若返るクラシコ 技術が高く、動けて、意欲旺盛…ハイブリットな若手陣がフィールドを支配【コラム】
バルサとレアルの伝統の一戦、ゲームを動かしたのは若手のエネルギー
エル・クラシコはレアル・マドリードが2-1でFCバルセロナを下した。ホームのバルセロナが前半6分にギュンドアンのゴールで先制、前半は優勢に試合を進めていた。
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バルセロナのフォーメーションは4-2-3-1でスタートしているが、実質はカンセロとバルデがサイドの幅を取る3-4-2-1。ジョアン・フェリックスとともに2シャドーに入ったフェルミン・ロペスは20歳の若手である。ギュンドアンとボランチを組んだガビは19歳、左ウイングバックのバルデが20歳。
バルデの高いポジションに対して、対面のバルベルデはポジションを下げることになりレアルは5バック化。フェルミンの活発な動きを捕捉するのは難しく、頼みのベリンガムはガビのガツガツした当たりに封じ込まれる。
レアルが形勢を挽回するきっかけは後半に入っての同7分、カマヴィンガの登場だった。左サイドバック(SB)メンディとの交代だったが、カマヴィンガはSBの範疇にとどまらない動きを見せてバルセロナの守備を攪乱。中央や右サイドにも進出して数的優位を作り出していた。カマヴィンガも20歳、運動量とスピードが流れを変える前提になっていた。
そしてベリンガムが2ゴールで試合をひっくり返す。後半23分はワンステップで真っ直ぐ蹴り込んだ強烈なミドル。ロスタイムの逆転弾はカルバハルのクロスをモドリッチが触ってコースを変え、GKの前にこぼれた半ば偶発的なチャンスだったが、そこに抜け目なく詰めて押し込んだ。ベリンガムも20歳。
クラシコは技術レベルが高い。ギュンドアンのボール扱いと判断の的確さはバルセロナに落ち着きを与え、格の違うMFであることを示していた。クロースやモドリッチも相変わらず正確なプレーぶりは素晴らしく、そのためプレミアリーグに比べると静的で迫力はないかもしれないが格調の高い試合にはなる。ただ、ゲームを動かしたのは若手のエネルギーだった。
逆転の2発を叩き込んだベリンガム、大久保嘉人が得意としていた形を完璧に実行
この大一番で同点、逆転の2発を決めたベリンガムの存在感が凄い。
1点目のミドルシュートはほぼ真っ直ぐのアプローチで、かつてJリーグで大久保嘉人が得意としていた形に似ていた。大久保がこれを会得したのはベテランの域に入ってからで、ボールの芯を捉える感覚が根底にある。真っ直ぐのアプローチで左右に蹴り分けるには筋力だけでなく、芯を捉える、芯からずらす能力が必要なのだが、20歳のベリンガムが完璧に実行していた。
2点目はこぼれ球を押し込んだものだが、ベリンガムはこういう得点が多く、「そこ」に必ずいることが大きい。ゴールの匂いを嗅ぐとよく言うが、MFとして広範囲に動いているベリンガムが「そこ」へ行けるのは並外れた運動量があるからだ。
動けるけれども技術が足らない、技術はあるけれども力強さがない。若手にありがちな不足だが、クラシコでの若手選手たちは技術が高く動けて意欲が高く、それがゲームを動かしていた。ハイブリッドな若い選手たちがフィールドを支配し始めた象徴的な試合だったかもしれない。
西部謙司
にしべ・けんじ/1962年生まれ、東京都出身。サッカー専門誌の編集記者を経て、2002年からフリーランスとして活動。1995年から98年までパリに在住し、欧州サッカーを中心に取材した。戦術分析に定評があり、『サッカー日本代表戦術アナライズ』(カンゼン)、『戦術リストランテ』(ソル・メディア)など著書多数。またJリーグでは長年ジェフユナイテッド千葉を追っており、ウェブマガジン『犬の生活SUPER』(https://www.targma.jp/nishibemag/)を配信している。