守護神・鈴木彩艶へ…経験豊富な遠藤・冨安ら太鼓判「大丈夫」 イラク完封で波に乗れるか?【コラム】

日本代表の鈴木彩艶【写真:Getty Images】
日本代表の鈴木彩艶【写真:Getty Images】

GKは鈴木が続けてピッチに立つと予想

 1月12日より開催されているアジアカップはカタール、オーストラリアといった強豪国が2連勝。グループリーグ突破を決めるなか、優勝候補筆頭と目される日本も勢いに乗らなければならない。

 そういう意味でも19日の第2戦・イラク戦は確実に勝ち点3を手にしたい重要マッチ。日本がイラクを下し、インドネシアがベトナムに引き分け以下なら、その時点でグループ1位通過が決まるのだ

 森保一監督が前日記者会見で冨安健洋(アーセナル)や久保建英(レアル・ソシエダ)がプレーできる状態であることを断言。彼らがスタメンに名を連ねるかは未知数だが、14日の初戦・ベトナム戦から数人は入れ替わる可能性が大だ。

 こうしたなか、最後尾に位置するGKは鈴木彩艶(シント=トロイデン)が続けてピッチに立つだろう。ベトナム戦でリスタートから2失点したことで、彼を不安視する声も高まったが、本人は常に前向きだ。

「初戦の振り返りで特に重きを置いたのはセットプレーの部分ですね。準備であったり、失点したシーンの技術的なミスのところはしっかりと反省して次につなげていきたいと思っています」と彼はしっかりと切り替えて先を見据えている。

 挫折に直面しても折れないマインドは、日本代表で経験豊富な遠藤航(リバプール)や冨安健洋(アーセナル)も太鼓判を押している。遠藤は「彩艶は別に気にしていないと思います」と言い、冨安も「若い選手たちもいろんなことを経験してここに来ていますし、しっかり考える力も間違いなく持っている。必要な時だけ声をかければそれでいい」と深刻には捉えていない。

 アジアカップのようなビッグトーナメントでいきなり正守護神を任されるだけで、21歳と若い鈴木彩艶にはプレッシャーが少なからずあるはずだが、それを自分で克服していかなければ、明るい未来は開けてこない。先輩たちはそれをよく分かっているからこそ、過度なサポートをすることなく、温かい目で見守っているのだろう。

イラク戦で注意のカウンターやセットプレー

 批判を含めた雑音を封じるためにも、イラク戦では確実に無失点で勝利したいところ。イラクはベトナムのように丁寧なポゼッションをしてくるチームではない分、よりアクシデントに対処できる力が求められてくるのだ。

「イラクは(11月の2026年北中米)ワールドカップ(W杯)予選のシリアと似ているような戦い方で、カウンターやロングボールを使ってくるチーム。縦の速さやロングボールが1つキーになってくると思うので、そこに対する準備が大事。ディフェンスラインの裏や背後のケアもしっかりしないといけないし、コミュニケーションも必要だと思います」と鈴木彩艶は語気を強めていたが、確かにイラクのスピードは要注意ポイントと言っていい。

 15日のインドネシア戦でも、最前線に陣取った10番のモハメド・アリ、トップ下に入った11番のジダン・イクバル、左ウイングで局面打開力を示した17番のアリ・ジャシムらの推進力は大いに光っていた。彼らに簡単にディフェンスラインの裏に飛び出させるようだとGK鈴木彩艶としても厳しくなる。やはり確実なラインコントロールとコンパクトな組織的守備を見せ、隙を与えないことを第一に心がけるべきだ。

 加えて言うと、セットプレー対策はより徹底していく必要がある。イラクにはインドネシア戦で3点目を奪った189センチの長身FWマイマン・フサイン(18番)がいるため、いつ彼が出てきてもいいように万全の体制を整えておかなければならない。ロングスローもあるため、その対策もチーム全員で共有しておくべきだ。

 ベトナム戦を受け、2失点目の鈴木彩艶の小さくなったパンチングばかりがクローズアップされがちだが、その前にフリーキック(FK)を与えたこと、競り負けたことをもっと深刻に捉えなければならない。もちろん「最後の最後でGKが止めまくれば、無失点で乗り切れる」といった見方もあるが、ピンチの数を最小限にとどめることができれば一番いい。まだ代表キャップ数5という成長途上の選手をチーム全体が育ててあげるように仕向けていくことが、日本代表の今後につながるのだ。

 2010年南アフリカから2022年カタールまでW杯4大会に参戦してきた大ベテラン・川島永嗣(ジュビロ磐田)が去り、30代の権田修一(清水エスパルス)も招集外になっている今、日本代表には突出したGKはいない。今月シント=トロイデンからKAAヘントへ移籍したシュミット・ダニエル、負傷で今大会を回避した大迫敬介(サンフレッチェ広島)含め、今は誰が出ても「経験不足」というレッテルを貼られる状況なのである。

 だからこそ、鈴木彩艶をもっと温かい目で見て、才能を伸ばしていこうという機運が大切だ。ベトナム戦で味わった不完全燃焼感を糧にイラク戦で前向きなパフォーマンスを見せ、今後への布石を打てれば、彼はここからグングン成長していくはず。見る者に安心感を与えるような存在になっていくに違いない。

 本人も右肩上がりの軌跡を描くべく、闘志を燃やしている。同じパリ五輪世代の細谷真大(柏)とも“反省会”を開き、今後の活躍を誓ったという。

 さらには、自らドーハでヘアサロンを探し、断髪も決行。「英語で普通にサイドと上を少し切ってくださいと言いました」と余裕の笑みを浮かべたほどだ。

 そんな気分転換もして、満を持して迎えるイラク戦。世界基準のポテンシャルを備えた大器がどんなパフォーマンスを見せてくれるのか。いずれにしても、落ち着きと冷静さをピッチ上で示し、確実に勝ち点3を日本にもたらしてほしいものである。

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元川悦子

もとかわ・えつこ/1967年、長野県松本市生まれ。千葉大学法経学部卒業後、業界紙、夕刊紙記者を経て、94年からフリーに転身。サッカーの取材を始める。日本代表は97年から本格的に追い始め、練習は非公開でも通って選手のコメントを取り、アウェー戦もほぼ現地取材。ワールドカップは94年アメリカ大会から8回連続で現地へ赴いた。近年はほかのスポーツや経済界などで活躍する人物のドキュメンタリー取材も手掛ける。著書に「僕らがサッカーボーイズだった頃1~4」(カンゼン)など。

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