森保J初招集、伊藤涼太郎がベルギーで切り開く“新境地” ボランチで見えた新たな壁「幅は間違いなく広がっている」【現地発】

ベルギーで奮闘する伊藤涼太郎【写真:(C) STVV】
ベルギーで奮闘する伊藤涼太郎【写真:(C) STVV】

伊藤涼太郎は今夏からシント=トロイデンでボランチを務める

 寒空の下、年内最後のホームゲームで浮かない表情を見せる1人の男がいた。12月23日に開催されたジュピラー・リーグ第19節のシャルルロワ戦。シント=トロイデンの伊藤涼太郎は、勝利に喜ぶ一方で、自身のパフォーマンスに納得がいっていなかった。

「今日は良くなかったですね。チームが勝ったから喜ばないといけないですけど、悔しい試合になりました。ボールには結構、絡めていたと思うんです。だけど、その後のプレーの判断をいくつか間違えていたなと。攻撃のところで自分が行くのか、味方を使うのか、ビルドアップのところでも左に行くのか、右に行くのかというところの判断を少し間違えたシーンがあった。そこは帰ってもう一回見て修正したいと思います」

 今年の6月、伊藤はアルビレックス新潟からシント=トロイデンへの移籍を決断した。初の海外挑戦。今までと異なる環境に身を置くことで、さらなる成長を求めた。

 それから約半年、苦しみながらも前に進む伊藤の姿がある。

 今季、トルステン・フィンク監督の下、ポゼッションサッカーを志向するようになったシント=トロイデンにおいて、伊藤に与えられたポジションはダブルボランチの一角。形としては縦型のダブルボランチなため、以前のように前目のポジションを取ることが多いのだが、場合によっては下がってボールを動かす役割もこなさなければならない。言語や文化といった環境の変化に加えて、新たなポジションを担うことになったことで試行錯誤する時間が続いている。

「新潟の時とは違って、こっちにきてからは後ろのビルドアップに関わるところを結構言われています。左のところに降りたり、右だと最終ラインのところまで降りたりなどは、監督から求められていること。個人的にはもっと前でプレーはしたいですけど、チームとして求められている以上、それはやらないといけない。バイタルのところももちろんそうですけど、うしろで関わるところはもっと精度を上げないといけないですし、自分からもっとたくさんボールを配球しないといけないと思います」

 シュートやラストパスといった最後のところで違いを発揮していた以前と比べ、今は後方に下がってボールを受けてはパスを供給し、機を見て前に飛び出てはゴールを狙う。試合を見ても前後左右に走り回る姿が印象的だ。

「プレーの幅は間違いなく広がっていると思います。日本にいる時よりかはたくさん走っているし、距離も出ている。だいぶ数字としても出ています。自分が今までやってこなかったプレーに磨きがかかれば、もっとプレーの幅が広がるかなと思います」

 それでも、伊藤はタフさを含めて「まだまだ足りない」と素直な思いを明かす。多くの試合で先発出場したが、18試合に出て2得点、1アシストという結果には全く満足しておらず、むしろその点をしっかりと課題に捉えている。

「やはりプレーのところの精度はもっと上げないといけないといけないですし、数字のところはまだまだ足りないです。ただ、試合に出続けているのはポジティブに捉えたいなと。その中でたくさん経験をして、もっとベルギーリーグのサッカーを自分の体に叩き込まないといけないと思います」

 苦しんでいる分だけ前にも進んでいる。前述したようにプレーの幅が広がり、確かな変化が生まれているからこそ1月1日にタイ代表と対戦する日本代表に初選出された。退団セレモニーの際に新潟サポーターの前で語っていた「次、皆さんの前に立つ時には日の丸を背負って立ちたいと思います」という言葉は、さっそく成し遂げられることになった。

 ただ、伊藤は「やっぱり選ばれたことは素直に嬉しいです」としつつも、強い思いを持って今回の活動に参加しようとしていることを明かした。

「嬉しいけど、やらないといけないという気持ちになりました。選ばれるだけでなく、しっかりと爪痕を何か残せるようなプレーをしたいなと思っています。同年代の選手の活躍を見て、自分にはまだまだ足りないところが多い。代表に選ばれてそういった選手たちとプレーして、いろいろ刺激をもらえたらと思います。(焦りは)ないです。自分らしくプレーしようというだけです」

 約半年、一歩一歩階段を上がってきた伊藤が初の代表で何を見せるのか。自身の成長を証明するうえでも重要な一戦に臨んでいく。

(林 遼平 / Ryohei Hayashi)



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林 遼平

はやし・りょうへい/1987年、埼玉県生まれ。東日本大震災を機に「あとで後悔するならやりたいことはやっておこう」と、憧れだったロンドンへ語学留学。2012年のロンドン五輪を現地で観戦したことで、よりスポーツの奥深さにハマることになった。帰国後、サッカー専門新聞『EL GOLAZO』の川崎フロンターレ、湘南ベルマーレ、東京ヴェルディ担当を歴任。現在はフリーランスとして『Number Web』や『GOAL』などに寄稿している。

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