「ドーハの教訓」はまだ終わらない 森保監督に求められる“悲劇”の経験の継承【コラム】

日本はイラクに1-2で敗戦【写真:Getty Images】
日本はイラクに1-2で敗戦【写真:Getty Images】

森保監督は「カタールでの第2戦」に弱い傾向

 森保一という人物は、カタールでの第2戦に弱い。

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 選手として参加した1992年のアメリカ・ワールドカップ(W杯)アジア最終予選では、第2戦のイラン戦で1-2と敗戦を喫した。監督として臨んだ2022年のカタールW杯の時は、グループリーグ第2戦でコスタリカに敗れている。そして今回もイラクを相手に1-2と敗れてしまった。

 カタールでのイラクとの相性も悪いと言えるだろう。1993年10月28日には後半アディショナルタイム、残り17秒という時点で同点ゴールを叩き込まれ、W杯初出場を逃して「ドーハの悲劇」と呼ばれるようになった。

 その時以来、イラクには9試合負けていなかったが、今回は第二次森保ジャパンの11連勝を阻まれるとともに、グループリーグの首位突破を厳しくする戦いになった。そしてこの敗戦は、単に負けただけではなく、日本の神経を逆なでしたのも間違いないだろう。

 イラクは意図していたかどうかは別として、日本をイライラさせた。前日公式会見では、森保監督が話している時もおしゃべりを止めない。電話やメールの着信音も切らずに鳴らしっぱなし。司会もイラクメディアばかりを指名し、そこでは「初戦のベトナム戦では2失点して、ファンからは不満の声があったと思うが、それはプレッシャーになるか。日本はまだ優勝候補と言えるか」など、挑発するかのような質問も出た。

 試合後は「ミックスゾーン」と呼ばれる、報道陣が選手の話を聞くエリアでも大騒ぎ。選手たちは大音量で音楽を鳴らしながら現れ、メディア関係者は禁止されているにもかかわらず、スマートフォンを使って選手と一緒に自撮りを続ける。日本選手が感情を抑えつつ接している横を、パーティーの一団が通り過ぎていくという構図だった。

イラクのアルフセイン記者は「レベルはベトナム戦よりも低かった」と指摘

 報道陣までもが煽られた。試合後のメディアセンターではイラクメディアがカメラを回しながら日本メディアの敗戦コメントを取りたがり、イラクのニュース配信会社「スポーツエージェンシー」のフセイン・アルフセイン記者は、ニコニコ顔でこんなメッセージを送ってきた。

「たしかに、我々のチームはこの試合に勝利するに値した。卓越したレベルを示し、日本相手に2ゴールを奪うことに成功したのだから。日本チームはいいレベルを見せず、そのレベルはベトナム戦よりも低かった」

 そして、こんな態度や行動を取られても言い返すことができないくらい、日本代表の出来は悪かったのだ。

「ドーハの悲劇」の時は、日本の試合運びの拙さが指摘された。リードして試合終盤を迎えた時、どうやってタイムアップまでの時間を稼ぐのかなどの議論が盛んになった。それから日本は多くの経験を積み、試合運びについて学んだはずだった。だが今回のイラクには前半5分、前半アディショナルタイム5分と、慎重にプレーしなければいけないはずの時間帯に失点してしまっている。

 試合前日、森保監督は1993年の試合に触れてこう語った。

「明日イラクと戦うので、アディショナルタイムのこと、ラストプレーなどを聞きたいのかと思うが、今の選手たちは時代も変わっている。この大会もアディショナルタイムが非常にきちんと取られて長くなっているので、そこも含めてゲームマネジメントしていかないといけない。ベトナム戦も選手たちがアディショナルタイムを使って前半の逆転ゴールにつなげたり、最後に試合を締めくくるコントロールをしたりした。私が経験した約30年前とは全く違う素晴らしいプレーを横にいる板倉選手たちがやってくれている」

 かつて、日本に海外サッカーを紹介してくれたテレビ番組「ダイヤモンドサッカー」の名アナウンサー、故・金子勝彦氏は1993年の試合を「ドーハの悲劇」ではなく「ドーハの教訓」と呼んでいた。前後半こそ違うものの、アディショナルタイムの失点ということを考えると、まだ日本は「ドーハの教訓」を生かし切れていないということだろう。

 時代は変わったが、日本サッカーはまだ「ドーハの教訓」を学び終わってはいない。森保監督は自身の経験を今の選手たちにも積極的に伝えていったほうがいいのではないだろうか。そして、2024年のイラク戦に出た選手たちは、試合前後にどんなことが起きたかということも含めて今回の経験を伝え、もう二度とこんな試合をしなくて済むような「教訓」を作り上げてほしい。

 足元を見直すきっかけになった。そうでも考えないと、この敗戦は意味を持たなくなってしまうことだろう。

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森 雅史

もり・まさふみ/佐賀県出身。週刊専門誌を皮切りにサッカーを専門分野として数多くの雑誌・書籍に携わる。ロングスパンの丁寧な取材とインタビューを得意とし、取材対象も選手やチームスタッフにとどまらず幅広くカバー。2009年に本格的に独立し、11年には朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)の平壌で開催された日本代表戦を取材した。「日本蹴球合同会社」の代表を務め、「みんなのごはん」「J論プレミアム」などで連載中。

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