アジアカップ前に「苦戦」が必要? 森保ジャパン、元日タイ戦で求められる課題発見【コラム】

森保ジャパンが元日のタイ戦で求められるのは苦戦?【写真:徳原隆元】
森保ジャパンが元日のタイ戦で求められるのは苦戦?【写真:徳原隆元】

国内組8人のメンバー構成の中で特にアピールが必要なのは?

 森保一監督率いる日本代表は12月7日、来年1月1日に開催されるタイ代表戦のメンバーを発表した。今回はこれまでの26人とは違い、アジアカップのレギュレーションに合わせた23人を招集しており、国内組は第2次森保ジャパン発足後、最多の8人となった。

 1月早々にはアジアカップ開催の地カタールに出発する日本代表にとってこの試合は壮行試合であり、選手選考の意味を持つ。森保監督も「この元日の試合、東洋タイヤカップの試合を見て、パフォーマンスを見て、最終的にアジアカップのメンバーを決める」と明言している。

 今回のメンバーの中で特にアピールしなければいけないのは誰か。

 まずは、GKで初招集された野澤大志ブランドンであることは間違いない。11月のミャンマー戦、シリア戦に向けたメンバーの中で最も試合出場経験があった大迫敬介は「怪我で離脱ということで、このJリーグのオフにそこを治療する、回復させる」(森保監督)という事情のため招集されていない。

 現在、日本代表の中で経験値を持つ選手が最も少ないのはGKで、逆に言えば今ならアピールすることでメンバー定着を狙うことができる。合宿期間は短いがその中でどこまで力を示すことができるのかが重要となるだろう。

 DFでは森下龍矢と藤井陽也が該当しそうだ。11月のメンバーから今回招集されていないのは、中山雄太、冨安健洋の2人。森下は6月と9月にも招集されたが、出場は6月のみで9月はヨーロッパまで遠征しながら出番がなかった。その時の屈辱を晴らせるか。

 藤井は3月に追加招集されたものの出番はなし。今回2回目の招集で、出場すれば初キャップとなるものの、冨安は12月2日に負傷しており、センターバック(CB)のバックアッパーとして通用するかどうか見極められることになる。

日本人指揮官の石井監督が就任したタイ代表を警戒

 MF/FWでは初選出の伊藤涼太郎、10月に三笘薫の離脱を受けて初招集されたものの、発熱で結局練習だけで終わった奥抜侃志、6月に初めて選ばれたがまだ出場機会がない川村拓夢は、このタイ戦に出場できるかどうかが目安となるだろう。

 11月から今回で選外になっている選手に、遠藤航、古橋亨梧、守田英正、川辺駿、鎌田大地、相馬勇紀、三笘薫、前田大然、伊藤敦樹、久保建英がいる。佐野海舟、細谷真大にしても、このライバルたちと競争して生き残らなければならない。

 また、板倉滉、伊藤洋輝、中村敬斗は負傷からの回復度合いを証明しなければならないはずだ。現在の日本代表の層の厚さを考えると、単純にピッチに立てるようになったからということでメンバー入りすることはないはずだ。

 しかも、11月は26人が招集されており、怪我などで代表辞退があったためのべ29人が争うことになった。その意味では11月のメンバーからもさらに絞り込みが行われるということになるだろう。

 今回のメンバーで、怪我がない限りアジアカップ当確だと思われるのはGKが前川黛也と鈴木彩艶、DFは谷口彰悟と中山雄太、菅原由勢、MF/FWでは伊東純也、浅野拓磨、堂安律、上田綺世、田中碧の10人。ここに遠藤航、鎌田大地、久保建英は入ってくるだろうから残りの枠は10人。窓は広く開いているように思えるが、争っているメンバーを見れば実はさほど大きな窓枠ではない。

