森保Jに潜む絶対的FW不在の課題 上田綺世らに求める“マイナスイメージ”払拭の力強さ【コラム】
ベトナム戦で1トップを務めた細谷は不発
日本代表は1月14日に行われたアジアカップのグループリーグ初戦、ベトナム相手に一時は1-2のビハインドに立たされながらも、南野拓実(ASモナコ)の2ゴール1アシスト、中村敬斗(スタッド・ランス)の6戦6発という驚異の決定力によって、4-2で逆転勝利を飾った。アジアカップは毎回のように初戦で苦戦を強いられているが、今回もまた同じ轍を踏んでしまった。
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「勝つことができたのは良かったと思うし、勝ち点3を取って次に迎えるのはポジティブだった。難しいなかでも選手たちがバタバタ集中を切らすことなく、チームとして90分プラスアディショナルタイムを通して戦うことが勝つ確率を高めると捉えて、落ち着いてプレーしてくれた。それが逆転につながったし、後半も落ち着いた戦いができたと思います」
森保一監督は前向きなコメントを残したが、一時は大ピンチに陥ったのは確かだ。
物足りなさを感じさせた1人が、最前線に陣取った細谷真大(柏レイソル)だろう。昨年11月に追加招集され、ワールドカップ(W杯)アジア2次予選のシリア戦で代表初ゴールを挙げたパリ五輪世代のエースFWはアジアカップメンバーに滑り込み、初戦の先発1トップの座を射止めるに至った。
もちろん浅野拓磨(ボーフム)と上田綺世(フェイエノールト)の両FWが2024年元日のタイ戦を体調不良で欠場し、前田大然(セルティック)も11日まで別メニューを強いられるなど、ほかのFWが頭から使えないという事情もあったが、前半45分だけで交代というのは不完全燃焼感が強かったに違いない。
「フル代表のアジアカップは初めてでしたけど、やっぱり雰囲気が違いましたし、初戦の難しさもありました。もちろんゴールを意識していましたし、押し込んでる状態のなかでどう自分が絡んでいけるかをずっと考えていたんですけど、もっとボールを要求してチャレンジするべきだった」
細谷本人は消極的になってしまった自分を悔やんでいた。
上田綺世はゴールを決めるも最低限の責務を果たしたのみ
日本を熟知するベトナム監督のフィリップ・トルシエが5-4-1の布陣を採用し、「フラット5」とも言っていい細かいラインの上げ下げでコンパクトな規律ある守備を実践してきたこともあり、日本の攻めがノッキングしてしまったのは確かだろう。そこで細谷のスペースもなくなり、前線でボールを受けられないという展開に陥るのも想定できたこと。攻撃に関してはある意味、やむを得ない部分もあったが、プレスのスイッチ役としての役割も十分に果たせなかったことは、大いに反省すべき部分だ。
「もうちょっと前から行って取れるかなと思ったんですけど、思った以上につなぐのが上手かった。元々ビルドアップが上手いというのは知ってましたけど、その上を行っていたので、ファーストDFっていうところでは、自分の実力不足もあった」
細谷本人も語っていたが、ここで直面した現実をどう受け止め、先々に改善につなげるか。それが彼の今後を大きく左右するだろう。
後半から出場した上田は最終的に強引な突破から2人の股を抜く4点目をゲット。「FWは点を取るのが職業」と本人も話したように、最低限の責務を果たしたと言っていい。ただ、攻撃のスイッチを入れていたのは、後半も南野や堂安律(フライブルク)、途中出場の久保建英(レアル・ソシエダ)で、FWが自らリードするような形は少なかったように見受けられた。
前回の2019年アジアカップを振り返ると、日本には絶対的1トップの大迫勇也(ヴィッセル神戸)がいて、彼がいるだけでゴールを奪ってくれるという安心感があった。実際、大迫が先発した初戦のトルクメニスタン戦、準決勝イラン戦では得点。ラストの決勝カタール戦では不発に終わったものの、大会4ゴールという結果でエースの風格を示していた。
そういう位置づけの選手が今の日本には見当たらない。上田は2023年から通算8ゴールを記録し、浅野もドイツ戦など重要局面で得点を奪うなど勝負強さを示してはいるものの、大黒柱という領域には至っていない。前田大然も10・11月の代表活動を辞退したうえ、所属クラブでサイドアタッカーを主戦場にしていることもあって、最前線で軸となるイメージではない。
だからこそ、森保監督は細谷に期待を寄せたのだろうが、ベトナム戦では不発に終わった。彼らFW陣にはここから6戦でチームの攻撃を力強く牽引するくらいの勢いと推進力、存在感を示してくれるようになってもらわなければ困るのだ。
浅野や前田、細谷の奮起も不可欠
1月19日に行われるグループリーグ第2戦イラク戦から誰が最前線の軸を担うことになるのか。そこは1つの注目点と見ていい。2023年の森保監督の起用法、ベトナム戦でのゴールを踏まえると、最も有力なのは上田だ。高さと強さ、多彩なシュートパターンを備えた彼は確かにポテンシャルは頭抜けている。
「毎試合、別に必要なだけ取れたらいいと思うし、チームに求められていることだと思うんで、FWとしてそこを最大限にできたらいいのかなと思います」と本人はゴール量産や得点王といった色気を持たず、1つ1つの試合で愚直にプレーすることだけを追求する構えだ。
そのスタンスが上田らしいところだが、ビッグトーナメントで頭抜けた結果を残すことも自身の飛躍のためには重要だ。まずは1点を取り、メンタル的にもリラックスして今後の戦いに挑めると見られるだけに、彼にはカタールのアズモエル・アリ、アクラム・アフィフ、イランのカリム・アンサリファルド、サルダル・アズムンといったアジア屈指のFWをしのぐインパクトを残してほしい。
今大会まだピッチに立っていない浅野と前田、ベトナム戦で壁にぶつかった細谷にしても、まだまだチャンスはある。最大7試合の長丁場の大会では1人の絶対的FWだけでは勝ち切れないし、彼らが目に見える仕事をしなければならない局面も必ず訪れる。
実際、2019年大会も大迫が怪我で離脱した後、起用された北川航也(清水エスパルス)や武藤嘉紀(神戸)が思うようなプレーができず、日本自体も苦しんだ。5年前と同じことを繰り返さないためにも、FW陣が高いレベルで競争し、ゴールを奪い合うくらいのバトルを見せてくれるのが理想的だ。
今の日本代表はどうしても三笘薫(ブライトン)ら2列目、遠藤ら中盤、冨安健洋(アーセナル)などDF陣に注目が集まりがち。彼らのレベルに比べるとFWとGKがやや弱い印象も拭えない。そのマイナスイメージを払拭するためにも、イラク戦からは毎回、FW陣に大仕事をしてもらいたい。期待を込めて見守りたいものである。
元川悦子
もとかわ・えつこ/1967年、長野県松本市生まれ。千葉大学法経学部卒業後、業界紙、夕刊紙記者を経て、94年からフリーに転身。サッカーの取材を始める。日本代表は97年から本格的に追い始め、練習は非公開でも通って選手のコメントを取り、アウェー戦もほぼ現地取材。ワールドカップは94年アメリカ大会から8回連続で現地へ赴いた。近年はほかのスポーツや経済界などで活躍する人物のドキュメンタリー取材も手掛ける。著書に「僕らがサッカーボーイズだった頃1~4」(カンゼン)など。