任【写真:ロイター】

“中堅チーム”の冷笑から世界最高峰のクラブに

 振り返れば、クロップ監督が就任した当時のリバプールは、散々たる状況だった。チームは上位争いに参戦できず、6位から9位を彷徨っており、国内メディアからは“中堅”扱いまでされていた。しかし、それも無理はない。クロップ政権の初陣のスタメンは、以下の通りだった。

GK:シモン・ミニョレ
右SB(サイドバック):ナサニエル・クライン
CB(センターバック):マルティン・シュクルテル
CB:ママドゥ・サコ
左SB:アルベルト・モレーノ
DMF:ルーカス・レイヴァ
DMF:エムレ・ジャン
OMF:フィリペ・コウチーニョ
右WG(ウイング):ジェームズ・ミルナー
左WG:アダム・ララーナ
CF(センターフォワード):ディボック・オリギ

 お世辞にも優勝争いのできるビッグクラブのメンバーとは言えないチーム状況のなかで、クロップの挑戦は始まった。そこから徹底的な“ゲーゲン・プレス”の浸透、FWモハメド・サラー、FWロベルト・フィルミーノ、FWサディオ・マネによる“フロントスリー”の形成、GKアリソンやDFフィルジル・ファン・ダイク加入による守備陣の改善により、チームは瞬く間に世界最高峰のクラブへと飛躍を遂げる。

 2018-19シーズンにはCLで優勝を遂げただけでなく、プレミアでは勝ち点「97」まで積み上げ、マンチェスター・シティと勝ち点1差の熾烈な優勝争いを演じた。19-20シーズンは史上最速記録で悲願のプレミア制覇を遂げ、黄金期を築いた。20-21シーズンは3位で終えるも、21-22シーズンにはFAカップ(杯)、カラバオ杯で二冠を達成し、CLは準優勝。プレミアでは勝ち点「92」で再びシティに1差で競り負けるも、史上最高レベルの優勝争いでサッカー界を魅了し、ジョゼップ・グアルディオラ率いるシティとのライバル関係を確立してみせた。

 今季は第21節終了時点で、シティを差し置き、リバプールが首位を快走している立場にある。若き新戦力が躍動し、次なる黄金期を予感させる最中の、突然の退任発表。チームの崩壊を防ぐために退任を早期に発表したクロップ監督らしい配慮がありつつも、彼を崇拝して戦ってきた選手たちには、決して少なくない影響が及ぶだろう。それでも、熱き名将は誇らしげにこう口にした。

「外部の人間たちはこの決定を利用し、嘲笑いながら妨害してくるだろう。でも、もっと困難な出来事を、一緒に乗り越えてきたじゃないか。そして、私よりもあなたたち皆の方が先に、ここで多くの困難にぶつかってきた。それは本当に素晴らしいことだ。それを強みにできるはずだ。だって、我々はリバプールなのだから」

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