 ではタイ戦はどんな戦いになるか。この試合に日本代表は苦戦したほうがいいのではないだろうか。

 森保監督は11月23日にタイ代表を率いることになった石井正忠監督に警戒感を見せている。

「非常に賢く、クレバーに対策を練られる方だなと思っていますので、我々のやりたいことをより消してくる戦いをされるのかなと思っています。鹿島(アントラーズ)時代も個々の良さを発揮させながら、チームとして組織的に戦えるいいチーム作りをされているので、非常に難しい戦いになるなと思っています」

2019年同様、苦戦の味を忘れたままアジアカップへ

 石井監督は2015年7月、トニーニョ・セレーゾ監督からシーズン途中でチームを引き継ぐと、3か月後のリーグカップ決勝で優勝を果たした。2016年6月には1stステージ優勝を決め、チャンピオンシップでは準決勝で川崎フロンターレ、決勝で浦和レッズを下して年間優勝を決めている。また同年のクラブワールドカップ(W杯)ではアジア勢として初めて決勝に進出した。

 2017年5月に成績不振で解任されるまで、石井監督は広島を率いていた森保監督とリーグ戦で3回対戦し、その3試合とも鹿島が勝利している。特に、2015年の広島は2ndステージを制したのみならず年間勝ち点でも1位、チャンピオンシップもG大阪を1勝1分で退け優勝を果たした。その広島を相手に土を付けている。

 2016年はチャンピオンシップに出場したチームの中では最も勝ち点が低く、トップの浦和とは勝ち点15の差を付けられていた。だが一発勝負の準決勝ではアウェーで川崎を1-0と沈め、決勝の浦和戦では初戦のホームゲームを0-1で落としたものの、続くアウェーで2-1の勝利を収めて優勝に輝いた。

 見た目は温厚だが、実に厳しく相手の弱点を突いてくる石井監督だからこそ、ここまで好調すぎるほどの成績を残している森保ジャパンをハッとさせてくれる可能性がある。そしてそれこそが、今の日本代表に必要なことではないだろうか。

 2018年の日本代表は、森保監督が就任して以来、コスタリカ、パナマをともに3-0で退け、ウルグアイにも4-3と競り勝ち、ベネズエラに1-1で引き分けたものの、キルギスに4-0と大勝して1年を終え、その後アジアカップを迎えた。

 2019年UAEで開催された前回のアジアカップで、森保ジャパンはグループリーグを3戦全勝で突破し、準決勝では優勝候補の呼び名が高かったイランを3-0で下した。ところが決勝では1-3とカタールに敗れてしまったのだ。

 現在の日本代表は当時よりも数段レベルアップしているものの、状況としては似通っている。苦戦の味を忘れたまま、大会に突入しようとしているのだ。

 アジアカップの初戦の相手はフィリップ・トルシエ監督率いるベトナム代表。近年の成長は目覚ましく、クラブ単位であるとはいえ、AFCチャンピオンズリーグ(ACL)で浦和がハノイに敗れている。十分に警戒は必要だ。

 そう考えると今回、石井監督に日本代表の弱点を突いてもらうような展開になることが、今後の日本代表のことを考えるといいのではないか。元日早々、日本代表が苦しむ姿を見るのは嫌な気分になるかもしれないが、日本のアジアカップ初戦は1月14日と、修正には十分な時間がある。一度苦みを味わっておいても、その後のことを考えると悪い話ではない。

 だからこそ、タイとの試合での苦戦を望む。そしてその苦しい中で活躍した選手だけがアジアカップに向かうことができるのではないだろうか。

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森 雅史

もり・まさふみ/佐賀県出身。週刊専門誌を皮切りにサッカーを専門分野として数多くの雑誌・書籍に携わる。ロングスパンの丁寧な取材とインタビューを得意とし、取材対象も選手やチームスタッフにとどまらず幅広くカバー。2009年に本格的に独立し、11年には朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)の平壌で開催された日本代表戦を取材した。「日本蹴球合同会社」の代表を務め、「みんなのごはん」「J論プレミアム」などで連載中。

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