ドイツで高まる日本人選手の価値 先人の好影響と日本サッカー界の財産「例えば宇佐美選手、原口選手と…」【インタビュー】

ドイツで日本人選手が評価を高める理由とは?【写真:Getty Images】
ドイツで日本人選手が評価を高める理由とは?【写真:Getty Images】

ドイツでも認められている日本人選手の謙虚さ・ひたむきさ・プロフェッショナリズム

 これまでドイツリーグでは数多くの日本人フットボーラーがプレーし、現在も活躍を続けている。ドイツ2部フォルトゥナ・デュッセルドルフで、フロントスタッフとして活躍している廣岡太貴氏は、「日本人選手の価値」が現地で認められていると語り、「日本人として誇りに思いますし、尊敬の思いでいっぱいです」と絶賛している。(取材・文=中野吉之伴/全5回の4回目)

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「日本人選手の価値っていうのは、ブンデスリーガで根付いてきているんじゃないかなと思います」

 そう語るのは、フォルトゥナ・デュッセルドルフでスポーツ&コミュニケーション部日本コミュニティーマネージャーを務める廣岡太貴(33歳)。海外でプレーする日本人選手は増えているが、それはこれまでにプレーしてきた日本人選手が残していったポジティブなイメージも大きく関係している。

「ドイツだと、どこのクラブに行ってもベテランになるほど日本人と一緒にプレーしたことがあるという選手が多くなっているんですよね。フォルトゥナでも、例えば宇佐美貴史選手(ガンバ大阪)、原口元気選手(シュツットガルト)とやっていた選手がたくさんいますけど、みんなポジティブなことをすごい口にしています。そういった選手の良いイメージというのは確かに残っていると思います」

 ピッチ内だけではなく、ピッチ外でも見せる日本人選手の謙虚さ、ひたむきさ、プロフェッショナリズムは多くのクラブで高く評価されている。キャプテンを務める日本人選手が増えているのは、まさにその証だ。ハンブルガー時代の酒井高徳(ヴィッセル神戸)、フランクフルトの長谷部誠、そして日本代表キャプテンの遠藤航(リバプール)は前所属シュツットガルトでキャプテンマークを腕に巻いてチームを引っ張った。

「凄いですよね。一昔前だったら考えられないことですよね。ブンデスリーガの1部クラブでキャプテンっていうのは本当に凄いことだと思います。日本人として誇りに思いますし、尊敬の思いでいっぱいです。日本サッカーのレベルが上がっているってことは間違いないと思いますし、そういう人たちが結果を残したり、素晴らしくポジティブなイメージを与えてくれているからこそ、今これだけの選手がドイツや海外でプレーできていると思います」

間近で多くの日本人選手を見てきた廣岡太貴氏(左)【写真:F95David Matthaus】
間近で多くの日本人選手を見てきた廣岡太貴氏(左)【写真:F95David Matthaus】

田中碧のストイックな姿に周囲もリスペクト「練習させないでくれと言われたぐらい」

 欧州プロクラブにおけるキャプテンの持つステータスというのはものすごく高い。重厚な歴史と伝統が根付いているクラブにおいて、監督、コーチだけではなく、チームメイト、首脳陣、そしてファンからの確かな信頼がなければならないのだから。クラブの生え抜き、超越したリーダーシップを持っている選手が選ばれる。

 自身もプロクラブのフロントスタッフとして働く廣岡はそうした空気感やヒエラルキーを知っているし、だからこそ日本人選手がキャプテンに任命されることを感嘆の思いで受け止めている。

「例えば練習前や練習後の行動だったり、発言だったり、それこそ練習態度であったり。そういう積み重ねで、すごく認められてくると思います。うちでプレーする田中碧選手なんて、最初はやりすぎだって言われるくらいストイックでしたから。ドイツ人って『練習が終わったら早く帰りなさい』という人が多いと思うんですけど、田中選手の1年目は居残り練習とか本当にもう凄かった。『練習させないでくれ』と言われたこともあるぐらいです。最近はバランスが取れてきたと思います。そういう部分はやっぱりクラブの人はリスペクトしているし、よく見ているんですよね」

 数々の日本人が世界へと飛び立ち、居場所を切り開いてきた。のちに続く後進はそんな先人たちの作ったルートやレールを大事に整え、さらに新しい道を作り出している。クラブサイドが計算できる選手として獲得に動くケースが増えてきているし、逆に欧州で順応できない選手は減ってきた印象を強く受ける。廣岡も同調する。

「確かにそうですね。これまで経験してきた人たちの情報や培ったものがどんどん伝わっているからだと思います。何も知らないで、ポッと来る人はもういないと思う。それでもやっぱりハマらない選手もいますけど、本当に先人たちの作ってきた道やアドバイスというのは大きいんじゃないかなと思います」

 欧州でやり抜くために必要なことを知り、そのための準備をして、現地の考え方を学び、コミュニケーションを取って、日頃の生活を安定させる。そうした土台作りのやり方が浸透してきているのは、日本サッカー界の大きな財産だろう。

(文中敬称略)

(中野吉之伴 / Kichinosuke Nakano)



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中野吉之伴

なかの・きちのすけ/1977年生まれ。ドイツ・フライブルク在住のサッカー育成指導者。グラスルーツの育成エキスパートになるべく渡独し、ドイツサッカー協会公認A級ライセンス(UEFA-Aレベル)所得。SCフライブルクU-15で研修を積み、地域に密着したドイツのさまざまなサッカークラブで20年以上の育成・指導者キャリアを持つ。育成・指導者関連の記事を多数執筆するほか、ブンデスリーガをはじめ周辺諸国への現地取材を精力的に行っている。著書『ドイツの子どもは審判なしでサッカーをする』(ナツメ社)、『世界王者ドイツ年代別トレーニングの教科書』(カンゼン)。

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