「持たざる者たちの星」ブライトンの挫折 用意周到な「恋心」とリスク…完敗アーセナル戦で突きつけられた重い現実【コラム】

第17節でアーセナルに完敗したブライトン【写真:ロイター】
第17節でアーセナルに完敗したブライトン【写真:ロイター】

アーセナル戦で0-2敗戦のブライトン、得意の疑似カウンターも発動は限定的

 プレミアリーグ第17節、アーセナルがブライトンに2-0で勝利。シュート25本を浴びせた試合内容は圧勝と言っていいだろう。

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 ブライトンはアーセナルの厳しいプレッシングに自陣から出られない時間帯が続いた。何度かはプレスをかいくぐって前線へボールを運び、得意のカウンターへ持ち込む場面も見られたが回数は限定的だった。

 ブライトンはマイナークラブの星だ。今やプレミアの強豪の1つとも目され、他国のリーグから見れば十分にビッグクラブなのかもしれないが、マンチェスター・シティ、マンチェスター・ユナイテッド、リバプール、チェルシー、トッテナム、アーセナルと比べるとクラブの規模は小さい。しかし、ロベルト・デ・ゼルビ監督が仕込んだパスワークと攻撃力で、昨季はメガクラブの対抗勢力にのし上がった。

「擬似カウンター」はブライトンを象徴する戦術だ。自陣深くセンターバック(CB)とボランチによる小さな四角形を形成し、そこに相手を引き寄せる。引き寄せてからひっくり返す。ビルドアップから一転、カウンターになる。その仕組みを作った。

 カウンターアタックは得点の可能性が高くなり、メガクラブのような高価なストライカーを補強しなくても攻撃力を高めることができる。その点で、ブライトンのサッカーは持たざる者の目標になりやすいのだ。

名将が喩えた偶発性…カウンターアタックは「突然芽生える恋心のようなもの」

 アルゼンチンの名将セサル・ルイス・メノッテイはかつてカウンターアタックについて、「突然芽生える恋心のようなもの」と話していた。

 カウンターを恋心に喩えたのはロマンティックだが、意味するところは「決して計画などできない」ということ。相手のボールを奪ったところからカウンターは発動するので、どこでどのように奪えたかが成否にかなり影響するが、それを前もって計画するのは難しく、およそ偶発的というわけだ。

 ところが、ブライトンはカウンターを計画した。「突然芽生える」のではなく、周到に準備された「恋心」である。

 もちろん計画された「恋心」にはリスクも付きまとう。相手を引きつけるはずがそのまま奪われてしまう、パスミスの発生、GKのフィード力が問われるなど、どれも1つ間違えば致命傷になりかねない。だが、そうした背水の陣を敷くことで展望を拓いていく以上、避けられないリスクなのだ。その勇気がブライトンというチームを1つ上のステージに押し上げているところもある。

土足でエリア内に踏み込んだアーセナルのアタッカー陣…際立った身体能力の差

 アーセナル戦は気高いブライトンにとって重い現実を突きつけた一戦となった。

 アーセナルの怒涛のハイプレスにリスキーなパスワークはいっそうリスキーになり、まるで奪われるためにボールを回しているような状態になってしまった。個々の選手の身体能力の差だ。

 アーセナルの右ウイング、ブカヨ・サカをマークしたジェイムズ・ミルナーは速さで全く対抗できないことがキックオフ後すぐに明らかになっていた。気圧されるようにディフェンスラインはずるずると下がり、アーセナルのアタッカーたちは土足でペナルティーエリアに踏み込んでいった。

 持たざる者たちの星だったブライトンも、本当に持っているチームにはへし折られるという現実。この壁をどう乗り越えていくのか、それともやはり金が力の現代サッカーの前には無力なのか。多くの持たざるチームにとっては他人事ではなさそうだ。

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西部謙司

にしべ・けんじ/1962年生まれ、東京都出身。サッカー専門誌の編集記者を経て、2002年からフリーランスとして活動。1995年から98年までパリに在住し、欧州サッカーを中心に取材した。戦術分析に定評があり、『サッカー日本代表戦術アナライズ』(カンゼン)、『戦術リストランテ』(ソル・メディア)など著書多数。またJリーグでは長年ジェフユナイテッド千葉を追っており、ウェブマガジン『犬の生活SUPER』(https://www.targma.jp/nishibemag/)を配信している。

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