三笘薫とは異なる「左の弾丸ドリブラー」へ 前田大然がアジアカップで証明すべき役割は?【コラム】
2023年は怪我により日本代表で結果を残せず
日本代表は5回目の戴冠を目指し、1月14日のグループリーグ初戦ベトナム戦からアジアカップの戦いに挑む。すでにチームは5日から現地入りし、調整を続けている。負傷の三笘薫(ブライトン)や久保建英(レアル・ソシエダ)らは別メニューとなっているが、キャプテン遠藤航(リバプール)ら主軸メンバーは着実にコンディションを上げていると見られる。
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2022年のカタール・ワールドカップ(W杯)メンバーの1人である前田大然(セルティック)も、昨年9月以来の代表合流に新たな意欲を燃やしているはずだ。
昨年10月、11月と2回連続で怪我により活動を棒に振った彼は、所属先でも11~12月にかけて約1か月間離脱。12月16日のスコティッシュ・プレミアシップ第18節ハーツ戦で後半からピッチに戻り、23日の第19節リビングストン戦でようやく先発復帰を果たした。そこから4試合連続スタメンと過密日程を乗り越え、復調しつつある。直近1月2日の第22節セント・ミレン戦では今季3ゴール目もゲット。得点感覚も取り戻した状態でカタールに乗り込んできたのである。
カタールというのは、前田にとって忘れられない場所。ハイプレスからの速攻をベースに挑んだカタールW杯では、前線からの”鬼プレス”を武器とする韋駄天が重用され、ドイツ、スペイン、クロアチアとの3試合に先発。クロアチア戦では先制ゴールも挙げている。ご存じの通り、そのクロアチア戦はPK負けし、悲願のベスト8に手が届かなかったわけだが、前田はその悔しさを忘れたことはないという。
「カタールではベテランの存在の大きさを強く感じました。特にスペイン戦の前に(川島)永嗣さんが涙ながらに『俺たちはここで負けて終わるようなチームじゃない』と話してくれた時には感極まった。僕、ちょうど永嗣さんの横にいて、『ああ、泣いてる』って最初に気づいたと思うんです。みんながいる中で自分の経験をしっかり伝えて、そこで泣けるっていうのは本当に凄いなと。もちろん(長友)佑都(FC東京)くんや(吉田)麻也(LAギャラクシー)くんたちがいたことも大きかった。そういう人たちがやっていたことを絶対に忘れちゃいけないと思います」
前田はW杯直後、このようにしみじみと語っていた。だからこそ、2026年の北中米W杯に出て、次こそは8強以上の結果を残さなければいけないという自覚と責任感が強まったに違いない。しかしながら、2023年3月から始動した第2次森保ジャパンでは、活動のたびに怪我が重なり、思うように出番を得られない状況を余儀なくされることになった。
グループリーグではスタメンのチャンスも?
この1年間を振り返ってみると、初陣の3月シリーズは2戦目のコロンビア戦を前に離脱。6月シリーズはフル参戦したものの、2戦目のペルー戦で途中出場したのみ。この時は首尾よくゴールを奪ったが、爪痕を残しきれずに終わった。
2023年最大の山場と目された9月シリーズも、初戦のドイツ戦は出番なし。2戦目のトルコ戦もスタメンに抜擢されたのは古橋亨梧(セルティック)で、前田大然は後半45分間でピッチに立っただけだった。
そして前述の通り、10・11月は不参加のため、2023年の代表実績は2試合に途中出場して1ゴール。これには本人も不完全燃焼感が強かったことだろう。
前田がコンスタントに稼働できない間に年間7ゴールを挙げた上田綺世(フェイエノールト)、ドイツ戦など大一番で得点できる勝負強さを示した浅野拓磨(ボーフム)らほかのFW陣が序列を上げただけに、今の前田はジョーカーという立ち位置だと言わざるを得ない。それは1年2か月前のカタールW杯とは異なる役割ではあるが、爆発的なスピードとここ一番の決定力、最前線のみならず左右のウイングもこなせるマルチな能力を最大限生かせれば、今大会も大仕事を果たせる可能性は大だ。
おそらく初戦のベトナム戦の先発FWは上田か浅野になるだろう。右サイドの伊東純也(スタッド・ランス)も確実だから、前田がスタメンを狙うとしたら左サイドということになる。三笘が頭から使えないと目されるなか、森保一監督は中村敬斗(スタッド・ランス)、旗手怜央(セルティック)、前田のいずれかをピッチに送り出すと考えられるからだ。
2019年UAE大会で代表実績の乏しかった南野拓実(ASモナコ)や堂安律(フライブルク)の起用にこだわった指揮官だけに、今回は敢えて中村敬斗を重用することもあり得る。
その場合、前田は控えとして万全の態勢を整えておかなければならない。ポジションは左なのか前なのか分からないが、途中から出てゴールに直結する結果を残せれば、続く19日のイラン戦、24日のインドネシア戦ではスタメンの座が巡ってくるかもしれない。今はそうやって少しずつ実績を残すことが肝要なのだ。
三笘とは違う左のオプションになる可能性
特に「左の前田」というのは、森保監督が前々から試したいと願っていたオプションだろう。というのも、昨季セルティックでハリー・キューウェル・コーチ(現横浜F・マリノス監督)からマンツーマン指導を受け、仕掛ける韋駄天へと変貌を遂げていたからだ。ブレンダン・ロジャース監督体制に移行した今季は右を主戦場にしているが、オン・ザ・ボールで勝負できるようになった自信は失われていないはず。それをアジアの舞台で如何なく発揮すれば、前田はチームに新たな武器をもたらすのではないか。三笘とは違ったタイプの左の弾丸ドリブラーの姿をぜひとも見たいものである。
右は堂安もいるし、場合によっては久保の起用も考えられるため、可能性は少ないが、アジアカップのような大会は何が起きるか分からない。過去の大会でもキープレーヤーが負傷離脱し、戦力が足りなくなるケースが多々あった。主軸アタッカー陣がどうなってもあらゆるポジションを自在にこなせる前田が確実に穴を埋めてくれる状況が生まれれば、森保監督の安心感は一気に高まる。そうやって存在価値を引き上げ、2026年W杯に一歩前進すること。前田にはこの大会をそういう浮上の契機にしてほしい。
「どこで出るか分からないですけど、与えられたポジションでしっかり自分のタスクをこなせればいいと思います」
9月のドイツ戦前に語っていたのと同じ気持ちで前田は献身的に走り続けるはず。偉大な先輩たちから受け継いだものをカタールの地で示し、成長した姿を見る者に焼き付け、5度目のアジア制覇のキーマンになってくれれば理想的だ。
(元川悦子 / Etsuko Motokawa)
元川悦子
もとかわ・えつこ/1967年、長野県松本市生まれ。千葉大学法経学部卒業後、業界紙、夕刊紙記者を経て、94年からフリーに転身。サッカーの取材を始める。日本代表は97年から本格的に追い始め、練習は非公開でも通って選手のコメントを取り、アウェー戦もほぼ現地取材。ワールドカップは94年アメリカ大会から8回連続で現地へ赴いた。近年はほかのスポーツや経済界などで活躍する人物のドキュメンタリー取材も手掛ける。著書に「僕らがサッカーボーイズだった頃1~4」(カンゼン)など。